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「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第三章 魔界でも社畜でした

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第三章 第30話(最終話) 遠き漆黒の闇へ

破りを撃破した直人は魔王協会に呼ばれる。

行きたくもない直人だが、

ナンシーに文句を言いたい気持ちもあり、

ミリアの同行で出かける。

ミリアが、妙に嬉しそうに、

「行きましょう♡」と言ってくる。

「お前、楽しそうだな」

「魔王さまとご一緒できるのがうれしいです♡」

(何だそれ?俺は憂鬱だぞ……)


とにかく、今日は魔王協会本部だ。

敵ではない。

だが直人にとって、魔界に身内はいない。

ダンジョンの部下は、同じ目的の同志の感覚はあるが、

魔王協会に、親近感などみじんも無い。

ナンシーにどんな苦情を上げるか考えてさえいる。


しかし、

「では、行くか」

「はい♡」


転移陣に移動する。

周囲の風景から浮き上がり、浮遊する感覚になる。


到着したのはアビス将軍の御所とはまた違う荘厳な場所だった。

豪華な装飾の部屋。天井も高い。

さすがに協会本部だけはある。

見慣れた顔が出迎える。

ヴァルダスだ。

挿絵(By みてみん)

「ようこそお出で頂きました」

横に金髪の女性。

ミディアムボブより長めで、前髪を片側に流している。

微笑みながら挨拶してくる。

「ようこそ魔王様。ナンシーです」


直人の目が大きく見開かれる。

意識せず、口が半開きになっている。

(これがナンシー。人間か)

すると、ナンシーはにこやかに笑いながら、

「驚かれたようですね。そうです、私は人間ですよ」

直人はさらに驚愕する。

(考えていることがわかるのか、こいつは)

「いつも…世話になる…」

直人はうまい言葉が見つからず、それだけ言った。


ヴァルダスが

「立ち話も何です。こちらへ」


直人は、ナンシーの存在に驚き畏怖しながら、

促されるままに、大きな広間、回廊を抜け、

今までに比べたら、少しこじんまりした部屋に通される。

それでもでかい。

この部屋だけで、俺のダンジョンの訓練部屋より広いんじゃないか。


応接に案内される。

ミリアと腰掛ける。

ナンシーが、

「何かお飲み物を」

「いや、特に必要ない」

「遠慮されずにどうぞ。では、協会特製ドリンクお持ちしますね」

(それ、また中で動いてる奴か…?)

ナンシーが

「大丈夫です。上質のドリンクですよ」

直人は、(また読まれた)と再び居心地の悪い思いで

「では頼む」

とだけ言った。


ヴァルダスが、

「改めまして、この度の破り撃退、おめでとうございます」

「報告書も頂きました。つきましては、二、三質問よろしいですか」

「何だ」

「破りに対して、集団迎撃戦法は画期的です。あなたの考案ですか」

「そうだが」

「では、あなたの使ったユニークスキルですが、どのような効果なのですか」

「俺にもまだよくわからん。相手の術式に影響するようだ」


そこに、突然部屋に入ってくる者がいた。

ミカゲだ。

「失礼します。遅くなり申し訳ない」

直人は少し不快な顔を見せたようで、

ミカゲが続けて

「遅くなったのは失礼した。改めて紹介しよう」

「こちらヴァルダスは、魔王協会の事務方トップだ。

 そちらのナンシーが有能な部下」

(有能?身贔屓だろうな)

ナンシーは笑みを浮かべている。


そこにノックをして入ってきた影。

直人は、その姿に驚く。

”蜘蛛人間”とでも呼べばいいのか…

そうだ、RPGなどで見たことがある。

これは「アラクネ」だ。

人間の上半身に、蜘蛛の下半身。

しかし、目が多数。手足も多数…。

その”手”にいくつもカップを持っている。

そして、一斉同時に各人の前にカップを置く。

あっという間の出来事だ。

挿絵(By みてみん)


ヴァルダスが

「こちらはアリアドネ。優秀な官吏です。

 通信、メール、書類、すべて同時に何件もこなせます」

ナンシーが

「私のゴーストメールライターでもあります」


直人は穴の開くほど見つめながら思う。

(そうか、それであのメール数と速さがあったのか…)

「有能で何より」

その一言だけ返した。

ミリアが

「頼もしい♡」

直人は目線で制す。


そして、今置かれたカップの中を見る。

動いてはいないが、コンビニで売っているようなドリンクではない。

色が変だ。黒いし、ゼリーかと思うような粘りがある。

「この飲み物は?」

ナンシーが、

「栄養があります。どうぞ」

またか…

一口飲んでみる。

見た目と違い、美味しい。

例えて言えば、濃い野菜ジュースとエナジードリンクを合わせたような。

おすすめだけのことはあるか…。


ミカゲが

「さて、話は戻ります。あなたのユニークスキルはとても面白い。

 皆、あなたの存在をとても注目しています」

「そりゃどうも」

「この後、協会の会長にもお会い頂きます。そのレベルでの破り撃破、

 とても有能な魔王誕生を皆祝福しています」

「俺一人で倒したんじゃないが」

「承知しています。しかし、あなたのスキルがきっかけになったのは事実」

「用心棒の力は大きい」

「そうですね。そして、あなたの統治。そこも大きい」


ミカゲは一息入れて。

「あなたに、少しこの世界のお話をします」

「何のことだ」

「あなたが倒した破りは、裏の組織です」

「やはりな」

「魔王協会に反発している者たちの集団です。

 元魔王も含まれます」

「元魔王?」

「はい。自分のダンジョンを破られた元魔王です」


直人は、来襲した破りを思い出す。

(だからダンジョンがわかっているのか。

 あいつも、そうなのか?)


ミカゲは続ける

「その裏組織が、破りを“派遣”しています。

 そして破ったダンジョンから搾取します」

「しかし、ある事情がありまして、

 組織を追って壊滅させることは致しません」


直人は訝しがる。

「何故?」

ミカゲは直人を見ながら、

「今回Lvが大きく上がりましたよね」

直人は息を飲む。

「その目的の為に泳がせてるのか」

ミカゲは

「ありていに言えばその通りです」

続けて

「我々にとっての釣り餌です」


直人は驚きミカゲを睨む。

「その為に犠牲になるのが大勢いるだろ」

ミカゲは冷静に

「以前、組織を潰したことはありましたが、いたちごっこになりましたので、

 それ以降泳がせ利用する形になりました。

 それに、ここは魔界です。より強い者が生き残る世界です」

直人は、次の反論を出そうと思ったが、出せなかった。

「制度」なら、運用に落とせるか、考え始めたからだ。


直人は喉が渇く。

ドリンクを一口飲む。

美味いのが何故か癪に障る。


ミカゲは続ける

「さらには、魔王同士もそうですよ。

 B50になったら対戦があります」

アビスから聞いていた話だ。

「それは強制なのか?」

「はい、魔王の成長を促すイベントです」


直人は食いつく

「成長しなくても、やっていけるだろ」

「ここには大陸が五つあります。それぞれに治める将軍がいます。

 要するに、ダンジョン、魔王もそれだけいますから」

ミカゲは一息入れたあと、

「そして、まだその先もありますので」

「その先…」


直人はあきらめた。

知る事が絶望を意味する経験を何度もしてきた。

また今度もペナルティなら門が揺れる。

今は目の前の壁をクリアするので精一杯だ。

もうその先など想像もできないし、聞きたくもない。


ミカゲが少し間をあけ、

「お話したいことはまだありますが、一旦打ち切ります」

「協会会長にご挨拶しましょう。こちらへ」


ミカゲ、ヴァルダスについて、ミリアと部屋を出る。

長い回廊を歩き、巨大な扉の前につく。

入口には、アヌビスかと見紛う黒い犬頭の屈強そうな衛兵が控えている。

挿絵(By みてみん)


重々しい扉が開く。

そこは、今までに見た中でも特大な広間だった。

広間という言葉が相応しくない、広大な地獄の釜の底の感覚。

巨大な石柱が天まで届くかのようだ。

赤絨毯が、はるか先まで続いている。

両側の壁には巨大な像が並ぶ。

燭台も続き、闇の瘴気がまとわりつく。

鎧を纏った戦士、衛兵が多数並んでいる。

挿絵(By みてみん)


ミカゲ達に従い先に進むと、影が見える。

巨大な人物――全身鎧の姿だ。

赤く燃える鎧をまとい、その鎧から光が漏れる。

恐ろしい立ち姿だ。


ミカゲが、近くで紹介する。

「こちらが魔王協会会長、ガイゼル将軍です」

その姿に気圧されながら、

「お初にお目にかかります。魔王佐倉直人と申します」

「うむ、聞き及んでおる。破りを止めた、

 なかなかに面白いスキルを持っているようだな」

さすがに、そういう情報が早いな。

「協会のお役に立てるよう努めます」

うん、社会人の挨拶だ。社畜だし…

挿絵(By みてみん)


見ると、将軍の隣に、また影がいる。銀の髪。

またか…


案の定近づいてくる。

「この方が、異界の魔王ね。独り占めさせないからね」

ミリアが鋭い眼で見返し

「離れなさい」

「おお怖。嫉妬は恐ろしいわ。ミリスが言ってた通りね」

また、直人の胃が痛む。


将軍が、

「ミリエ、離れなさい」

銀の影は戻っていくが、

「はーい。ミリア、独り占めはダメよ」

言い残す。

ミリアはふくれっ面だ。

(ミリエというのか…ミリスとは違うが、似てるな。ミリアとも…)



その時、

入って来た時から気になっていた、

将軍の奥に、ぽっかりと漆黒の闇が広がっていたのだが、

そこから、突然、言いようのない重圧がきた。

理不尽とも言うような理を越えた雰囲気に気圧される。

心なしか辺りが薄暗くなったようだ。


将軍、ミカゲ、ヴァルダスその他の控えている者が、

全てその闇に向き頭を垂れる。

(何だ?これは)

ミリアまで慇懃な礼をしている。

挿絵(By みてみん)


すると、あたりを包み込むような

重く、脳に直接問いかけてくるような鋭い、

しかし温かみのある声が届く。


「期待しています」


ただ、その一言が聞こえた。


皆が、慇懃な礼をして、元の姿勢に戻る。


ミカゲが口を開く。

「お聞きいただけましたね」

直人は訳がわからない。

「聞こえたが、今のは?」

「魔界があなたに期待しているという事を、おわかり頂ければ結構です」


魔王協会トップの将軍が頭を下げる。

どういう事だ?

わかる訳がない。

隣でミリアがニコニコしている。


見えない闇に見られている。

直人は、この先の世界が、

途方も無く闇が深いという事だけが分かった気がした。


(第三章 完)

これにて三章完結となります。

でも、直人君の旅路はまだまだ続きます。


この後、9/19(土)に三章総集編を公開致します。

そして、第四章「真実の重み」が 9/26(土)から開始となります。

第四章も怒涛の展開となります。

よろしくお願いいたします。

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