4:前世との決別♥♦
(2545字)
♥♥♥
私は今、牢屋に入れられている。
なんでなの?
だって可愛いって最強じゃなかったの?
可愛ければ皆が私を大事にしてくれるはずでしょ!
どんなに叫んでも、ここには誰も来ない。
いえ、両親が一度だけ来たわ。
処分前の温情ですって。
「お前は一体・・・どうしたのだ?皆がお前を大事にしてきたではないか。・・・・今思えば・・・お前が一命を取り留めたことで、我々が甘やかしすぎたのかもしれない。我々の・・・責任は大きい。・・・・だから・・・我々もお前と一緒に行く。これを・・・・飲みなさい。せめてもの・・・殿下からの温情だ。これで兄たち二人は・・・助けることができる」
両親は泣きながら、私に小瓶を手渡した。
母は、声を出すのもやっとの状態で、鏡と櫛を渡しながら言ったわ。
「アイリス、せめて可愛い貴女が可愛いままでいけるように・・」
両親の涙が、私の罪悪感を抉ったわ。それでも私は涙が出なかった。今聞いた話にムカついていたわ。
ダイアナがルーク殿下の婚約者に選ばれたこと。
ずっと前から両想いだったこと。
ダイアナが公開処刑を望まなかったこと。
私は7歳で亡くなったことにされること。
父があの日に私に話そうとしていたのは、学園から授業態度について注意があったこと。
別の侯爵家へ嫁ぐ話。
殿下の婚約者の名は伏せられたまま、内定したということだけは各家に伝わっていたみたい。
もうどうでもいいわね。
両親が置いていった小瓶と鏡と櫛を眺める。
なんで今さら鏡と櫛?
我が母ながらバカみたい。
でも、最後に可愛い私を見るのも悪くないか。
私は櫛で髪を梳かしてから、鏡を見た。
やつれているけど相変わらず可愛い。
そういえば、階段を落ちていくときに見たダイアナの表情・・・前世の私が突き飛ばされて落ちていく表情とそっくりだったわね。
・・・・・・・・・。
もう一度、鏡をよく見る。
・・・・・・・・・。
私、前世で自分がどんな表情していたのか、全部知っているわ。
─────────!!!
んふふふっ。
あははははっ。
あははははははははっ。
バカみたい。
・・・・・ごめんね、この世界の家族。
私は、人を二回突き飛ばした手で小瓶の蓋を開けると、一気に中の液体を飲み干した。
♦♦♦
あの日から学園はしばらくお休みになりました。
わたくしは、今王城の一室で殿下を待っています。
その間、わたくしはいろんなことを考えていました。
前世のわたくしは、自己肯定感がとても低かった。
自分の意志とは関係なく、周囲にたくさん人が集まってきて勝手に評価される。
見た目だけで、困ってもいないのに手伝われてしまう。
違う、本当の自分は何でも自分で思い切りやりたいの。
そう思って行動を起こそうとしても、今度は女の子に睨まれてしまう。
”どうせフリでしょ”
”サバサバぶらなくていいのに”
悩みすぎて眩暈をおこしたこともあった。
でも彼女だけは、わたくしのことを理解してくれていた。
唯一無二の親友。
彼女も、格好いいと言われ皆から憧れられる自分と、可愛いものが大好きで甘えん坊の部分もある自分との間で揺れていた。
アイリス様を見た時、前世の自分が甦ってきました。
こんなに可愛かったら、前世のわたくしのようにきっと生きづらいに違いないと思いました。
だから、今度はわたくしが、アイリス様にとっての彼女のような存在になろうとしたのだけど、それがあんなことになるなんて。
わたくしは愚かでした。
誰かに自分を投影したり、自分は誰かと同じ役目ができると考え違いをしていました。
アイリス様は、わたくしではありませんでした。
それにしてもアイリス様の最後に見たお顔は・・・・・。
ズキッ。
前世の記憶は、わたくしを突き飛ばした人の顔を見ながら落ちていくところで止まっていました。それ以上考えようとすると、頭に痛みが走ります。きっとこれ以上は考えてはいけないということなのでしょう。
「ダイアナ、また思いつめた顔をしているよ」
「殿下、申し訳ございません。わたくしったら、しなければいけないことがたくさんありますのに」
部屋に入って来られたルーク殿下は、首を振ると優しくおっしゃいました。
「あんなことがあったんだ。そんなにすぐに切り替えられるものじゃないよ。僕たちは学生だし、時間はまだあるよ」
いつまでも暗い顔をして、ルーク殿下にご心配いただくわけにはいきません。
「大丈夫です。わたくしは”か弱く”はありませんから」
「か弱くない・・・そうだったね。・・・・・あの時の僕は君に失礼だったね」
「殿下のあの時の状況なら、仕方がありません。それに殿下の言葉で傷を隠す必要はないと思えたので、わたくしにとっては、とても良かったのです」
放課後の図書館で、殿下に長袖について触れられたとき、わたくしは自分の袖をめくり、昔ケガをしたことと、今の状態についてお話しました。傷は見たくない人もいると思うので、見せないようにしているのだとお伝えしました。
殿下は傷を見ると、それまで纏っていた張り詰めた空気がなくなり、率直にお話ししてくださいました。
「一方的に突っかかる言い方をして申し訳なかった。ここのところ、偶然を装った令嬢たちの振る舞いに頭を痛めていたので、ついまたかと思ってしまった。本当にすまない。・・・傷については、隠そうと考えるのはわかる。でも、僕個人としては、傷の有無で相手に向ける目を変えようとは思わない。僕の立場に近寄る人がいても、遠ざかる人がいても僕自身が変わらないのと同じことだ。傷があってもなくてもその人自身は何も変わらないのだから」
「・・・・・」
「それに──もし傷に価値を委ねたら、大事なこの国の騎士たちを否定することになってしまうよ。・・・・・・・フッ、それにしても、君は見た目によらずお転婆なんだな。木から落ちるなんて」
殿下の考え方をお聞きしてから、半袖も堂々と着るようになりました。
「あの時、君に声をかけて良かったよ。君と話しているうちに、知らない間に肩に力が入っていたことに気付かされた」
「殿下にそう言っていただけて光栄です」
「・・・ダイアナ、忘れてないかい?二人の時は、僕のことを名前で呼ぶ約束だっただろう」
「あっ・・・・ルーク様」
顔に血が上ってくるのを感じます。
殿下を名前で自然にお呼びすることは、わたくしにはまだ時間がかかりそうです。




