14 親子1
平穏な日がしばらく続いていた。
あそぼお化けと一緒に掃除したり、武尊の手伝いをしたり、まだ見ぬ父親の事を考えたり。
天狗殿の「焼き鳥にするんですよ」発言がトラウマになったのか、ケンタッキーのカー○ルおじさんを見ると背中がゾクゾクする。でも、そのおかげで羽の出し入れのコツが少しずつわかってきた。カー○ルおじさんを思い浮かべると羽が消えて、チキンラーメンのお尻ふりふりヒヨコ踊りを踊ると、羽が出てくる。どうしてっていわれても、よくわからない。
ヘロヘロと高い所から飛び降りられるようになったし、家事手伝いも結構褒められるようになってきていた。武尊にちょっと褒められただけで、すごく嬉しくなってしまう。私は、どこかで父親の面影を武尊に求めてしまっているのかもしれない。
・・・・・・・・・・・・・・・
今日の武尊は、びしっとスーツを着ている。どこかへお出かけらしい。
しかし、このスーツ姿は怖い。もともと眼光鋭い人だけど、スーツをきちゃうとそれが際立ってしまう。
「サングラスで目を隠した方がいいかも……」
そう思ってサングラスをかけさせてみたけれど、更に怖くなっただけだった。
武尊は意外とオシャレさんで、サングラスや、帽子の類をたくさん持っていた。剃髪した直後は何となく抵抗があり、いろいろな格好を試してみたそうだ。恰好つけたい盛りの男がいきなり髪を失うのは、辛いことだったのかもしれない。
「帽子をかぶせれば、ちょっとはマシになるかなあ」
いろいろな帽子をかぶせたりして楽しんでいると、武尊が時計をみて立ち上がった。
「着せ替えごっこは満足したか? 時間がないから、もう行くぞ」
私の頭をポンポンと叩くと、せっかく頭に乗せたパナマ帽とサングラスをポイポイはずして、車で出て行ってしまった。
スーツを着こんで何処へ行くんだろう? 今日は何処へ行くとも言ってなかった。
怪しい。もしかしたら、彼女とデートかもしれない。原付じゃなくて車だったし。
もし、そうだったら……。そうだったら、なんだ?
まあ、別にどうでもいいか。
デートにしては早い時間に武尊は帰ってきた。
車の止まる音に続き、複数の男の声がした。
あれ? 誰かと一緒なの? 私は耳をそばだてた。
声の一人は武尊だが、何を言っているかさっぱりわからない。
外国語を話しているのだ。
まさか、保存委員会の人間が私を引き取りにきたの?
酷い。私に何も言わず、勝手に連れてくるなんて。
武尊に裏切られた気分だった。
「ただいま。空? いないのか?」
武尊が帰ってくるときは、いつもはパタパタと玄関までお出迎えするが、今日は隠れる。
いませんよー。
「空、いろいろ気持ちはわかるが、話だけでも聞かないか?」
ヤダヤダヤダ。
それ以前に、英語なんかわからないって。
机の下に隠れる。
「空、出ておいで」
武尊が机の下の私を見つけ、ひっぱり出そうとする。
「ソラ、○×▽◆◎」
外人の声がする。無視、無視!
「空、何とかいったらどうなんだ」
武尊がため息をついていう。
「自分は言語鎖国により、他国による文化的侵略を防衛しているのであります」
だから、侵略者をおっぱらってくれ。
「……英語がわからないってことか?」
眉根に皺をよせ、机の下の私を覗き込む。
「……そうともいいます」
机の脚にしがみついていたら、突然、可愛い少年の声がした。
「ソラ!」
「え?」
思わず机の下から顔を出したところを、武尊に引っ張り出された。
「英語がわからないなら、早くいえ。っていうか、隠れるな。こちらは、空のお父さん。それからこの男の子は空の弟。母親違いのな」
そこには、モデルか? と思うような伊達男と、美少年がいた。
てっきり、保存委員会の人が私を引き取りに来たのかと思っていたのに。私は口をあけたまま、しばし呆然と2人をみていた。
キラキラした目で私を見つめる8歳くらい?の可愛い少年。
髪は金髪、目は柔らかな薄茶色、まつげがいっぱい。
こ、これが私の弟?
これは詐欺でしょう。何がどう詐欺なのかよくわからないが。
そして……。
これが……、外人で人外のお父様?
こちらも詐欺でしょう。血のつながりを感じません。
敢えて言うなら茶色の髪か。でも、茶色の髪なんて日本中みんなそんな色だし。
それより、俳優ですか? イタリアブランドのモデルですか? 今から町へナンパに行くのですか? 両手を広げて待っているという事は…その腕の中へ飛び込めということでしょうか?
無理!
どうみても赤の他人だから。
「我が娘よ!」
「あねうえー!」
あー、何いってるかさっぱりわかりませーん。
「空、なんとかいえよ。今度は日本語で攻めてきたぞ」
武尊が耳打ちしてくる。
ああっと、日本語でしたか。
って、日本語しゃべれるの?
そーいえば母はこの前まで日本語しかしゃべれなかった。今もたぶんしゃべれないけれど。
「ええと、父上? 我が弟?」
とりあえず、突っ立ったまま、言ってみた。
突然のことで、何言っていいか全然わかんない。
「父上」の広げた両腕を無視し、「我が弟」が私との間合いを詰め、思いっきり抱きついてきた。
広げた両腕をもてあまし、若干がっかり顔の「父上」。
そして、私に抱きついたまま、がっかり顔の「父上」の方をふり返り、ニカリと笑う「我が弟」。
…弟、もしかして、ちょっと性格悪いのか?
「ごめんね、ソラ。英語はわからなかったんだね。会えて嬉しいよ。こんなに大きな娘がいたなんて、つい最近まで全然知らなくて。本当に感動だよ。夏美は元気?」
めちゃくちゃ流暢な日本語だ。
感動の親子の対面なのかもしれないけれど、今一つピンとこない。
父上の声に負けじと、弟が私に抱きついたまま大声でいう。
「こんなにキュートなあねうえがいて、僕、幸せ!」
弟は私にウインクをよこす。
随分とノリの軽い弟だ。
このぐらいの年なら、母親の違う姉がいるというと、悩んだりしちゃうのが普通ではないだろうか?
「それにしても、日本語上手いね。我が弟よ。」
とりあえず、あたりさわりのないことを言ってみた。
「ウン。父さんが日本語教えてくれるの。父さんは日本語とイタリア語の語学教師なんだよ。語学は子供のうちからやった方がいいんだって。友達が、日本にいけばモテるっていっていたけど、本当?」
「……」
アンタは日本に来なくたってモテモテでしょうが。
日本はモテるどころか、恐ろしい危険地帯なんだよ。
こんな危険地帯に、子供を連れてくるなよ、父上。
それにしても流暢な日本語だ。かなりの情熱を持ってお勉強したようだ。
「父上」と「我が弟」は神野武尊の家に泊まり、私を説得するつもりで来たらしかった。




