第三章 第22話 本業の時間
勇者たちは強かった。
しかし、一匹狼のボス達を今回のように集中させれば強い事がわかった。
ダンジョンの次設計の前に、やはり帰るべき場所に。
直人は、やはり侵入者たちが奥まで進んだ事に衝撃を受けていた。
B1ブラッドスライムの核再生を見た。
B2アシッドスライムフロアは、酸の匂いがきつかった。
そして、B10まで各階層ボスを巡回して労う。
再生中ボスも何体かいた。
生々しい戦場と、現実とは違う魔界の姿に、改めて違和感を抱くと同時に、
ダンジョンを守れたという安堵感で胸に射す光を感じた。
Lvが上がった。
ペナルティが増えた。
恐ろしい。何が欠けた?
家族に会いたい。
「ミリア、帰る」
「はい、魔王さま♡」
直人は居間に帰る。
魔界でずいぶん時間を過ごしたと感じていたが、
現実では、まだ二人を見送った朝のままだ。
ソファに腰掛け、ふっと息をつく。
目を閉じ、落ち着きながら、
暗黒世界からの邪念を払おうとする。
どれだけ時間が経ったのだろう、
疲れていたので、知らぬ間に寝てしまっていたようだ。
時計を見る。もう午後だ。
もうすぐひなが帰ってくる。
よし、夕食を作ろう。
麻婆豆腐も良いが、今日の気分はカレーだ。
学生の頃からカレーは主食だ。
家族にも何度か作った事がある。
美沙に夕食を作るとLINEを送る。
幸い材料は揃っていたので、調理にかかる。
じゃがいもをむいて、人参を半月に切り、タマネギを薄切りにする。
肉を焼き、全部合わせて鍋で煮込む。
そして、ひな用の辛くないルーを入れてさらに煮込む。
ゆっくりかき混ぜながら、色々な事が頭をよぎる。
破りと違い、勇者は正統派の”敵”だ。
今回、再生可能ボスたちが蹂躙されたが、それはある程度想定内。
しかし、強者が来た時に、特に破り対応としては、
自動迷宮だけでは時間稼ぎ程度にしか防げない。
戦えるボスクラスがもっと必要だ。
階層も増やさなければ心許ない。
記憶や復活などのペナルティが恐ろしいが、
ダンジョンが破られる事と比べれば、
代えるものなどない。
協会も執拗にLvに拘っている。
鍋は焦げても作り直せる。
でも、記憶は焦げたら戻らない。
しかし…
「また、階層増やすしかないか」
一言呟き、カレーを混ぜる火を止める。
良い香りとコクになってきた。
家族の帰りを待つ間、再度身体の疲労を感じ、
ソファで休む。
こちらが5分ミュートを入れてる間に、
魔界では何日も進む。
向こうで休んで仮眠取る事もあるが、
魔王状態だと、角もあり、ゆっくり休む事ができない。
休むのは家でないと疲れが取れない。
「職場だな」
自嘲する。
そんな事考えてると、ひなが帰ってきた。
幼稚園に送迎車があるので、時間通りに帰ってくる。
「パパ、ただいま」
パッと明るさが広がる。
そうだ、やはりひなが中心なんだと実感する。
ひながカレーの匂いに気付く。
「カレーだ」
嬉しそうに言う。
「そうだ。ひなの好きなカレーだぞ」
「やったぁ。パパ大好き」
「よし、じゃあ、まずは着替えて、手を洗ってきなさい」
「はーい」
良い子だ、とても。
しかし、直人に暗い影が落ちてくる。
「Lvが上がり、復活33年」
恐らく、その頃は、ひなに、今のひなよりも大きな子供がいるはずだ。
一生懸命着替えを頑張っているひなの姿を見ながら、
ぼんやりと、ひなの大人の姿を想像してしまう。
美人になるだろう……な。
そして、美沙も帰宅する。
「ただいま」
「お帰り」
「夕ご飯ありがとうね。あ、カレーのいい匂い」
明るい言葉。
普通の会話。
普通の家族。
「普通が一番だ」
直人はむしろ自分に向けて言う。
美沙がじっと見つめて、
「何かあった?」
直人は一拍置き、
「最強勇者が来た」
「何とか撃退できたけど、それでLvが上がって、
ペナルティが33年になった」
驚きで美沙の目が開く。
「どうして…そんな」
「いまだにシステムがよくわからない。理不尽だという事だけはわかる」
「魔界はあたし達の敵ね」
直人は静かに頷く。
美沙と意識が合う事は重要だった。
夕食は明るく、直人は心底幸せを感じる。
ひなは、カレーを美味しいと笑顔で食べてくれた。
美沙も、「合格」と言いながら食べる。
直人は少しソースを足す。
こういう時間だ。俺が欲しいのは。
改めて思う。
明日は休日だ。
「明日は出かけよう」
「やったあ」
「ショッピングモールに行こう」
美沙が心配そうに聞く
「大丈夫?」
「これが俺の本業さ」
次の日、美沙と、はしゃぐひなを連れて、
近くのショッピングモールに出かける。
車で出かけたのだが、
行き慣れた道なのに、途中曲がり道で方向がわからなくなり冷や汗をかく。
欠けてるな……。
「ごめん、美沙。帰りは運転頼んでいいか」
「うん。そうしようか」
その判断ができたことに、直人は少しだけ安堵した。
モールの中では、まず映画を見る。
こども映画祭りをやっていて、ひなは大喜びだ。
そして食事。
フードコートの席に座り、思い思いの店で買った料理をつまむ。
ひなは、ハンバーガーを美味しそうに食べ、明るい顔だ。
魔王ランドの時とは違う。
ペナルティは今の方が重くなっているが、
あの時は、俺一人で抱えていた。
それが、今、美沙と共有できたおかげで、
その笑顔を見る自分も、あの時と違う笑顔が出せるのが
何とも救いになっている。
美沙の顔もあの時とは違う。
とても柔らかい目で見て来る。
直人も言葉は出さず、目で応える。
午後は、ひながゲームコーナーに行きたいというので、
「試練」に挑戦する。
クレーンゲームでお父さんの威厳を保ち、
対戦ゲームで、ギリギリの所で負ける高等テクニック。
結局、その後、ショッピングもして、夕方までモールにいた。
丸一日家族で楽しむ。
昔は、家族サービスの時間も、仕事が気になって仕方なかった。
魔王ランドでは、もっとひどかった。
しかし、今日は違う。
途中、少しダンジョンが意識に上ってきたが、
基本、家族に集中できたし、
何より、”楽しかった”。
ひなに負けず、楽しんだ。楽しめた。
色々背負ったままだが、美沙の協力という後ろ盾だけで、
これほどまでに、安寧を得られるのかと驚いた。
ひなが笑うだけで、戻る場所が分かった。
直人は改めて思う。
この小さい、しかし、とても重要な世界を守る事が、
俺が向こうで覚悟して進む礎なんだと。
自分が持つ嫌なスキル。
嫌なままでは誤爆が続く。
そこを越えなければ全てを守る事などできない。
直人は、自分に対しての宣言にもなるようにつぶやいた。
「嫌なものでも、向き合う。家族を守るためなら」
(つづく)
ダンジョン設計だけでなく、嫌なスキルも乗り越えなければならない直人。
破り再来に向けて、設計を続ける。




