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28 干物に水をください…

黒曜咲の言葉が不吉だ。

三年間干物女決定。

やっと看護学校に合格して、さあこれから! ってときに三年間干物?

武尊は「卒業までは伴侶を強制しないと約束してくれた」っていったけど、それって、三年間彼氏なしですごして、その後白翼種と結婚しろって意味だったの? 


頑張って看護師になるのだ。その後は当然、日本で世の為、人の為、金の為! に看護師としてシッカリ働いて、もとをとるに決まっている。もちろん伴侶も日本に住んでいる人がいいに決まっている。三年間干物でいる理由は、私にはない。本人に頑張る意志があれば干物にはならないはずだ。


だいたい希少だか何だか知らないけど、白翼種といっても大空を飛べるわけじゃない。せいぜい神社の野生化した鶏程度に木からバサバサ飛び降りるのが関の山。羽を出して生活していると、羽が飛び散って掃除が大変になるばっかりでメリットがない。


夏休みが終わり、学校が始まった。

羽はちゃんとしまえるようになったし、カラスが襲ってくることもないし、天狗殿も現れないし(黒曜咲が阻止しているらしい)、とりあえず平和な毎日だ。メールでお父さんのロベルトさんや、弟のレオナルド君と英語で! やりとりをして、エルベエさんからのメールは難しすぎて読めないので放置で、看護学校行って、日々看護師の夢へ近づいていくのを実感して、パン屋でバイトして。毎日充実しているはずなのに、何かが足りない。


パン屋でバイトしていても、ご飯党の武尊はパンはあまり食べないだろう、とか、メイド服っぽいエプロンつきのバイトの制服が可愛いけど、武尊がみたら何ていうのかなとか、気が付くと武尊の事ばかり考えている。武尊のいなかった頃の毎日を思い出そうとするけれど、上手くいかない。たった2か月前のことなのに。


黒曜咲の話では、武尊は本部から私と直接会うことを禁止されている上に、私の干物計画に加担しているらしい。いろいろ話も聞きたいし、文句もいいたいし、武尊に会いたい。武尊はどうしちゃったんだろう? いつもの山寺に行けば会えるのだろうか? 会いに行ったら迷惑だろうか? しばらく考えていたけれど、えーい、考えるのめんどくさい。会いに行っちゃえ。


学校が休みでバイトの無い日、自転車で山寺に向かった。

現付でもだいぶ時間がかかったのに、自転車で山の坂道はキツイ。

途中、自転車からおりて押して歩いた。


疲れて息があがった頃、山寺が見えてきた。


家の方はシンと静まり返っていて誰もいる気配が無い。

お寺のお堂の方は、と思って足を向けると、お堂の中からあそぼお化けが飛び出してきて、胸に飛び込んできた。


「あそぼお化け!」


あそぼお化けの背中をナデナデすると、フンフン鳴きながら甘えてくる。

そか、今まで毎日のように遊んでいたのに、私が突然いなくなっちゃって、とっても寂しかったんだね。ごめんね。


「よし、久しぶりに競争する?」


いつもの場所からバケツと雑巾を持ってきて聞くと、あそぼお化けは勇んで 競争する! といった。

お堂に上がると、ヨーイドンでお掃除開始。あっという間に(あそぼお化け9割、私1割)お掃除終了。


「あそぼお化けも洗ってあげるね」


お掃除終了後、いつものようにごしごしとあそぼお化けを洗っていると、武尊のお父さんの住職さんが帰ってきた。


「おや、空ちゃん来ていたのかい? お堂の掃除までしてくれたのか。こりゃどうもありがとう。こっちでお茶でも飲んできな。檀家さんからおまんじゅうをいただいたから、一緒にどうだい」


「はい。……あの、武尊……さんは?」


あそぼお化けは私にくっついて、離れようとしない。


「武尊は私のかわりに保存委員会本部に勤務することになったんだよ。だから、一年向こうにいるよ。寺が忙しい時期は、ちょくちょく帰ってくると思うけどね」


にこにこしながら武尊のお父さんがいう。

そか。

武尊、日本にいないのか……。

なんだか力が抜けた。


「まんじゅう食べないのかい? 甘い物好きだったろう?」


お茶とまんじゅうが目の前に出てくる。



空へ

お手伝いありがとう。

冷蔵庫に空の好きなまんじゅうと琵琶が入っている。

仕事に行ってくる。

武尊


出かけるときは、いつも達筆のメモを置いていった武尊を思い出し、おまんじゅうを見ながら、寂しくなった。あそぼお化けがフンフン鳴きながら私のまわりをグルグル回っている。


「空ちゃん?」


「おいひいです」


なんか目から水が出る。それでもまんじゅうは美味しかった。

私が帰ろうとすると、あそぼお化けがフンフン寂しそうに鳴いて困った。


「また来るから。また一緒に遊ぼうね」


そういうと、しょんぼりと座ってゆらゆら長い尻尾を揺らした。


「空ちゃん、いつでも遊びにおいでよ。困った事があったら、必ず連絡するんだよ」


住職さんに見送られ、山寺を出る。

帰り道は下りなので、行きよりは楽だ。

でも、帰り道の方が気分は沈んでいた。



干物女を回避すべく、地味にオシャレして、一応頑張ってはいる。でも、武尊はいないし、学校は男子があまりいないし、パン屋の客も女性ばかりだし、恋愛に関してはだんだん干物に……はあ、これでは駄目だ。敵? の思うつぼだ。


ちょうどそんな時、合コンに誘われた。

「空、合コン出てくれない? 4対4で頼まれているけれど、女子三人しか集まらなくて」

看護学校の友人に頼まれ、二つ返事で引き受ける。よし。合コンに出ている限り、干物女とは呼ばせないぞ。


当日、それなりにおしゃれして待ち合わせ場所にいった。

あれ? もう女子4人いるんですけど……。

3人は合コンに出る予定の子だけれど、あと一人見知らぬ美人さんがいる。……なんか嫌な予感。


「あれー、空どうしたの? 空は今日用事があるっていってたじゃん。かわりに玉枝ちゃんが来てくれたんだよ」


合コンに誘ってくれた子が言うけれど、用事があるなんて、私はいってない。それに玉枝ちゃんってだれ?


「玉枝ちゃんって?」


「同じクラスの玉枝ちゃんじゃん」

「空、玉枝ちゃん忘れたの? ボケた?」


そんな子、同じクラスにはいない。……ちょっとみんなどうしちゃったの??

ビックリしていると、玉枝ちゃんが私を見てニヤリと笑い、私の耳元でいった。


「ゴメンね。黒曜姐さんに頼まれちゃったの。空の合コン阻止しろって」


黒曜姐さんって黒曜咲のことだよね。ってことは玉枝ちゃん、狐組か。妖術でも使ってみんなを化かしているのだろうか。

人を合コンから外すために妖術まで使っちゃうの? 

集まった男子達は美人な玉枝ちゃんを見て喜んでいる。

席も予約してあるし、今更5対4でお願いしますともいえず。

ひきさがるしかないじゃん。うー。


初の合コン出られなかった……。


そんな具合に人生の大部分は充実しているものの、色恋に関しては邪魔が入りまくった。妖狐である黒曜咲本人は多忙らしいが、その手先の狐組が活躍してくれる。保存委員会本部の命令なのか、武尊が一枚かんでいるのか、黒曜咲オリジナルのイジワルなのか、全貌がつかめないまま、ジワジワと私の恋愛やる気水分は抜け、干物化していった。誰か水をください。



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