第三章 第28話 破り再び
運用、ギミック、体制が揃い、破り対策は準備ができた。
直人の魔王としての腕が試される時が来る。
その知らせは突然だった。
直人は、家族との休日を過ごしていた。
昼食をとり、微熱の残るひなをお昼寝させて、
美沙と、ひなの体調について話をしながら、
一息入れていた時だった。
スマホの通知が鳴った。
急いでPCを見ると、
魔界のUIに赤いワーニングが出ている。
見てみると、
「来た!」
破りだ。
美沙に一言。
「破りが来た。向こうに行く」
美沙が青ざめる。
「あなたが……行かなければ……いけないの……」
直人は一瞬言葉に詰まる。
しかし、
「俺が行かなけりゃ、もっとまずい」
美沙は下を向いて、何かを考えている。
寝ているひなを見ながら、
そして、ゆっくりと頷きながら、
「そう……。絶対に戻ってね」
直人はじっと美沙を見つめる。
「わかった。絶対に戻る」
後ろ髪を引かれながら、ミュートをし、
”魔王”コマンドを押す。
玉座の間。
ミリアとシズクとエーデル、アコニットが揃っている。
ミリアが
「来ました」
直人は
「わかってる。遅くなった」
シズクが状況説明する。
「指示通りボスを退避させましたが、B1だけは間に合わず、
ブラッドスライムが撃破されました」
「現在、迷宮化で時間を稼いでいますが、敵はすでにB4です」
「デーモンロード様がB11に戦力を集めています」
直人は報告に頷き、UIを開く
【来襲】破り
【突破】B4(現在)
【ボス撃破】B1ブラッドスライム
【他指示】B11ボス集合迎撃
直人はデーモンロードを呼び出す。
「魔王、来たか」
「遅くなった。B11での戦闘、頼んだぞ」
「承知した。ダリオンには会ってないが…」
「恐らく大丈夫だ」
「わかった。魔王はどうする」
「状況見る」
「承知」
すると、いつの間にか、ダリオンの姿がある。
「魔王よ、状況は理解した。私もB11に向かえば良いか?」
以前会った時も、圧に気圧されたが、
今日、今のオーラは凄い。
まるで、炎そのものが歩いてくるような熱さ、重圧を感じる。
「頼む。頼りにしている」
「魔王の仰せのままに」
すっと消える。
速い、あの圧はどこに行った?
UIを見ると、破りはB6まで進んでいた。
やはり、迷宮にしても、時間稼ぎにしかならないか。
しかし、その時間が貴重だ。
ボス避難と、集合が出来る。
ここまでは予定通りだ。
これで、デーモンロードに任せておけば……
まてよ、それでいいのか?
確かに、ダリオンもいる。万全だとは思う。
しかし、俺は統治者だ。
単なる管理者ではない。
世界からすれば小さいダンジョンだろうが、
ここの魔物の頂点の存在。
高みの見物でいいのか?
戦闘など出来ん。
怖い。特に、あの破りだ。
でも、
「行くぞ」
ミリアが不思議そうに、
「どこへ?」
「B11へ向かう」
シズクが驚く
「魔王様、危険です」
「わかってる。しかし、俺はここの”魔王”だ。
任せるのと、傍観するのは違う」
ミリアが
「魔王さま、頼もしい♡」
「皆ついて来い」
全員で裏ルートを使い、B11に向かう。
B11には既にボスが集まっていた。
デーモンロードが驚く。
「何をしにきた」
「俺はここの魔王だ」
「危険だぞ」
「わかっている。ボディーガードも一緒だからな」
シズクやエーデル、アコニットが神妙に頷く。
UI表示が出る
【突破】B8
【消失】階層ギミック
破りはB8を解体突破したようだ。
改めて恐ろしい敵だ。
部屋の奥の一角に移動し、フォーメーションを見る。
エルダートロールとマスターオーガ、デスナイトが前線を作る。
ドラゴンキマイラ、サラマンダーの魔獣族が隙間を埋める。
ギルタスコーピオン、ハイリザードマンが両翼に配置。
第二線に、デーモンジェネラル、アークデーモン。
後方でデーモンロードが指揮を執る。
デーモンロードは、配下の魔人を二人ほど連れている。
回復、再生用員か?
戦術で言えば、「鶴翼の陣」か。
ダリオンは、少し離れた場所に控えている。
直人たちはデーモンロードの後方に位置する。
B10を突破された。
「来る!」
入り口から現れた”それ”は、
こちらの光景に一瞬驚く、
その後、ニヤリと笑い、一言。
「これは面白そうだ」
言うが早いか、破りは素早く動く。
マスターオーガに一直線で切りかかる。
反応が遅れたマスターオーガは
深手を負ってくず折れる。
エルダートロールが仕返しとばかりに拳で戦うが、空を切るばかりだ。
デスナイトが何かの詠唱の後、隙を見て切りかかる。
こちらも当たらない。早い。動きが滑らかで、そつがない。
続いてデーモンジェネラルが切りかかるが、逆に懐を抉られる。
デーモンロードが結界と支援をしているが、
「あやつは、結界が強力だぞ。自分への支援魔法も複数かかってる」
「魔法は弾かれる。剣は致命が効かん」
その言葉通り、ボスたちの攻撃が当たったと思っても、
破りは平気な顔で戦い続ける。
サラマンダーが炎を吐くが、簡単に避けられる。
そして、アークデーモンは前回対戦時に唱えられなかった詠唱が出来、
相手が避ける事の出来ない、地獄の業火をお見舞いする。
しかし、結界が効いているのか、当たっているのに効果がない。
ドラゴンキマイラの炎も通らない。
直人は戦闘を見ながら、恐怖を覚える。
手が震えている。
エーデルが
「魔王様、結界張ってますけど、気休めです」
アコニットも
「ダリオン様にも劣らない圧があります」
シズクも背中の剣に手を添えて、無言で睨んでいる。
恐ろしい。
今にもこちらに目掛けて突進してくるんじゃないか。
そんな思いで腰が引けてた直人は、それでも何か出来ないか考え、
ダメ元でバグに希望を見出す。
(やってみるか)
目を閉じてイメージする。
ひなに虫が付いてる。
払ってやるぞ、ひな。
スコープで範囲を絞り、破りに向け虫を跳ね飛ばす。
すると、エルダートロールを切り捨て、
ドラゴンキマイラに切りかかっていた破りの動きが、
一瞬止まり、
驚いたような表情で後ろに下がりながら、
「何をした!」
言われても、皆何かわからない。
シズクが、
「当たりました」
直人とシズクだけが、何が起こったかわかった。
破りの固有結界に、バグを送り込み、完全では無いが、
一部綻びを起こしていた。
つまり、結界に確かに穴が空いた。
すると、それまで戦闘を静観していたダリオンが、
一瞬で動き、破りの”綻び”を目掛けて突く。
破りの表情が驚きから焦りの表情に変わる。
破りは下がり、ダリオンの剣を受け流すが、
ダリオンが素早い、返す刀も見えない速さで破りを押す。
破りは防戦一方になっている。
両翼のハイリザードマンとギルタスコーピオンが背後に回り、
退路を断つ。
ダリオンの剣が、破りに入り始める。
肘、膝、動きの致命を狙っている。
しかも、ダリオンの剣は炎というレベルではない。
当たった部分が焼き鏝を当てられたように、空気までが焦げる。
流れは完全にこちらの有利になっている。
破りの顔が歪む。
背後の二人とダリオンの剣が同時に入る。
ハイリザードマンの剣がふくらはぎに入ったところで
破りが崩れ落ちる。
満身創痍になり、かろうじて動ける程度になった。
恐らくもう戦えない状態だろう。
デーモンロードが、直人を見る。
直人は、
「捕縛しろ」
と答える。
デーモンロードが
「捕らえろ」
と命じる。
配下の魔人が、なにやらの術を出し、
拘束している。
破りは、身動きが出来ない状態になった。
あきらめたような顔つきでぐったりしている。
直人は、
「勝った…のか」
デーモンロードが
「そのようだ」
シズクが
「おめでとうございます」
ミリアが
「魔王さま、嬉しい♡」
マスターオーガや、ドラゴンキマイラ、デーモンジェネラルに、
魔人が回復の術をかけている。
破りを、即席で作ってあった”牢”に連れていく。
歩くのも辛そうだ。
直人は勝った。
しかも、直人の”バグ”が有効打になったようだ。
ダリオンが近づいてくる。
「魔王、勝利を祝福する」
「ダリオン、感謝する」
「前から気にはなっていた。あの術は何だ?」
「術?ああ、”バグ”のことか、俺にもよくわからん」
「あれが無ければ、どうなっていたかわからん」
デーモンロードも、
「魔王よ、恐ろしいスキルだな」
「まだ誤爆の方が多いがな」
「磨け。力になるぞ」
「嫌過ぎるがな……」
戦闘の匂いが残っている。
生々しさもまだ肌に残っている。
手の震えもまだ収まらない。
今日の勝利は、間違いなく勝利だ。
直人は、早く帰って、美沙に報告したくなった。
魔界の出来事を胸を張って報告したくなる。
そんな日が来るとは思わなかった。
そして、それとは別に、ひなの体調も気になる。
早く現実に帰りたい。
だが、皆と玉座の間に帰る道のりが、今はとても誇らしく思えた。
しかし、その後に見るUI表示が晴れやかな気持ちを反転させる。
(つづく)
一丸となり破りを撃退した直人。
自ら望んで戦場で役割を示した事に高揚感を覚える直人だったが。
勝っても次があるのがこの世界。
次話は最終話前話、最終話の大きな動きの前にまたあのペナルティが。




