15 親子2
「父上」はいろいろ教えてくれた。
「父上」は正真正銘の私の父親で、「鳥人間」という種族になるらしい。
宗教上の「天使」と区別する意味で、正式には「天使」とは呼ばないそうだ。天使っていうと、清らかで可愛いイメージだけど、鳥人間ってなんだかねえ。
分類は至って簡単、羽が生えれば鳥人間、そうでなければ人間。
両親とも鳥人間の場合はほとんどが鳥人間に、片親の場合は50%の割合で鳥人間になるという。生まれてすぐ羽が生える子も、成人間近になって羽が生える子もいるらしい。
井上夏美という日本人の人間の生んだ子が鳥人間になった、という情報がヨーロッパにある絶滅危惧種保存委員会の本部に流れただけで、すぐに「父上」ことロベルト・ガッロ氏が犯人として捜査上に浮かび上がり、父親として出頭? することになったそうだ。日本に渡航歴のある鳥人間自体、ほとんどいなかったのだろう。
ヨーロッパの絶滅危惧種保存委員会が保護している生物は多岐にわたるが、中でも鳥人間(白翼種)は比較的多く生息しているらしい。日本では、翼を持った生物は、妖怪の「天狗(黒翼種)」に分類されており、こちらは絶滅寸前とのこと。
……ほんまかいな。
すこし前なら、そう思った。
でも、羽が生えちゃった今はそうもいっていられない。
ロベルトさんはイタリア人で、今はイギリス人の鳥人間と結婚して、イギリス在住だという。鳥人間の国際結婚は極めて多いそうだ。そして、その子供が美少年レオナルド君。レオナルド君も鳥人間。
ロベルトさんは、是非、イギリスで一緒に暮らそうといってくれている。
奥さんも大賛成している、とのこと。なんか、すごく複雑な気持ちだ。
鳥人間(白翼種)は国を越え、種族同志助け合って生きてきた麗しの歴史があるらしい。
ふーん。
それなのに、天狗は私を殺そうとしたわけね。
武尊は私を追い出そうとしているし。
「ソラ、私もレオナルドも日本語が話せるし、心配いらないよ。是非、イギリスにおいでよ。仲間がいっぱいいるよ」
俳優のような笑顔でロベルトさんに言われ、つい頷きそうになる。
「ソラ、僕と一緒に学校行こうよ! 困ったときは僕が助けてあげるよ!」
天使のような笑顔でいうレオナルド君。お姉さんは小学校も中学校も高校も卒業したのだよ。
武尊は何も言わない。
私がチラリとみても目を逸らしてしまう。
目を逸らされただけで、胸がくしゃりとつぶれるような気がする。
なんなんだろう、これ。
暫くして、武尊が助け舟を出すように言った。
「夏美さんにも相談しなければならないし、今すぐイギリスへ行くのは無理だろう。とりあえず、この寺にいれば安全だから、英会話を少し勉強してからイギリスへ行った方がいいかもしれないな」
「う……ん」
私はイギリス行くなんて、一言もいってないけど。
英会話が出来るようになる日は、100万年経ってもこないと思うけど。
「そういえば、夏美は? 怒っているのかな、僕のこと。あのときは、空がお腹にいるなんて知らなかったし、別れるのが夏美のためだと思ってしまったんだ」
少し寂しそうにロベルトさんがいう。
「母は……怒っていないと思いますけど、結婚したんです。今は旦那さんの仕事の関係で、アメリカに移住してしまって。しばらく帰ってこないと思います」
私が言うのをロベルトさんはじっときいている。
そのロベルトさんの薬指には鈍く光る指輪が馴染んでいる。今の奥様との結婚指輪だろう。
「そうか。夏美は、幸せに暮らしているんだね」
ロベルトさんは静かにいった。
「……はい」
答えながら、淋しくなった。
ロベルトさんはロベルトさんの家庭を持ち、母は母の家庭を持ち、私だけが取り残されてしまったような、そんな気分。
武尊からも日本から追い出されそうで……。
・・・・・・・・・・・・・
武尊とロベルトさんが一階の和室で、レオナルド君と私が二階の和室で寝ることになった。
ロベルトさんとレオナルド君は浴衣を着て喜んでいる。お互いに写真を撮ったり、私の写真を撮ったり、サムライゴッコをしたり、完全に観光客のノリだ。
そんな2人をみながら武尊は静かにお茶を飲んでいた。
「……いい人そうだな。安心したよ」
武尊は微かに笑ってそういった。
二人はサムライゴッコに夢中だ。「姫、お助けを~」とかいいながら私に手をふっている。どこの世界に姫に助けを求めるサムライがいるんだよ。内心突っ込みをいれながら手をふりかえす。ロベルトさんは、確かにいい人そうだ。無邪気というか、悪い人には絶対みえない。
天国にいると思っていた父親に会えて、しかも、それがびっくりするくらいハンサムで優しそうな人で、その上可愛い弟までいて。私は確かに幸せ……なのだと思う。
「……どうした?」
黙り込んでしまった私の目をのぞき込むようにして武尊がいう。
「武尊は、お父さんも弟もいい人だから、私がイギリスに行っちゃえばいいって思うの?」
武尊はじっと私を見たまま、何もいわない。
でも、長い沈黙を破ったのは、武尊ではなかった。
「ソラ、一緒に寝ようよ~。眠い」
我が弟、レオナルド君が抱きついてきた。思う存分サムライゴッコをやって、つかれたらしい。
「はいはい。二階に行こうね」
「うん」
レオナルド君は満面の笑みで答える。
弟か。なんだか不思議な感じだ。
「ソラ、一緒にイギリス帰るんだよね? ママも是非来てくださいっていってたよ。ママは料理が上手なんだよ」
イギリスの料理は不味いってきいたけど。
それより、ロベルトさんの奥さんってどんな人なのだろう?
旦那さんに子供がいたって聞いて嫌じゃないのだろうか?
ましてや、一緒に暮らそうだなんて。私の存在が知れて、まだほとんど日が経っていないはずなのに、随分と出来た人だ。
スヤスヤと寝息をたてる弟を眺めながら、いろいろ考えてしまう。私はどうしていいのか、よくわからなくなってしまった。




