第三章 第21話 最強勇者
メイドが増えて足元を固めたと思ったのもつかの間、
新たな脅威の襲来。
直人は美沙とひなを見送った後、
玉座の間に。
シュレの情報で、大陸最強勇者の情報が入っていたが、
最強を測りかねていた。
シズクに問う。
「最強って、この前の破りくらいか?」
「詳細は存じませんが、以前は階層深くまで到達した勇者はいました」
「勝てたのか?」
「はい。魔王さまが戦い撃退致しました」
直人の肝が冷える。
自分は戦えないが……
そんな時に、UIに侵入者アラート。
ミリアが視線を据えたまま告げる。
「来ました。勇者です♡」
直人は一瞬身構えた。
身震いが走る。
「例の勇者か?」
「はい♡恐らく♡」
会話をしている間に、既にB2に入っていた。
早い、早すぎる。
破りではないので、自動迷宮は発動しなかった。
監視映像を出す。
4人パーティのようだ。
迷いが無い。宝箱など見向きもしない。
ダンジョン構造を知っているが如く進んでいく。
直人は背筋が凍る。
破りとは違う圧がある。
流石の本物勇者だ。
撤退誘導に乗っては来ない。
B2も軽々破られる。
元々”撤退”させるためのボスなので、
戦いに向いていない。
およそ足止めにもなってない。
直人は焦る。
ダンジョン破壊目的では無いにしろ、
結果論、破りと同じだ。
目的は俺、魔王だ。
UIを通し、デーモンロードを呼ぶ。
「魔王よ、来たな、勇者が」
「ああ、守れるか」
「手強い。俺がぎりぎりかもしれん」
初めて聞くデーモンロードが認めた相手の強さ。
その一言で直人の背筋が冷えた。
シズクが
「魔王様、この敵はすぐに下層に達します」
エーデル、アコニットも無言でうなずく。
「そんな賭けはご免だ」
「B10まではすぐに来る。準備する」
一旦影の声は消える。
勇者たちは既にB4まで到達していた。
(やはり今までの冒険者とは質も力も違う)
直人は考える。
何か手は無いか、手立ては。
焦る心で必死に答えを探す。
すると、シズクに言われた言葉が蘇る。
”魔王様の統治”
統治、そうだ、俺が統治するんだ。
個別に任せておくのとは違う。
何も個別撃破を待つ必要などない。
再度デーモンロードを呼ぶ。
「何だ、魔王」
「全員で迎え撃て。B11に戦えるボスを全員集めろ。
そこで一斉に迎え撃て。
但し、デーモンロード、お前は後方で指揮を取れ」
「なるほど、了解した。全員を集める」
勇者たちはB6に達している。
UIに、ボスたちが移動しているログが出る。
「頼むぞ」
メイド達には玉座の間で万が一に備えさせる。
勇者がB8まで到達した時に、
B11に揃った報告が来る。
連携訓練などやっていない。
さらには、一匹狼の集まりなので、上手くいくかどうか。
もう、デーモンロードの支配に任せるしかない。
「デーモンロード、結界を使い戦場を支配しろ」
「承知した。支配だけではないぞ。簡易な回復もできる」
「それなら好都合だ」
B10まで突破された。
再生可能ボスが全滅だ。皆すまない。
直人が見るモニターに
勇者たちがB11ボス部屋に入るのが見えた。
彼らは、その光景に驚く。
今までは弱小ボスが申し訳程度に居座っていただけなのに、
ここでは、遥かに強力そうなモンスターが、
しかも前に4体、後方に1体がいる。
勇者
「おっと、本気出してきたな。よーしこっちも出し惜しみは無しだ」
と言い、自慢の剣を振りかざす。
魔法使い
「奥の魔人が支配してるようだ。私は結界張ってからそこを狙う」
早速詠唱を始める。
ガーディアン
「今まで通り、俺が盾になるぜ」
と盾を前に出す。
賢者
「回復と強化に集中しないと不味そうだ」
同じく詠唱を始める。
そんな会話と準備動作を続けさせる間もなく、
サラマンダーが待ちきれず業火をお見舞いする。
勇者たちは、出鼻で一瞬怯み、一歩引く。
その間に、アークデーモンが地獄の炎熱効果の呪文を唱える。
エルダートロールと、デーモンジェネラルが前に出て壁のように立ちふさがる。
勇者が一閃、切りかかるが、ジェネラルが、所を得たりと切り結ぶ。
統治で一旦心を折られたジェネラルが、
我が力を示さんと、みなぎる戦闘欲を勇者にぶつける。
そして、エルダートロールはガーディアンに対し押していく。
体力はトロールが絶大だ。ガーディアンが押される。
今までの階では、彼が押さえている間に勇者の剣技が入る戦いだった。
魔法使いが炎の魔法を使いトロールを退けようとするが、
デーモンロードの結界のお陰で届かない。
その炎の魔法より遥かに強力な、サラマンダーの大火炎が、
パーティ全員を包み込む。
魔法使いの結界のお陰で致命は避けられたが、
続けて、アークデーモンの地獄の業火が追い打ちで来る。
流石にボスクラスの業火の連続は魔力の消耗が激しい。
賢者も結界の再生に協力する。
賢者が防戦一方になったお陰で、前線の二人の体力回復が間に合わない。
それぞれ互角に近い戦いは出来ていたが、
魔人側はデーモンロードが張った結界と、回復のお陰で戦力が減らない。
ジェネラルは、嬉々として勇者と相対している。
時間ばかりが過ぎていく。
ここで、機を見ていた勇者が
切り札と思しき特殊剣技スキルを繰り出し、
ジェネラルに深手を負わせる。
しかし、直後、デーモンロードの回復が時を移さず入る。
勇者は倒したと思い一瞬油断していた。
すると、ジェネラルの返す一閃が、勇者の懐を抉る。
勇者が怯む。しかし、賢者から回復が来ない。
「くっ、こいつら魔物のくせに連携しやがる」
ガーディアンもトロールの剛力に手負いが重なり防戦一方になっている。
流石に消耗が激しくなってきて、勇者も引き際を考える。
(無理に突っ込んでも、消耗ばかりが進む。
このフォーメーション崩す手立て考えねば。
一度引き、態勢を立て直すべきか)
手負いの勇者は決断する。
「引くぞ」
「了解」
撤退も見事な連携を見せ、手負いの前線の2人を庇いながら、
一糸乱れず消えて行く。
見事だ。
戦況を見る力がある。
引き際の見極めが見事だ。
デーモンロードはボス達に追撃は命じない。
UIも、勇者パーティが去っていった事を告げる。
後には焦げた匂いが残り、荒れた場が戦闘の凄まじさを物語る。
恐らく、ボスが個別に戦っても撃破されただろう。
以前、深層まで達したというのは本当のようだ。
流石は大陸最強パーティだ。
直人は肩の力が抜け、玉座に深く腰掛ける。
「デーモンロード、よくやった」
「魔王が戦力集中させたのは正解だったな」
直人はさらに、
「指揮も見事だった。回復役を動けなくさせたのが勝利条件だった」
「そうだな、まずは、そこが重要と判断した」
「次も、事あればこの方法で行く」
直人が一息ついていると、
UIにポップアップで表示が出る。
【魔王Lv】 Lv10→Lv11
【ミュート5分】 12日
【復活】 33年
「何だこれは?何故上がる?」
「しかも、復活が33年になってるぞ!」
ミリアがニコニコしながら言う
「魔王さまへのご褒美です♡」
「勝手に上がるな、それに、褒美なものか、
復活ペナルティが急に上がるなんて聞いてないぞ」
「素材で記憶確保始めてます♡」
「勇者を追い返すと上がるのか」
「はい♡」
(……33年……、ひなが今の美沙の歳を超えている。
それに何か記憶を失ったかは、今は分からない。)
直人は不安と疑念で、疑心暗鬼になるが、
とりあえず、本日は勇者を撃退できた。
統治という意味では、一定の成果だ。
しかし冷や汗だった。統治にも不安が残った。
「勝ったが、……むしろ余裕は相手の方があった」
直人は手の震えを押さえながら呟いた。
勇者撃退は良かったが、Lvアップのインフレ。
喜ぶ事も出来ない直人。
しかし、新たな統治に希望が。




