第三章 第23話 覚悟の運用
家族との時間が、直人にとっては言いようのない救いの時間になる事を理解した後、
ダンジョンを強化する事に迷いも無くなる。
早速、階層を進める事に。
玉座の間で直人はUIを開く。
B15の現状から、B20までを設計するつもりだ。
その前に、
「ミリア、Lvが上がる条件は他にあるのか?」
「はい♡」
「階層以外を教えろ」
「勇者退治で一つ上がります♡」
「この前のやつだな」
「はい♡」
ミリアは探るような目で続ける。
「それと、破り撃退でも上がります♡」
「この前は上がらなかったぞ」
「あれは撃退ではありませんでしたから♡」
「そうか、自分で勝手に帰ったからだな」
「他には無いのか」
「はい。今は♡」
「今は?」
ミリアが上目遣いでニヤニヤしている。
ダメだ。この顔になるともう追加情報は無理だ。
気を取り直し、設計に戻る。
まずはB16.。
【増設】B15→B16
YES/NO
迷いもしない。YES。
ミリアが
「魔王さま、迷子じゃない♡」
直人は
「事故は嫌だからな」
協会からナンシーの定期。
事務的に返信する。
もう何十回いや、百回以上やり取りしたか……
それと、待ちに待った魔鉱石支援の決済通知。
やっと来るか。
魔鉱石が来れば、自動迷宮化が実装できる。
そして、ふと見ると、シュレが入って来ていた。
「どうした?」
「情報にゃ」
「仕事出してなかったはずだが」
「サービスにゃ」
直人は眉をひそめる
おやつ欲しさだな…
「聞こう」
「魔王たくさんいるにゃ」
直人は一瞬動きを止める。
「大陸に大勢いるのか?」
「そうにゃ」
「近くにはダンジョンあまり無いと、以前報告あったが」
「大陸は広いにゃ。
レベル低いダンジョンは破りに狙われやすいにゃ」
「前言ってたB50が必要と?」
「深いダンジョンはあまり襲われないにゃ」
やはりか。深さが盾になるんだな。
B50くらいの威圧は必要ということか。
「ご苦労。報酬だ」
直人はスティックおやつを一つ渡す。
シュレはむしゃぶりつく。
「いいか、厨房と農園は触るな」
「仕事欲しいにゃ」
「いいだろう。破りの後のダンジョンを見守れ。
その後どうするか見届けろ」
「わかったにゃ」
シュレは音も無く消える。
とりあえずはB20までだ。
UIを通し、デーモンロードを呼ぶ。
「どうした、魔王」
「戦えるボス5人を紹介してくれ」
「”戦える”、はどの程度だ」
「本音を言えば、破りに対抗できる材だが、
無理なら、現ボスと被らないスキル持ちが良い」
「ふむ、全くかぶらないのは無理だが、志向の違う材を当たろう」
「頼む」
B1~B10までは再生可能ボス。
B11~B20までが戦えるボス。
イザという際には、B11以降の戦闘ボスを全員集めて迎え撃つ。
自動迷宮化は魔鉱石消費が激しいので、基本破り専用。
ミリアがにこやかに
「賑やかになります♡」
「運用の面倒は増えるが、必要だからな」
そして、
「デーモンロード、それと別に、用心棒を雇えないか」
「破り対策か」
「そうだ」
「相当な手練れで無ければな……。
それは俺では無理だ。アビスに依頼する話だ」
アビス将軍に依頼……。
当然か。
あの破りに対抗できる存在なら、遊んでなどいまい。
シュレとは別次元の傭兵のようなものか。
「承知した」
デーモンロードの影が消える。
直人は訓練部屋に出向く。
シズク、エーデル、アコニットが揃っている。
シズクが淡々と言う。
「魔王様、訓練です。
課題は戦闘中のスキルコントロールです」
「わかってる。望むところだ」
メイドたちがフォーメーションを組む。
シズクが正面、エーデルが一歩下がり、アコニットが横にずれる。
まともな戦いなら、既に負けている。
圧がすごい。
シズク一人でもデーモンロードと戦えるのに、三人の波は尋常ではない。
エーデルが詠唱を始める。結界か。
アコニットがすっと見えなくなる。
瞬間、背後に影。
意識を一瞬足先に力を集中させ、高速離脱。
同時に、”虫の影”をエーデルの方向に払う。
アコニットの一撃はかわせた。
エーデルが”ひゃっ”と騒いでいる。
「魔王様、それ嫌っ」
結界が一部無効化されたようだ。
しかし、進行方向を読んだシズクが
間髪入れずに近づき木剣を振り下ろす。
肩口に痛みが走る。痛い。
流石に避け切れなかった。
続いて、アコニットも喉元に木短剣を当ててくる。
勝負は一瞬だった。
しかし、唯一、バグを意識してエーデルの魔法に当てる事はできた。
コツをつかみ始めたかもしれない。
バグったままのエーデルの術を、
UIを見ながら隔離する。
シズクが
「魔王様、勝負には負けましたが、成果は認められます」
エーデルが
「そのスキル、とっても嫌です」
アコニットは
「もっと逃げるタイミングと方向に気を付けて下さい」
三人のそれぞれの感想、評価がありがたい。
「よし、もう一回」
何度か訓練して、休憩をしていると、
デーモンロードから、ボス候補を選んだ連絡が来た。
面接は後日だ。
今はとにかくダンジョンを進める。
門の為にもなるはずだ。
UIに増築の進捗が出ている。
B16がもうすぐ完成する。
直人は進む。振り返らない。
後ろには美沙がいてくれる。
ひなの為に、俺は運用を廻す。
自分の体調も、怖さも、バグも運用対象だ。
「ミリア、俺はまだ弱いか?」
ミリアはにっこり笑う。
「はい。とても弱くて最強です♡」
直人は訝しがりながら、答える。
「褒め言葉として受け取っておこう」
ミリアの瞳を通して、魔界の底知れなさが見えた気がした。
(つづく)
まだまだ直人のダンジョンは「深く」は無い。
しかし、直人の運用は、魔界の理を崩す可能性を持つ。
次回、階層が進み、新規ボス達もやって来る。




