3:前世との決着♥♦♥♦
(3141字)
♥♥♥
「ああっ!!」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
私は嫌な夢をみて、目が覚めた。突然ガバっと起き上がったので、私の専属侍女がびっくりしている。
「なんでもないの・・・汗を拭きたいの。タオルをお願い」
今見た映像は、今までのものとは違ったわ。甘い学園生活ではなかった。
─────私が誰かに突き飛ばされて、階段を落ちていく映像
驚きから恐怖に表情を変える私
怖い!
どうしたらいいの?
走った後のように心臓がドクドクしている。
私は、服の胸のあたりを握りしめた。
その日は、学園に行っても落ち着かなかった。こんな時に限って、お父様に今夜こそは大事な話をするからと言われてしまったし。いつもは、『学校の課題で忙しいの』と言えば見逃してくれたのに。
あら!ルーク殿下だわ。
ルーク殿下を見ると、どんなときでも心がときめくわね。
でも、珍しくダイアナと話しているわね。ダイアナが殿下に本を渡している。生意気ね。
そうだわ。いいこと思いついたわ。
ここ最近、私以外の女の子たちはルーク殿下のことを諦めたみたいだけど、肝心のルーク殿下が私に、はっきりと言ってくれていない。ルーク殿下も私と同じ気持ちなのは確かだわ。殿下が私を守りたくなる決め手が必要よね。
だからダイアナ、貴女に大事な役目をさせてあげる。どうせ貴女は、その傷じゃ高位貴族に嫁げないんだから、私の役に立ってもらうわよ。
♦♦♦
「ああっ!!」
「ダイアナ、どうした?大丈夫か?」
「お兄様、また前世の記憶が・・・。アイリス様が危ないわ。助けて差し上げないと」
わたくしは、学園に向かう馬車の中で、突然前世の映像が浮かびました。と言っても、瞬間の場面だけで詳しくはわかりません。映像が頭に浮かんだ瞬間、わたくしの心臓は波打っています。
「ダイアナ、無理をするなよ。できる限り近くにいるようにするから」
馬車から降りて、お兄様から本を受け取ると、自分の教室の方へ向かいました。廊下にルーク殿下がいらっしゃったので本をお渡ししました。これは、ルーク殿下がお兄様の小説好きを知り、面白い本があったら貸してほしいとおっしゃったためです。ルーク殿下は嬉しそうに、その場で本を読み始めました。
わたくしは失礼して、教室へ行くために階段を上がります。階段の上には、アイリス様がいらっしゃいます。アイリス様は、笑顔でわたくしを呼んでいます。早くアイリス様を教室にお連れしないと・・・。
アイリス様!できるだけ階段には近寄らないで!
わたくしは心の中で強く念じていました。あと少しで階段を上がりきるというところで、わたくしはアイリス様に声をかけました。
「おはようございます。早く教室へ・・」
「キャ───ッ!!やめて!何するの!!」
わたくしが言い終わる前に、突然アイリス様が叫ばれました。そして階段を数段素早く駆け下りて手すりにつかまったのです。わたくしは、アイリス様が何をされているのか全くわかりませんでした。
ですが、叫び声に集まった方たちに向けて放った言葉で、息が止まりそうになりました。
「ダイアナ様が、ダイアナ様が、私を階段から突き落とそうとしましたの。私、私・・・」
─────!!
わたくしは、目の前で起こっていることのあまりの衝撃に、声を出すことができませんでした。皆様の視線が痛いぐらいに注がれます。
「ああ、ルーク殿下、お助けください」
ルーク殿下もこの騒ぎに駆けつけていらっしゃいました。アイリス様は、弱々しく涙目で殿下に訴えます。殿下は、憐れむような目でアイリス様を見ておっしゃいました。
「フォスター侯爵令嬢をワーグナー侯爵令嬢が階段から突き落とそうとしたというのだな?」
「さ、左様でございます。急に・・」
「──階段を上がって行っている者が、どうやって階段の上にいる者を突き落とすのだ?」
「あっ、あっ、それは・・・・気が動転して、あの、言い間違えました。そのっ、私の服を掴んで下に引っ張ったのでございます」
「無抵抗なところを引っ張られてバランスを崩したということか」
「はい、そうなのでございます。私、抵抗もできずに・・・」
わたくしは、ただただ立ち尽くしていました。踊り場のところに兄とヘレン様が見えます。お二人は、この様子を睨みつけるように見ています。ルーク殿下は、さらに続けます。殿下は、学生としての話し方から王族としての話し方に切り替えています。
「これは殺人未遂ということになる。正確に聞き取りをしなければならない。フォスター侯爵令嬢、噓偽りなく答えよ。ワーグナー侯爵令嬢は、どのように其方を引っ張ったのだ?」
「は、はい。ダイアナ様は、私の腕を掴んで・・・あの手で、右手で、私の腕を強く掴んで引っ張ったのです!!」
「誠に?」
「はい、間違えるはずがありません!」
♥♥♥
ダイアナが真っ白な顔をしているわ。
完璧にやり通せたわ。
皆、ダイアナを冷たい目で見ている。いい気味。いつも私を注意してくるからそんな目にあうのよ。
─────なのに、
聞こえてきたルーク殿下の言葉は、耳を疑うものだった。
「フォスター侯爵令嬢を拘束せよ。虚偽の申告でワーグナー侯爵令嬢を貶めようとした罪でだ」
「なっ、なんでっ・・・」
「ワーグナー侯爵令嬢が自分と同じぐらいの女性を引っ張ることは不可能なんだ。彼女は幼い頃ケガをして、重い本を掴み続けることもできないのだから」
「だから右手ですって。傷がない方の手です!!」
「フォスター侯爵令嬢!・・・いい加減にしないか。君は本当に彼女の友達だったのか?彼女の左腕を見て左手が不自由だと思い込んでいるようだが、痛めたのは右手首だそうだ。・・・・・後は別室で取調官と話してもらおう。連れていけ」
「なっ!殿下!殿下は私のことを・・」
周りの皆が冷たい目で私を見る。私の横にいつの間にか護衛騎士が二人立っている。さっき駆け下りた階段を上がらせられる。一旦、二階の会議室に連れていかれるのだろう。
私が一段上がるたびに皆がサッと避ける。
何なの!これは!どんどん人が避けて、通り道ができる。
あんなに私をチヤホヤしていた男の子たちでさえ目を合わせない。ダイアナは立ち尽くしたままだ。私は階段の上まで来ると、一段下にいるダイアナを振り返った。ダイアナもゆっくりと私を見る。
「どうして・・・」
ダイアナが声に出さずに口を動かす。
そうよ、その顔!
その顔がムカつくのよ!
いかにも清く正しいみたいなその顔が!
護衛騎士は私が大人しく従っているから、手を緩めている。
私は勢いよく振り払うと
────迷わず、ダイアナを力いっぱい突き飛ばした。
「「キャ──────ッ!!!」」
女子学生の悲鳴が一斉に響き渡った。
♦♦♦
「ダイアナ、危ない!!」
わたくしの背中にヘレン様の声が届いた。焦っているのだろう。ヘレン様がわたくしを呼び捨てされている。
!!!
階段から落ちていく瞬間は妙に長くて、冷静だった。
ああ、ルーク殿下、そんな顔をしないで。そんな顔をさせてしまってごめんなさい。
アイリス様・・・・・・・・・・あなただったのね。
───ドンッ!! ダダダーッ。
「ダイアナ!」
ルーク殿下が、慌ててわたくしに駆け寄る。
ヘレン様は、わたくしとお兄様を必死に呼ぶ。あれ?お兄様?
「大丈夫だ。今度はちゃんと受け止めたぞ!」
わたくしの下からお兄様の声がしました。わたくしを助けるために、お兄様は自ら下敷きになったようです。慌ててわたくしはどきました。
「お兄様、ごめんなさい。助けてくださってありがとう。殿下・・・・・わたくし・・」
「ダイアナ、よかった・・・」
ルーク殿下が、泣きそうな顔で私を抱きしめました。
「コホン・・・殿下、まだ公式発表前ですよ」
お兄様が控え目に言いました。
「とにかく・・・間に合ってよかったわ」
ヘレン様が、噛みしめるように言いました。




