第四章 第7話 Lv99に向けて
美沙に情報共有し、迷う事なくLv99への道を進める事を決める直人。
その前に、聞きたい事がある。
美沙やひなと朝の時間を過ごす。
ひなの前では努めて普段通りに接する。
今日は熱が下がって、幼稚園行くと喜んでいる。
美沙も、昨夜の混乱から少しは回復しているようだが、
ひなの髪を結ぶ手が震えているように見える。
ひなを見る目が、ふっと寂し気な瞬間がある。
つとめて”普通”にしようとしているのが痛い。
ひなの笑顔が、これほど心に届くのは初めてだ。
「パパどうしたの」
無邪気に聞いてくる。
「……ひながかわいいなと思って見てた」
ひなは嬉しそうに
「ひなも、パパだーいすき」
と屈託がない。
二人が出かけるのを見送った。
一瞬、この見送り風景が、この先に訪れる、
永遠の別れの時の景色になるかもしれない
という考えがよぎり、あわてて打ち消す。
気を取り直し、PC前に座る。
手が震えている。
”魔王コマンド”が目の前にある。
押すのに、自分を落ち着かせないといけなかった。
ダンジョンに戻った直人は、
「ミリア、お前ひなを守ってくれたのか」
「はい♡先生ですから♡」
幼稚園に居た時は本当に驚いた、が、
「門の事も知っていたんだな」
「はい♡」
「お前は協会の人間か?」
「いいえ。お知り合いは居ますけど♡」
「管理者代行って言ってたな。最初はお前が管理者だったのか」
「はい。代行です♡」
「何故もっと早く色々教えなかった」
「マナの無いお身体に無理がかかります♡」
(それはそうかも知れないが)
「それに、ダンジョンを統治して頂かないと♡」
一々ごもっともなのが癪に障る。
「わかった。この前の話以上の事はあるか」
「はい、一つだけ♡」
「何だ」
「ミカゲ様です♡」
「ミカゲがどうした」
「偉い方です♡」
「どういうことだ?」
「色々知ってます♡色々出来ます♡色々お世話してくれます♡」
「よくわからん説明だな。まあいい。偉いのはわかった」
「ひなちゃんの事も考えてくれています♡」
「考えるって何を」
「色々と♡」
(ミカゲは”様”付けか……)
あー、こうなると以前と同じで詳細がわからない。
「では、もう一つ」
直人はミリアを見ながら
「お前はどこから来た」
ミリアはニコニコ
「魔王さまのお手伝い要員です♡」
「それはわかってる。誰の命令だ」
「管理者代行は魔界の決まり事です♡」
と笑顔のままだ。
「答えになってないぞ」
直人が睨んでも変化が無い。
直人は切り替え、シズクを呼ぶ。
シズクたち3人が控える。
「シズク、前の魔王がLv99と言ってたな」
「はい」
「Lv99になるのはどのくらいかかった?」
「前魔王さまは早いほうだと聞いた事があります。
ご存じのように、階層上げだけですと遅いです」
「破りがたくさん来たのか?」
「ある程度は来ました。都度Lv上がったと仰っていました」
「それだけか」
「あと、”他流試合”も結構行ってました。
魔王対戦以外も他魔王と対戦を組んでもらえるようです」
「ああ、前の魔王は強かったって言ってたな」
「はい。他流試合も勝つと3Lv上がるそうです」
「なるほど。それは早いわけだ」
ここまで静かだったエーデルが、
「前魔王さまは、Lvが高くなった時には、近づく事すら難しいオーラがありました」
アコニットも、
「Lv99は異常な強さです。ですが、前魔王さまはLv50超えたくらいでも
恐ろしい圧がありました」
シズクは
「他流試合は全勝と聞いた事があります」
「それはものが違うな」
直人は何とかしてLvを早く上げたい。
手っとり早いのは”破り”だが、
そう都合よく来てはくれない。
ミリアが
「魔王さま、地道も必要です♡」
直人は頷き、
「仕方ない。階層増やすぞ」
直人は階層を進める。
もう躊躇う事もない。
最近、素材のお陰で記憶欠けの恐怖も薄らいでいる。
それに、そんなことに構ってなどいられない。
とにかく進めるぞ。
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この後、直人のダンジョンはB60になる。
その間、一度破りが来た。
「いつものように」集合対戦で勝利する。
直人もバグがある程度狙って当てられた。
自分が戦っていなければ、落ち着いてバグを当てられる。
B60到達時、B31以降に置いていた戦闘用ボス群を、
十階層ぶんずつ下へずらしB41以降に置いた。
再生可能ボス達がB31~B40に配置になった。
しかし、B31の大部屋はそのままにした。
意味なく下層までは行かせない。
新規ボスは雇用せず。ボス不在フロアは迷宮扉と宝箱増で賄う。
数を増やすより、動ける戦力を一箇所に集める方が、
直人の運用には合っていた。
そして、B60到達、および破りで直人のLvは51になった。
【魔王】Lv51
【ミュート5分】52日
【復活】357年
その時に訓練していたら、また新たなUI表示が出た。
【通知】新スキル解放
【名称】ワーム
何だこれ?
またわからんのが増えた。
ワームって、まんまヤバイ奴じゃないか。
バグの訓練していたが、
今回はひなの顔ではなく、文字通り虫たちが固まっていた。
気持ち悪かったので、そのイメージに手を伸ばすと、
虫たちが避けるように広がっていった。
イメージの中だが、気持ち悪い。
すると、訓練に付き合っていたエーデルが、
「魔王さま、何をしたんですか!」
と叫ぶ。
「何をって、何もしてないぞ」
エーデルが、
「私の結界魔法が侵食されてます」
シズクが
「バグではないですね」
直人はまた、訳わからない。
この「ワーム」という奴か?
エーデルが
「あー、どんどん効果が無くなってます」
と騒ぐ。
直人はUIを見る
【スキル】ワーム行使中
この「ワーム」という奴の誤爆か…
さらにUI表示
【異常】結界魔法:ワーム適用
【追跡】WRM-01
【提案】差分解除(隔離のみ)
またか。
仕方ない、またロールバックだ。
【スキル】ワーム
【ロールバック】差分解除(隔離のみ)
【対象】WRM-01
直人はYESを押す。
エーデルが
「あ、止まりました」
直人は、
「隔離出来たか。しかし、これは…」
シズクが、
「魔王さま、より強力なスキルかと」
エーデルの防御結界に侵入して、効果を漸減させる…
直人は頭を抱える。
(これは、あれだ、ヤバイ奴だ…)
俺は障害対応側だぞ、どうしてこんなに攻撃側のスキルが
身に着くんだ。
「嫌過ぎる……」
シズクが
「魔王さま、さらに嫌な方向に進化しました」
直人は曖昧に頷く。
ミリアが
「魔王さま、成長♡」
直人はジロッと見て
「お前が仕掛けたんじゃないだろうな」
「魔王さまの実力です♡」
エーデルが
「魔王さま、そのスキル、スコープで上手く当てられれば、
相手の防御スキルとか、バフを解除させられます」
シズクも
「早速訓練しましょう。生存確率が上がります」
直人は、少しだけ嬉しかった。
Lv上げは大前提だが、
自分の武器はバグだけだったのが、
少しグレードが上がった”武器”を手に入れた。
仕事で、この手のマルウェア対応は苦労したが、
自分が持つ武器ならば多少心強い。
今は何でも良い。
とにかく、Lv99を目指すんだ。
その為には、手に入るものは歓迎だ。
遠くでこの風景を見ていたダリオンが、
意味ありげな頷きの後に去ってゆく。
直人はその姿を認識していたが、
今は自分の事で手いっぱいだ。
「よし、訓練だ」
直人は力強く言った。
ひなを救うために。
(つづく)
特殊スキル「ワーム」。
また嫌な武器を手に入れ、守護者が攻撃スキルを手に入れる皮肉。
しかし、考えるより、先に前に進まないといけない状況が落ち着かない。




