第三章 第24話 B20 そして自動迷宮化
B20までの設計をする直人。
相変わらず削られる恐怖を乗り越えて進む。
深さは盾になる。
B10が入口に見え始めたなら、B20は“最低限の厚み”だ。
B20まで、淡々と、事務的に増やす。
日が変われば新たな階層設計という、
感情も何もない単なる”作業”。
こんなにドライに出来ると思わなかった。
これは単なる慣れなのか、それとも特上素材の薄膜のお陰か……。
魔王部屋の付属で休憩室があり、睡眠も取れるが、
角が邪魔で熟睡ができない。
現実に帰り、睡眠を取るようにしている。
B20が完成した時、UIに表示が出た。
【増築完了】B20
【魔王Lv】Lv12
【ミュート5分】13日
【復活】 36年
【補足】B16以降:3フロアでLv+1(ゲージ持ち越し)
直人は寒気がする。
記憶も問題だが、復活36年。
ひなは俺よりはるかに年上になる。
下手すれば、ひなの子供の成人式が近いか……
こればかりは相変わらず慣れない。
しかし、以前はLv上がった際、脳内に重い負荷が来た感覚があったが、
今、Lvが上がったのに、脳内は割とクリアだ。
直人は試すように、口の中だけで言う。
「美沙。ひな」
名前も顔も出る。
胸は痛むが、“穴”の感覚がない。
記憶欠けは正直わからないが、以前より改善されている気はする。
”素材”のお陰なんだろう。
ボス面接の前に、B11~B15ボスとギミックをそのまま下層に移し、
B16~B20に移動させる。
こちらも、もう単なる作業になりつつある。
但し、今回いつもと違うのは、破り対策で、B11ボス部屋だけは、
広い部屋にした。
戦力集中させた際、狭いと逆に戦力を落としてしまうからだ。
無駄なギミックも無し。シンプルで大きな部屋にした。
そして、デーモンロードからの口利きで集まったボス候補5人(5体)。
それぞれが直人の前で堂々とした姿で立っている。
デスナイト
立っているだけで死の気配がある。だが礼儀は正しい。
ハイ・リザードマン
上位蜥蜴人。規律に忠実だが、威圧感がある。
ギルタスコーピオン(蠍人)
半人姿で甲殻が硬い。動きは静か。毒の匂いがする。
ドラゴン・キマイラ
多頭で息も存在も重い。ドラゴン面接を思い出す。直人の胃が先に痛い。
マスター・オーガ
大きいのに、目が冷静。殴られたくないタイプ。
それぞれ、個性的で、あまりこういう立場でなければ
会いたくないオーラを纏っている。
一番の「知性派」と思しきギルタスコーピオンが代表して話す。
「魔王の撤退誘導は我々の常識にはない。
当初は我々への愚弄と考えたが、
魔界の常識とは違う新しい治世に期待し、助力する」
直人は一旦その言葉を引き取り、応じる。
「お前たちの戦闘本能を無視するものでは無い。
しかし、ここでは非殺傷が基本だ」
「一つ、撤退誘導、二つ、門への接触禁止、三つ、飯で揉めるな。重要事項だ」
「最後、デーモンロードに従え」
「戦いは許されぬのか?」
「なるべく戦うなという事だ。禁止では無いが
お前たちを含めた犠牲は好まない」
「非戦の極意も学べ」
「承知した。我ら5名、魔王に忠誠を誓う」
「励め。それと、破りが来たら、共同戦線になるぞ」
「そちらも了解した」
「では、B11はデスナイト、B12はハイ・リザードマン、
B13がギルタスコーピオン、B14はドラゴン・キマイラ、B15はマスターオーガだ」
一同が礼をして下がる。
UIに入力。
【雇用:配置】
B11デスナイト
B12ハイ・リザードマン
B13ギルタスコーピオン
B14ドラゴン・キマイラ
B15マスター・オーガ
デーモンロードに、ボス配置を伝える。
「よろしく頼む」
「うむ。鍛えてやろう」
「破りが来た時はB11集合だ。部屋を広くした」
「妥当だな。暴れる奴らには、狭いのは致命だ」
ミリアが小さく拍手しそうになって止める。
「魔王さま♡ 現場が嫌すぎて豪華♡」
直人は息を吐いた。
「豪華は目的じゃない。嫌はいいけど」
そこに、シズクから報告が来る。
「魔王様、魔鉱石が来ました」
魔鉱石が来た。
それだけで、直人の背中の筋肉が一段だけほどけた。
まだ安心ではない。
「やっと来たか。早速自動迷宮化を実装するぞ」
UIを操作し、B20までのフルで自動迷宮化のプログラムを組む。
【自動迷宮化:v0.2(破り専用)】
・トリガー:破り検知
・撤退導線:保持
・消費:魔鉱石(大)
・停止:ロールバック可(魔王権限)
直人は最後の一行で指を止める。
「ロールバックは必須だ」
ミリアがにこにこする。
「魔王さま♡ 保険♡」
直人は頷く。
「保険がないと死ぬ。現実も魔界も」
実装を押す。
進捗バーが伸びると共に、
地鳴りのような音が聞こえて来る。
直人は小さく息を吐いた。
「……これで“面倒”は作れる」
ミリアが嬉しそうに言う。
「魔王さま♡ 面倒の達人♡」
直人はミリアを見ながら
「お前らもな」
ミリアはニコニコ。
皮肉は通じていないようだ……
UI表示が変わる。
【自動迷宮化】有効(破り専用)
【追跡】AUTO-20
【停止】ロールバック可(魔王権限)
ミリアが楽しそうに
「嫌なダンジョンその2♡」
直人はミリアを横眼で流しながら、
やっと実装できた事に安堵する。
もっとも、破り以外では使うことは無いだろうが…
よし、これで当座の設計は終わった。
そして、次なるアクション。
「ミリア、将軍への謁見手配を頼む」
「はい。用心棒ですね♡」
「そうだ。そして、魔鉱石のお礼の件もある」
ミリアは嬉しそうに言う。
「魔王さま♡ 交渉♡」
直人は頷くだけで返した。
「生存戦略だ」
将軍の隣の銀髪がふっと記憶に浮かぶ。
言い寄って来られた時の不快感まで手に取るように蘇る。
そんな事を覚えているなら、記憶回路は大丈夫だ、たぶん。
たぶんしか言えないな。
将軍に会う前に、無性に家族に会いたくなった。
直人は戻る。
家族の元へ、身体も心も。
帰る所があるのは、この削られる世界で、本当にありがたい。
家族に心底感謝しながら、噛みしめるように
「現世」コマンドを押した。
(つづく)
家族との時間が何より大事な直人。
対局の世界での対局の存在の居る将軍の元へ。
次回、アビス将軍への再訪。




