13 さとがえり
「空は、怖いと羽が消えちゃうんだな」
武尊は担いでいた私を下に降ろし、背中をみて笑っている。
情けないことに、天狗殿の「焼き鳥にするんですよ」発言で、羽が消えてしまった。
まさにチキンである。
「そういえば、荷物を取りに家に帰りたいといっていたな。羽も消えていることだし、今のうちに取りに行くか?」
武尊に言われて思い出した。
自宅に着替えなどをとりに行きたかったのだ。女子として、武尊のぱんつをはくのは、もう我慢の限界だった。
「行く!」
そういうと、武尊はTシャツにジーンズというラフな格好に着替えてきた。足が長いからジーンズは似合うけれど、頭があれなので微妙に怖い。
「原付で行くの? 女子と2ケツは不味いんじゃないの?」
「いや、車で行こう。古いポンコツ車だけどな」
原付しか持っていないと思ったら、車もあったのか。
家の隣に小さな倉庫のような建物があり、そこにちんまりと可愛い車がとまっていた。確かに古いけれど、大事に使われているようで綺麗にしてある。
二人で車に乗ると、なんだかデートみたいだ。
デートみたいだね、といったら、ばーかといわれた。
ばーかですか。ばーかですよ。どうせ。
車だと、家まですぐだ。
「一時間くらいあればいいか? また迎えにくる。何か困ったことがあれば、すぐに連絡しろ」
そういって携帯の番号を教えられた。
我が家に帰るのはすっごく久しぶりの気がする。
実際には一週間も経っていないのだけれど。
家のパソコンのメールを開けると、母からメッセージが届いていた。
『困ったことがあったらいつでも連絡しなさい』
困ったからSOSの電話したのに、電話切ったのはどこの誰よ?
『ちょっと空のことが心配だったので、お盆に日本に帰ろうと思ったら、航空チケットが馬鹿高くてビックリしたので、もうちょっと後に帰ろうと思います 母より』
血をわけた娘がこんなに困っているのに、ちょっと心配? いっぱい心配しようよ!
お盆に帰る? 今すぐ帰ってこーい!
と思ったけれど、お盆に帰ろうとしただけでも母的には偉い。羽の生えた異形の男と出会って、すぐ付き合っちゃって、子供作っちゃって、ジョーハツ(追放)されちゃっても子を産み育てたしぶとい母だ。今更ちょっとやそっとの事じゃ驚かないし、動じないのだろう。しかし、航空チケットが高いという理由で娘に会うのを延期するのかね。するのだね。お金大切だもんね。
「あなたの娘なので、大丈夫です。いろいろ衝撃の事実がわかりました。今度会うときに教えるので乞うご期待! 旦那によろしく」
と、とりあえず返信しておいた。
可愛いぱんつ!
可愛いぶら!
可愛いすかーと!
ボストンバッグにどんどん詰める。
しかし、武尊の所に帰る必要、あるのだろうか?
いや、やっぱりまた羽が生えてきたら困るし、天狗殿が来たら怖い。ご飯も美味しいし。
護符も作ってもらったけど、あんまり当てにならないし。寺の関係者です、くらいじゃ生ぬるい。俺の女に手を出すな!触ったらコロス!くらいの護符じゃないとねえ。
ボストンバッグいっぱいに荷物を詰めて、外に出た。
今は羽が消えているけれど、つい人目が気になってキョロキョロ&コソコソしてしまう。別に悪い事しているわけじゃないけど。
「お待たせ~。なんか、不倫旅行に出かける妻の気分♪」
ボストンバックを後部座席放り込んで、助手席に座る。
「くだらない事いってないで、シートベルトをしめろ。ところで、パスポートは持ってきたか?」
急に冷水をかけられた気分だ。
パスポート。
実は、持っている。母が海外に行くことになったとき、一緒に作ったのだ。でも、持っているなんていったら、海外に追い出されるかもしれない。
「パ、パスポート? そんなものは持っておりませんですことよ」
素知らぬ顔をして、嘘をつく。
「あるなら、取ってこい」
武尊はため息をついていう。
速攻でバレたようだ。なぜだ。
「えと。はい。でも、ワタクシには必要ありませんが……」
「お前、仲間に会ってみたいとは思わないのか?」
たたみかけるように武尊はいう。
仲間、といわれましてもね……。
羽の生えた人だよね?
生憎、唯一会った羽の生えた人が天狗殿だ(実際には羽をみていないけれど)。
印象は最悪だ。
「うーん」
「|絶滅危惧種保存委員会ヨーロッパ本部は、お前を引き取りたいといっている。仲間にも会わせたいといっている。お前の父親も探してくれている」
仲間といわれても、見ず知らずの人だ。
父親だって、そんなに簡単にわかるものだろうか?
それに、探し当てたところで、その人にとってはすっごく迷惑かもしれない。
イタリア国籍の俳優のような美男子のお父さん。
……やっぱりピンとこない。
なんだかんだいっても、私の父親だし。
昔はちょっとくらいイケメンだったかもしれないけれど、今は年とって、メタボでハゲなオジサンになっているかもしれない。
いや、きっとそうだろう。
私の脳内をハゲでメタボで天使のお父さんがピヨピヨ飛びまわった。
やっぱり、ちょっと会ってみたいかもしれない。
なんだか、まだ見ぬ父が恋しくなってきてしまった。




