第三章 第27話 「匂いは同じ」
用心棒のダリオンを雇う事ができた直人。
破り迎撃態勢は整ったかに見えたが、
ここにきて、破りの別角度の側面が顔を出す。
シュレが情報を持ってきた。
「たくさん人来てるにゃ。全部持ち去ってるにゃ」
破りが破壊したダンジョンを調べさせていた。
「組織か」
「たぶんそうにゃ。運び終わったら潰してるにゃ」
直人は、胃が冷える。
「ご苦労。報酬だ」
スティックを与える。
「今日は味が違うにゃ。これはこれで美味いにゃ」
(目先変えるように、もっとおやつの種類買っとくか)
すると、予告もなく扉が開き、
”巡回の魔人”が現れる。
(扉が開いたという事は、協会権限を持っているのか)
直人は目に不快を浮かべ、
「予告も無いのは失礼では」
「予告すれば対策されるからな」
直人は少し睨みながら
「何か用か」
「前の返事を聞きにきた。あと、情報がある」
「返事とは?」
「協会への心付けだ」
「断ったはずだ」
「報告が不味くなっても良いと?」
「事実だけを書け。そうでなければ勝手にすれば良い」
魔人は苦虫を噛み潰したような顔になり、
「有益な情報を持ってきたが、お預けだな」
直人はフッと息を吐き
「その態度をこちらが協会への報告書に書こうか?」
魔人は面白くなさそうに
「破りが来るぞ」
と素っ気なく言う。
「何故お前がそれを知ってる」
「俺はあちらこちらのダンジョンに行ってる。
必然的に情報は入って来る」
「そうか。情報感謝する」
「賢い魔王は、外部の面倒と上手く付き合っているものだ」
「だから何だ」
「賢くなることだな」
「そうか。俺には関係ない」
「強がりがいつまで続くかな。また来る」
「暇なら話し相手くらいにはなるぞ」
魔人は腹いせに扉を乱暴に閉め、去っていく。
(協会の現場は腐ってる。
チェリーピック。——破りより厄介なタイプの腐り方だ)
「シュレ」
「何にゃ」
「あいつを付けろ。報酬をはずむぞ」
シュレは返事も無く、瞬時にいなくなる。
ミリアがニコニコしながら、
「魔王さま、頼もしい♡」
直人は座った目で返す。
「化けの皮をはがしてやる」
直人は気を取り直し、UIを見る。
協会からのメール。
中に、「”破り”に注意」のメールもある。
備える必要ありと、ご忠告頂いている。
ご親切にどうも。
ともあれ、懸案の階層増築を始めようと思い、
「まずはB30までだな」
ミリアが
「賑やかになります♡」
UIで
【階層増築】B20→B21
YES/NO
当然YES。
ほぼ事務作業。
そして、デーモンロードを呼び出す。
「どうした、魔王」
「B30にする。まだこれからだが、ボス5人欲しい」
「5人しか増やさないのか?」
「B1~B5は、ボスではなく、ギミックにする。
再生可能でも良いが、通らせるだけだから、置く意味が薄い」
「了解した」
そして、B21が出来た時にLvが一つ上がった。
【階層】B20→B21 完成
【魔王Lv】Lv12→Lv13
【ミュート5分】 14日
【復活】 39年
直人は数字をじっと見つめる。
(39年。ひなの子が成人式頃か…)
覚悟しているとは言え、実際に数字を見せられた時のショックは大きい。
胃が冷える。
直人はミリアに聞く
「Lv上げるのに3層必要だったな」
「はい。重くなりました。必要フロア数が増えてます♡」
「階層増やしても、簡単には上がらない…か」
直人は後ろ髪を振り切るように震える手で進める。
しばらく現世、魔界、現世と繰り返しながら階層を作る。
合間にコンビニで買い物。
次のLvはB24で来た。
【階層】B23→B24 完成
【魔王Lv】Lv13→Lv14
【ミュート5分】15日
【復活】 42年
直人はしばらく画面から目が離せない。
(42年。ひなにも孫がいるかもしれない頃だ)
何故かその光景が浮かんでくる。
ミリアが嬉しそうに
「魔王さま成長♡」
「好きで成長してるんじゃないけどな」
直人は、現世に帰り、美沙に復活の件を話す。
美沙は驚き、
少し逡巡した後、
「私、まだいるかな…」
と呟く。
直人は脳内を殴られたような気がした。
そうだ、ひなの事ばかりに気を取られていたが、
美沙はその頃、元気でいられるかわからない年齢だ。
改めて、色々な事が頭をよぎる。
「そう…だな…」
言葉が出て来ない。
美沙も次の言葉が無い。
部屋の空気が止まったまま重く降りて来る。
改めて、直人が何を支え、何を頼り、何を目的にするかが頭を巡る。
(答えが出ないのに、期限だけが迫る。——現実も魔界も同じだ)
直人は、美沙の手を両手で取り、しっかり握る。
美沙も握り返す。
しばらく見つめながら動けなかった。
相変わらず熱を出したひなを病院に連れて行って診せたが、
「少し風邪気味ですね」でいつもの薬だった。
本当にそうなのかが気になるが……、
ベッドに寝かせて様子を見る。
明日の朝には熱が下がっている事を願う。
しかし、魔界だろうが、現世だろうが”仕事”は仕事だ。
家族が寝てから、
ひなの寝顔を見つめて、気持ちを落ち着かせ、
玉座の間に戻る。
シュレが待っていた。
直人は、気を取り直し、魔王モードに入る。
「報告にゃ」
「聞こう」
「繋がってたにゃ」
「どういうことだ」
「巡回の魔人が、あの後、破りの組織の奴と会ってたにゃ」
直人は一瞬言葉が止まる。
そして、
「なぜ組織とわかる」
「破られたダンジョン見張ってた時の匂いと同じにゃ」
「同じ匂い」
「破られた後にも魔人の匂いが残ってたにゃ」
流石のシュレ情報だ。
公的証拠としては弱いが、これほど確実な情報はない。
「そうか、やはり、”下見”を請け負ってるという事だな」
「たぶんそうにゃ」
「ご苦労。お手柄だ」
(俺が居ない時にも来たと言ってたな。
あの日も巡回が絡んでいたのか?)
報酬を3本渡す。
「ボーナスだ」
シュレは嬉しそうに
「違う味が3つにゃ。嬉しいにゃ」
「成功報酬に応じてはずむぞ」
ミリアがニコニコ
「魔王さま、ペット♡」
直人は頷きながら、
「使える優秀なペットだ」
直人は嬉しそうなシュレを見ながら、
「さて、来るぞ」
破りの来襲が近い予感がして、身震いをした。
今回は自動迷宮化が実装されている。
ちなみに、魔王ランドで夢想してた”階層繋ぐゴンドラ”は無理だったが、
裏ルート作り、魔物、ボスの影移動路は作っておいた。
後から聞けば、転移陣も作れたそうだが……
(早く言えよミリア)
早速、デーモンロードに指示を出す。
「対破り作戦を一部変更する。
来襲時は、自動迷宮で時間稼ぎする。
B1~B10のボスはすぐに引っ込めろ。
無駄に戦わせる必要はない。
B11に戦えるボスが集合し、ダリオン含めて一気に叩く」
「承知した。戦力が増えたからな」
「指揮は今回もお前が取れ」
「ダリオンもか?」
「あいつは意思を尊重しろ」
「了解した」
デーモンロードの影が消える。
直人は誰に言うでもなく呟く。
「直人様のダンジョン運用を甘く見るなよ」
今日ばかりは、玉座の間の豪華さと影が
力強い応援をしてくれているように感じた。
(つづく)
魔界、協会、魔人、破り。とかくどこの社会にも闇があるようで、
直人君、腐りながらも、決意が固まるのでした。




