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「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第三章 「魔界編」 魔界でも社畜でした

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第三章 「魔界編」総集編――遠き漆黒の闇へ

第三章総集編です。

お時間厳しい方は、これをお読み頂ければ概要はつかめるかと。


第三章は、魔王となった佐倉直人が、

家族との時間と記憶を代償として、

魔界そのものに組み込まれていく章だ。


第二章の終盤、直人は知った。

魔王は、自分一人ではない。

ダンジョンも、自分の一つだけではない。

そして魔界には、魔王たちを管理する組織がある。

それが、魔王協会。


始まりは一通のメッセージだった。

【要件】定期報告

【期限】至急

【差出】魔王協会 担当ナンシー


直人は訝しむ。そしてミリアに確認した。

「協会は何を要求しているんだ。

 提出しないとどうなる?

 困る、の中身は何だ」

補給が止まる。

宝箱、素材、食料。

今ようやく回り始めたダンジョンの生殺与奪が、

協会のスポンサーを必要としている。


直人は理解した。

これは魔王としての存在を証明する手続きだ。

だから、提出する。

ただし、こちらの主導権が残る形で。

書きすぎれば干渉される。

書かなすぎれば差し戻される。

報告、差し戻し、別紙、在庫、門。

直人は口にしない。

しかし、魔界でも、社畜だった。


協会の存在は、直人に情報の重要さを認識させる。

しかし、ミリアの情報だと最低限しか出てこない。

確実な目と耳が必要だった。


そこで雇ったのが、ケットシーのシュレである。

契約は嫌がるが、スティック型のおやつには弱い。

「報酬は成功払い」

「情報を持ってこい」

現実のコンビニで買った猫用おやつが、魔界の情報源になる。

直人は自分で呆れながらも納得した。

使えるものは使う。

守るためなら、現実の小銭すら魔界の武器になる。

挿絵(By みてみん)


シュレは、情報をもたらした。

このダンジョンは世界の中心などではない。

辺境であること。

そして“破り”の噂。

破り。

冒険者でも勇者でもない。

ダンジョンを攻略するのではなく、壊し、

中身を抜き、痕跡ごと潰す者たち。


ある日、魔王協会からの巡回がやって来る。

VDとMK。

上納システムなど、管理下に置かれている事実を突きつける。

ダンジョンを深くしろ、魔王Lv上げろ、上納しろ。

ほぼ強制。

しかし、”飴”――記憶に対し効果のある特上素材もある。

直人は悩んだ末に条件を受ける。

挿絵(By みてみん)


彼らは帰った。

そして、暫くすると、

来た!破りだ。


現れた破りは、

壁を剥がし、柱を削り、迷宮の骨格を崩す。

ボスが複数倒された。

直人は悟る。

これは撤退誘導で帰せる相手ではない。

そもそも相手は、壊すために来ている。

直人は魔界に来て初めて自分の死を意識する。

しかし、今回は下見として来ていた破りは言い残す。

「また来る」

それは、脅しではなかった。

確実な予定だった。

挿絵(By みてみん)


直人は急かされるようにダンジョンを深くする。

B10。

B15。

B20。

そして、その先へ。

深さは盾になる。

到達までの手間は、防衛時間になる。

入口層には嫌すぎる再生可能ボスを置き、既存ボスを深層に下げる。

破りが来た時に備え、B11には広い集合戦闘部屋を用意する。

同時に、緊急時自動迷宮化を設計する。

現実で言えば、障害対応の自動化。

ただし、資材が足りない。

魔鉱石が要る。


そのため直人は、「上司」アビス将軍のもとへ向かう。

そこは、自分のダンジョンとは桁が違う場所だった。

岩盤の下、広すぎる御所、統率された魔人たち。

デーモンロードとも違う、統治そのものの圧。

直人は支援を乞う。

魔鉱石が欲しい。

破り対策に必要だ。

しかし、ここでもLv上げを求められた。

そして、協会への報告の条件付きで支援の約束は取れた。

将軍の傍に居た、ミリアに良く似た銀髪ミリスが不快ではあったが。

挿絵(By みてみん)


一方、現実も限界に近づいていた。

高マナ素材の副作用。

記憶欠け。

語彙の欠落。

寝言に混じる“破り”“撤退”“制圧”。

美沙は、もう気づいていた。

「最近、直人が直人じゃない時がある」

直人は逃げられなかった。

嘘で済ませれば、家庭が壊れる。

真実を話しても、家庭が壊れるかもしれない。

直人は全部を話さず、部分的に話し、

会社を休職する選択を取った。

現実の仕事を止める。

逃げるためではない。

守るための準備として。



そうして、日が過ぎ、

ある日訓練中にひなの顔に虫が付く幻影が見える。

それに自分で制御出来ない違和感を覚えた直人は、

家族と自分の危機を感じ、

美沙に、ついに全てを話した。

魔王になったこと。

幼稚園の物置裏に門があること。

ひなを守るために魔界で魔王を続けていること。

レベルが上がるほど記憶が欠け、死ねば復活まで何十年もかかること。

自分が、もう限界に近いこと。

美沙はすべてを聞いた。

信じる、信じないではない。

直人が苦しんでいる。

それだけは分かった。

でも、直人が壊れるのは嫌だ。

「一緒に歩こう」

美沙の決断は、直人を現実に繋ぎとめるアンカーとなる。

家族の時間がより重くなる。

挿絵(By みてみん)


普通の夕食。

ひなの熱。

直人は何度も思う。

自分が守りたいのは、魔界の栄誉ではない。

この小さな家庭だ。


この頃、直人には新しい力も芽生える。

ユニークスキル――バグ。

最初は最悪だった。

ひなの顔についた虫を払うようなイメージをしただけで、

厨房制圧術式が暴走する。

何がどうしたのか分からない。

自分が原因で誤爆する。

嫌すぎる。


そして、メイドを2名増やし、

訓練を続けていると、

大陸最強勇者が来た。

ここで直人は、再生可能ボス以外の戦えるボスを

一か所に集め集団迎撃させる戦法を試す。

功を奏し、見事勇者を撃退する。

初めて統治で勝利した。

暗闇に一筋の光が見えた気がした。

挿絵(By みてみん)


その後、アビス将軍に再度訪問。

破り対策の用心棒を依頼する。

その場で衝撃の事実を聞かされる。

デーモンロードが将軍の命を受けてやってきた査定役だったのだ。

「デーモンロードは俺が送った。

 お前が使えん奴ならダンジョンを乗っ取れと命じた。

 だが、お前は使える奴のようだ」

と豪快に笑う。


後日、ドラゴニュートの「ダリオン」を紹介され、契約する。

準備は整い、B11を集団戦闘用にして待つ。

挿絵(By みてみん)


そんな直人を魔界は待たない。

協会の腐った巡回魔人が来る。

袖の下を要求し、報告操作をちらつかせ、協会の名前で圧をかける。

直人は理解する。

これは便宜要求だ。

つまり腐敗だ。

シュレに尾行させる。

そして分かる。

その巡回魔人は、破りの組織と繋がっていた。

破られた前と後にダンジョンの跡に残っていた匂いが同じ。

シュレのお手柄だ。


果たして、破りが再び来る。

直人は家族と休日を過ごしていた。

微熱のひなを寝かせ、美沙と話していた時、通知が鳴る。

「破りが来た。向こうに行く」

美沙は青ざめる。

それでも言う。

「絶対に戻ってね」

直人は約束する。

「わかった。絶対に戻る」


ダンジョンでは、自動迷宮化が発動していた。

再生ボスは退避し、B11に戦力を集める。

デーモンロードが指揮を取り、ダリオンが控える。


直人は任せておけばいいと思っていた。

だが、すぐに立ち止まる。

「任せることと、傍観することは違う」


直人はシズクたちとB11へ向かう。

怖い。

破りは強い。

自分は戦えない。

それでも、自分はこのダンジョンの魔王だ。


B11に集結した戦力は、これまで雇用し運用した戦力を集中した。

戦闘ボスたち9体。

後方指揮でデーモンロード。

そして、用心棒ダリオン。

挿絵(By みてみん)


破りは強かった。

結界を張り、支援魔法を重ね、剣も魔法も致命に届かない。

ボスたちが傷つき、直人の手が震える。

その時、直人は“バグ”を使うことを思いつく。

ひなの顔についた虫を、ピンポイントで弾くように。

シズクが叫ぶ。

「当たりました」

破りの固有結界に、穴が開く。

そこを用心棒ダリオンの剣が見逃さなかった。


破りは倒れた。

直人は勝った。

単独ではない。

力任せでもない。

統治と采配と、嫌すぎるスキルと、仲間の力で勝った。

初めて、魔界の勝利を美沙に報告したいと思った。

だが勝利は、また代償を連れて来る。


【魔王Lv】Lv14→Lv19

【ミュート5分】20日

【復活】57年


直人は現実に戻り、美沙に告げる。

復活が57年になった、と。

美沙は言う。

「57年……私、いないかな……」

直人は言葉を失う。

ひなだけではない。

美沙もまた、時間の向こうへ行ってしまう。

復活年数とは、死なない保険ではない。

家族と同じ時間に戻れないという、もう一つの死だった。


そして、さらに直人に影を落とすことがあった。

Lvが上がったのに門が揺らいでいる。

何より、ひなの熱が出る頻度が多くなったことが直人の心を揺らす。


破り撃破後、魔王協会から招待が来る。

直人はミリアと共に、協会本部へ向かう。

そこは、アビス将軍の御所とも違う荘厳な場所だった。

威圧的で禍々しい回廊。

豪華な応接。

魔界の中枢。


出迎えたのは(VD)ヴァルダス。

そして、担当ナンシー。

挿絵(By みてみん)


ナンシーは人間だった。

しかも、直人の思考を読んだかのように応答する。

直人は動揺しながらも、最低限の言葉で受ける。

さらに現れたのは、アラクネのアリアドネ。

無数の手で、同時に飲み物を置き、通信、メール、書類を同時処理する官吏。

あの異常なメール速度の理由を、直人はようやく理解する。


そして(MK)ミカゲが語る。

破りは、裏の組織である。

破られた元魔王たちも含まれている。

そして協会は、それを完全には潰していない。

魔王のLvアップ目的のために必要な”釣り餌”として泳がせている。

直人は怒りを覚える。

そのために犠牲になるダンジョンがある、と。

だがミカゲは静かに言う。

ここは魔界だ。

強い者が生き残る世界だ、と。


さらに、世界は広がる。

大陸は五つ。

それぞれに将軍がいる。

魔王は数多く存在し、B50になれば魔王同士の対戦がある。

そして、その先もある。

直人は理解する。

自分のダンジョンは、まだ小さい。

B20台まで育て、破りを撃退しても、魔界全体から見れば入口に立ったにすぎない。


そして魔王協会会長、ガイゼル将軍との謁見。

赤く燃える鎧をまとい、立ち姿の威光が凄まじい。

しかし、隣にまた銀髪。

「ミリア、独り占めはダメよ」

「ミリエ、離れなさい」

ガイゼル将軍の一言で戻る。

ミリアがふくれっ面になる。

魔王協会は役所であり、制度であり、同時にザルでもある。

味方とは限らない。

敵とも限らない。

利用できる部分と、警戒すべき部分が同居している。

挿絵(By みてみん)


そして、最後、彼は遠い漆黒の闇を感じる。

ガイゼル、ミカゲ、ヴァルダス、そしてミリアまでもが慇懃な礼をする。

見えない誰かが、こちらを見ている。

重い、しかし、柔らかい言葉が聞こえた。

「期待しています」

将軍たちや幹部すらひれ伏す絶対的な上位存在の声。

だが、その意味はまだ分からない。

挿絵(By みてみん)


第三章、直人は、ただの巻き込まれた管理者ではなくなった。

小さな家庭を守るため、

小さなダンジョンを守るため、

大きすぎる魔界の制度と向き合う魔王になった。

それでも、彼が帰る場所は変わらない。

だから直人は、果ても知らぬ遠き漆黒の闇へ向かう。

帰る場所を失わないために。


(第四章につづく)

三章が終了し、直人君の旅路の先が奥深いという事だけがわかった感じです。

続く4章は「世界編」―真実の重み。次週9/26(土)17時からスタートとなります。

4章は開示が多くありまして、物語が反転するお話もございます。

是非お楽しみいただければと思います。 

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