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「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第四章 「世界編」―真実の重み

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第四章 第10話 インドラ・ヴァイス戦

次なる魔王対戦。

行きたくないものだが仕方ない。

直人は腰が引ける消極的心構えだが……

今日は魔王対戦の指定日だ。


一度現世に戻る。

すぐに、美沙にまた魔王対戦がある事を告げる。

美沙は、驚いた顔で目を見開いて問う。

「あなた、戦えないんでしょ」

直人は曖昧に頷きながら、

「そうだけど、死なないらしいから…」

と、答えになっていない答えを返す。


美沙は少し怒り顔だ。

「あなた強くないのでしょう。この前言ってた」

「どうして戦わなくちゃならないの」

「止めてよ、そんな危険な事」

だんだん怒気が含まれていく。

紅潮しているのか、額が少し赤みを帯びている。


「対戦受けなければ、門が危なくなるし、勝てばLv上げられる。

 皆ひなの為だ」

嘘ではない。が、望んだものでもない。

「無事に帰る保証は!?」

(今日は拘るな。そうだよな。俺とひな、二人の重さを受けてるんだ。

 心配させてしまってるな……)

直人は即答できないが、

「必ず……帰る」

とだけ言う。

その言葉以外見つからない。


そんな直人を見ながら、

「ひなの熱が下がらないの……」

直人は口を半開きにしたまま暫く固まる。

「……いつから」

「昨日から続いているの。今までこんなに長く無かったのに」


急いでひなを見に行く。

布団で寝ているが、顔が紅潮している感じで、

元気が無さそうだ。

「薬は?」

「飲ませたわ。前はこれで熱下がったのに」

挿絵(By みてみん)


「医者に行こう。すぐ行こう」


取るものも取り敢えず、ひなを抱えて医者に急ぐ。

道中、ひなはぐったりしている。

こんなに心がかき乱されることは今まで無かった。

(やはりマナか)

ひな、ひな、ひな……


小児科は混んでいた。

待合室は心配そうな親たちで溢れていた。

直人たちも、他の親たち同様、

祈るような気持ちで、ひなのほおを撫でて声を掛けながら

少しでも苦しみを和らげるよう、背中をさすり続けた。


やっと順番が来て診てもらう。

色々検査をし、最近の状況を聞かれる。

まさか、「マナが」とは言えない。


先生が小首を傾げた。

「通常の熱さましで効くはずですけどねえ」

「では、少し効き目のあるお薬を出しましょう」

「あと、血液検査もしましょうか」

ひなの嫌いな注射だが、そんな事も言ってられない。

注射の瞬間、ひなが「いたいー!」と反応し、

火が付いたように泣きじゃくる。

宥めながら先生にお礼をし、退出する。

挿絵(By みてみん)


家に帰る頃には、ひなは少し落ち着いた顔つきになっていた。

ベッドに寝かせて、布団を掛ける。

「頑張るんだぞ」と声を掛ける。


「やはりマナが暴れてるのかもしれないな」

「そうよね。それ以外無いでしょ」

「早く俺のLv上げないと」

直人は美沙の目を見ながら、両肩に手を置き、

「対戦で勝てばLv上がる」

じっと美沙を見つめながら、

「行ってくる」


美沙は黙って頷く。

少し目が潤んでいるようだ。

そして、

「無事で帰ってきて」

と絞り出すような声で言う。

「わかった。こちらの時間ではすぐ帰る」

と言い、PCでミュートし、魔王コマンドを押す。



玉座の間では、ミリアが待っていた。

「魔王さま、行きましょう♡」

直人は黙って頷く。

前回貰った「団子」アイテムを持ち、転移陣へ。


ふわっと浮くような感覚の後、

魔王協会に着く。

ヴァルダスの元に向かう。


「いらっしゃいませ、魔王佐倉直人様」

ヴァルダスが出迎える。

隣にナンシーもいた。


応接に案内され、前回のように腰掛ける。

これも前回のように、アリアドネの瞬間ドリンク提供。

何度見ても鮮やかだ。


「ようこそお越し下さいました。

 本日の対戦相手は、『インドラ・ヴァイス』魔王殿、Lv60です」

(Lv60、俺とほぼ同格か)

ヴァルダスは言葉を続ける。

「インドラ・ヴァイス殿は、魔法がお得意のようでございます。

 参考になればと」

(そんなことを俺に?成程、「ワーム」を実践しろということか)

「承った」

「では、行きましょう」

ヴァルダスが先導し、直人とミリアが続く。


前も来た大きな闘技場。

入る前に、ヴァルダスが何やら呪文を唱えた。


三人で入ると、闘技場中央に既に控えている。

その姿に直人は息を飲む。

闘技場中央に立つその姿は、

頭上から、大きく、後ろに湾曲した黒い角が2本。

風になびく白髪。双眸は紫色に光り輝いている。

胸の鎧の中央には紫色の輝く宝石。

紫電を纏う槍を構え、黒と紫のマントが揺れる。

挿絵(By みてみん)


(嫌だ、強そうじゃないか。逃げたい……)


ヴァルダスが無言で中央に立つ。

そして厳かに宣言する。

「魔王対戦、インドラ・ヴァイス魔王 対 佐倉直人魔王。

 では、開始」


二人共じっと動かず、見合う。

別々の理由で。


直人は正直、恐ろしくて動けない。

足が動かせない。

(怖い。嫌だ)

戦いの心構えで負けている。


インドラ・ヴァイスは、ジリジリと微かに動きながら、

間合いを測っている。

そして、探るような鋭い目線を送ってくる。

挿絵(By みてみん)


直人が動く。

と言っても、懐から”団子”を出し使う。

以前ミカゲから聞いたように、地面に叩きつける。

瞬間、目の前に光の壁が現れ、直人の周囲を覆いつくす。

まずは防御だ。


インドラ・ヴァイスは少し構える。

団子の効果を測っているような様子だ。


そして、動く。

術式を展開し、結界を張り、強化魔法も掛ける。

掛け終わったと思った瞬間に凄まじい勢いで突進し、

直人を槍で突いてくる。


直人は一瞬怯むが、

シズクと鍛えた”逃げ”は慣れたものだ。

生存率を上げる逃げは最重要とのことで、

特訓に特訓を重ねた。

反射で槍をかわす。

時々結界に当たり、カンと音が聞こえる。

挿絵(By みてみん)


二突き、三突きとかわすと、

ヴァイスは少し下がり、術式を唱え、

火球を作りだす。


直人はここで動く。

イメージする。

嫌だが、虫たちを想起する。気持ち悪い……

その虫たちのイメージをスコープでヴァイスに向け放つ。


火球の準備が出来ていたヴァイスが驚愕する。

直人が何かの動作をしたとたんに自分の結界が崩れ、

侵食されていく。

結界に穴が空いた。さらに効果は無くなっていく。


「貴様!何をした!」

(俺の結界が食われていく。まずいぞ……)


遠くでこの様子を見ていたヴァルダスと、

いつの間にかそこにいたミカゲが、二人で顔を見合わせ頷く。


ヴァイスは、構わず火球を直人に向け放出する。

当たった。が、団子結界で霧散する。

全く効果が無い。


もう一度火球を作るが、

直人が再度スコープを当てて虫を送り込むと、

今度は火球も小さくなった。


直人は

(攻撃魔法にも有効なのか)

と、バグとの相違を理解する。


ヴァイスは驚愕する。

しかし、気を取り直して、

また槍の攻撃に移る。

しかし、何度突いても、払っても逃げられる。

たまに当たっても、団子防御で傷すらつけられない。


そして、今度は目にも止まらぬ速さで術式を唱え、

まばゆいばかりの光を伴った雷を落として来る、

しかし、これも団子結界に弾かれるが、

今度は、少し揺れ、軋みが聞こえた。

(何度でも固いままではないのか……)

挿絵(By みてみん)


直人はここで逡巡する。

(火力団子は懐にある。

 結界に穴が空いた今使えば、届いてLvが3上がる……)

直人は逃げ続けながら、懐の火力団子を握る。

(ひなの為にLv3は是非欲しい。

 だが、これは殺す道具だ……)

直人は脂汗が出て来る。

(ダメだ……使えない。

 俺はまだ……そちら側には行けない)


そんな事を考えて逃げ回っていると、

ヴァイスが次の火術を投げてきた。

団子結界に当たるが、今度は大きな衝撃がきた。

(まずい。結界の限界が近いのか……)


直人はさらに逃げ回る。

時間ばかりが過ぎる。

直人は、他に攻撃手段を持たない。

ヴァイスも、攻撃が当たらないことで、

イラつきが顔に出ている。

焦りの表情が見える。


お互い決定打のないまま

無為な時間だけが過ぎていく。


頃合いを見て、ヴァルダスが割って入る。


「ここまで」


二人は動きを止める。


「規定時間により、この勝負、引き分けとする」


裁定が降りた。

直人は深く息をつく。

終わった。

前回のように致命は無い。

勝てなかったが、負けなかった。

そして、ワームが有効らしいとわかった。


「おまえのその術は何だ!?」

ヴァイスは怒り半分で聞いてくる。

「企業秘密だ」

直人はしれっと答える。

自分の武器を晒すのは良くない。

嫌なスキルだし。

(こいつが破りにならないとも限らない)


ヴァルダスが最後に宣言する。

「本対戦は引き分けと裁定いたします。

 よって、両者Lv1ずつ上昇致します。

 また、これによるペナルティはございません。

 以上お疲れ様でした」


不満そうに引き上げていくインドラ・ヴァイスを尻目に、

ヴァルダスが

「お疲れ様でした。

 色々お話がございますので、応接へどうぞ」


静かに見ていたミリアがここでやっと口を開く。

「魔王さま、カッコイイ♡」

直人はミリアを見ながら、

「死んでないのが一番だ」

と言いながら、Lvを2つ取り損ねた事実と比べ、

(俺は、こちら側でひなを助けるんだ。

 魔界がどうでも、俺のやり方で……)

と、懐の火力団子を触りながら、

自分を納得させる自問自答を繰り返していたが、

身体は、ヴァルダスとミカゲの後をついて応接に向かっていった。



(つづく)

「引き分け」

勝てなかったのか、勝たなかったのか、負けなかったのか。

直人の結論が出ないうちに、事態は次の場面へ。

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