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「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第四章 「世界編」―真実の重み

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第四章 第4話 倒れないための道具

落ちてしまった直人君、

家族を思いながら、暗闇に飲まれましたが……

ここはどこだ。

身体が浮いている。

空中遊泳しているようで、何やら気持ちが良い。

しかし、目を開けているはずだが、何も見えない。

漆黒の暗闇の中にいる。

遠くで人の声が聞こえてくる。

やまびこのようで、よく聞き取れない。

それにしても、浮遊の感覚が、天に上るようで気持ち良い。


まだ誰かの声がする……



目が開いた。

無機質で見慣れない、暗い天井が見えた。

天国にしては、現実的な風景だ。

身体が重い。

全身が鉛のようだ。


「魔王さま♡」

聞きなれた声だ。

ミリアだ。

挿絵(By みてみん)


「……ここは」かろうじて出た声が掠れた。

「協会治癒室です」 ヴァルダスの声がした。


直人は、反射的に身体を起こそうとした。

激痛が走る。

「っ――!」

「まだ動かない方がよろしい」

「俺は……」


ヴァルダスは一拍置く。

「敗北です」

「致命でしたが、早期救命にて、現在は回復されています」


その言葉は、傷より痛かった。

直人は天井を見たまま、黙る。

”最後”の瞬間がフラッシュバックする。

振り下ろされる斧。

受けた衝撃のショック。

あたりが暗くなっていく様。


負けた。

分かっている。

何もできなかった。

バグは効いた。少しは。

だが、少しでは足りなかった。

物理。速度。斧。圧。

ダンジョンなら勝てたはずだ。

ボスを集めれば勝てた。

デーモンロードがいれば。

ダリオンがいれば。

シズクがいれば。


だが、ここにはいなかった。

自分だけだった。

直人は拳を握ろうとした。

力が入らない。

「ザルゴスは?」

「勝者として、すでに退場されました」

「そうか」


ミリアが横にいた。

いつものように笑っている。

だが、少しだけ目が細い。

「魔王さま♡ 生きてます♡」

「生きてる、じゃない」

直人の声が低くなる。

「俺は負けたんだ」


ミリアは何も言わない。

ヴァルダスが静かに告げる。

「B50初回対戦ですので、ペナルティはありません」

「慰めにならん」

「承知しております」

「してないだろ」


直人は顔を歪める。

怒りが湧いてくる。

ザルゴスに対してではない。

ミリアに対してでもない。

協会に対して。

そして、魔界に対してでもある。


だが、一番腹が立つのは、自分だった。

「何が魔王だ」

直人は絞り出す。

「何が統治者だ」

喉が震える。

「俺は、自分一人も守れないじゃないか」


治癒室が静まる。

ヴァルダスが目を伏せる。

ミリアも、珍しく茶化さない。


直人は息を荒くしながら続けた。

「ダンジョンなら勝てる? 配置なら勝てる? 采配なら勝てる?」

自分で言って、自分で腹が立つ。

「じゃあ、俺が引きずり出されたら終わりじゃないか」

「魔王さま……」

「呼ぶな」

笑顔のないミリアが止まる。


直人は自分でも、言葉が刺々しいのが分かっていた。

だが止まらない。

「俺は家族を守るためにやってる」

「なのに、俺が死んだら終わる」

「復活がどうとか、結界がどうとか、そういう話じゃない」

「俺が弱い」

「それだけだ」


ミリアは何も言わずに直人を見ている。

傷口が熱い。

治っているはずなのに、痛い。


ミカゲが、部屋に入ってきた。

いつもの冷静な目。


「お目覚めでしたか」

直人はミカゲを睨む。

「見物か」

「いいえ」

ミカゲは静かに言う。

「確認です」

「何の」

「あなたが、敗北をどう受け取るか」

挿絵(By みてみん)


直人は歯を食いしばる。

「最低な確認だな」

「必要な確認です」

「俺に何を言わせたい」

「何も。ただ」

ミカゲは続ける。

「あなたは統治者です。それは間違いありません」

「だが、魔王でもある」

「魔王は、時に個として立たされます」


直人はミカゲから目を逸らす。

「嫌な世界だな」

「魔界ですので」

「便利な言葉にするな」

ミカゲはわずかに笑った。

「では、別の言い方をしましょう」


直人を見る。

「守るために、あなた自身が倒れない手段を持ってください」

その言葉だけは、直人の中に落ちた。

美沙。ひな。復活。門。

全部、自分が倒れたら遠ざかる。


ミリアが、いつもの調子を少し戻して囁く。

「魔王さま、魔界労災♡」

直人は睨む。

「笑うな」


けれど、少しだけ呼吸が戻った。

負けた。完敗だった。

自分は弱い。

それでも、帰らなければならない。

強くならなければならない。

家族の時間を、取り戻すために。

直人は、痛む身体を起こしながら呟いた。

「俺は倒れる事は出来ない」


直人は痛みを感じたままベッドで起き上がり、

周囲に来ているミカゲ、ヴァルダス、ミリアを見廻す。


ミカゲは直人のそばで告げる。

「今のあなたには、必要な道具があります」

「道具?」

「はい」


ミカゲは懐から、小さな箱を取り出した。

黒い箱。

封印が貼られている。

「魔王協会管理品です。戦いの為の団子系アイテム。

 あなたには、まず使える手段を増やす必要があります」

直人は箱を見る。

「今さらか」

「今だからです」

「負ける前に寄越せ」

「負ける前に渡しても、あなたは受け取らなかったでしょう」

「……」


言い返せなかった。

たぶん、そうだ。

直人は、戦うことを避けていた。

戦わずに済む方法ばかりを作っていた。

それは間違いではない。

今もそれは変わらない……はずだ。

だが、足りなかった。


直人は、震える手で箱を受け取った。

その黒い箱を見ながら

「どういうものだ?」

「あなたに必要なものです」

「何の目的のものだ」

「戦闘であなたを守ります」


直人はゴクリと唾を飲み込む。

「使い方を教えろ」

ミカゲは頷く。

「そのために来ました」

ミカゲが、何か呪文のような仕草をした後に告げる

「開けてみて下さい」

直人は封印が解かれた箱を開ける。

丸い石?白く丸い石のようなもの。

「取り出してみて下さい」

重い。しかし、弾力がある。

例えて言うなら、凹凸の無い軟球のボール。

「こちらは”石団子”と申します」

「石団子?」

「はい、魔術を込めてあります。戦闘補助具です。

 人間世界の防御魔法の、最高クラスの効果がございます」

直人は驚く。

(何故魔界で”団子”?)

挿絵(By みてみん)


UIが出ている

【支給品】石団子

【効果】上位防御結界

【制限】使い捨て


「先に寄こせ…」

ミカゲが言う。

「あなたの世界で言う”チート”能力がありますので、

 簡単にお渡しするわけにはいきません」

「通常、こちらの”団子”シリーズは、

 魔王対戦で勝った方への”副賞”となります」

直人はしげしげと眺めながら、

「他にもあるのか?」

「はい。そちらは防御用ですが、

 攻撃系、特殊系、色々ございます」


ミカゲは、もう一つの箱を出し、

「こちらは、攻撃用です。人間界火力の最大魔術が込められています。

 防御と攻撃、使い捨てではありますが、切り札にはなるかと」

「次回は、あなたが必要な時、それらを使って頂ければと」

UI表示が出る、

【支給品】火力団子

【効果】上位火力魔術

【制限】使い捨て

直人は半分納得はするが、

理不尽さに対してイラつく。


「そんな事よりも、魔王対戦を辞退したい」

「ほう、負けるのがお嫌いですか」

「それもそうだが、そもそも、俺はダンジョンも非戦撤退誘導だ。

 仲間が居れば、俺は戦う必要もない。運用も回ってる。

 わざわざ戦いなど好き好んでしたくない」

「さっき、身体を引き裂かれたばかりだぞ」

「それに、少し補給が止まっても、今の俺の所なら何とかなる」


ミカゲは、直人の言葉が終わるのを待って、

「戦闘訓練は、先ほどの戦いで必要を感じたのではありませんか?」

直人は、一瞬たじろぐが、

「必要は感じた。しかし、”戦う”と”戦わせられる”は違う」

「俺は俺のやり方で強くなる。家族も俺が守る」


ミカゲが

「家族を守るとおっしゃいましたが、門の揺らぎがあるのを直せますかな?」

直人は言葉を飲み込む。

「それは……Lvを上げれば……」

「今まで上げてきてますけど、まだ揺らぎがございますね。

 ここまで上げてきたのに、何故でしょう?

 理由に心当たりはございませんか?」

「そんな事わかる訳ないだろう」


ミカゲはじっと直人を見る。

そして、何故かミリアの方も見て、何か目配せのような事をする。

(何だ?この雰囲気?ミリアが何か絡んでいるのか?)

ミリアがこちらを見て笑顔を作る。


ミカゲが聞く

「歩けますか?」

直人はベッドから降り、立ち上がる。

傷あとが一瞬痛むが、他には特段おかしい所は無い。

「ああ、何とか大丈夫だ」

魔王衣装に着替える。


ミリアが

「魔王さま、行きましょう」


ミカゲが

「では、応接に参りましょう」

先にミカゲ、ヴァルダスが歩く。

直人とミリアがその後ろをついていく。

途中、”事務室”のような所を過ぎる。

中に、ナンシーの姿が見える。

そして、アリアドネ。

直人は仕事中の彼女たちを見るのは初めてだ。

ナンシーもUIを前にテキパキ動いているが、

何といってもアリアドネだ。

何本あるかわからない手足を使い、

書類の山を、それぞれ別々に同時進行で捌いていく。

恐ろしいほどの速さで、次から次へと書類が片付いていく。

有能という言葉は彼女の為にある言葉だと認識する。

本当に、この部下が欲しいとまで思ってしまった。

挿絵(By みてみん)


応接に案内される。

ミカゲ、ヴァルダスが向かいに座り、

直人とミリアが対面して座る。

さらに驚く事に、

いきなりアリアドネが現れ、

瞬時にドリンクを、各人の前に置き去っていく。

(いつ準備したんだ?)


ヴァルダスが

「有能なメンバーです」

と言い少し微笑む。


そして、改めて向かい合い。

直人は、ミカゲを睨むような目つきになる。

隣でミリアが、

「魔王さま、お話聞いてください♡」

笑顔が薄い。


ミカゲがおもむろに、

「心の準備をお願いします」

(何だと!?)

「今更だろ」


何かが降りて来る予感はあった。

今までの俺が知らない何かが。

ミリアの目線が意味ありげだ。

しかし、

(どうせ今までも驚かされた。何を聞いても驚くものか)

直人は努めて冷静を装った。

挿絵(By みてみん)

(つづく)

いよいよ次回、

この物語全体が反転するお話となります。

直人君の耳に届く内容はどのようなものでしょうか。

10/10(土)17時 をお待ちくださいませ。

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