第三章 第19話 B15と嫌すぎる最強
ダンジョンを強くしないといけない。
直人は追われるように増設を進め、ボスたちも採用していく。
直人は設計を続けた。
魔界時間で1週間ほど経ったろうか。
B15までの増設設定をした、
見合うボス面接もした。
直人はUIを開き、淡々と実行ログだけを確認する。
【増設】
・B11〜B15:増設完了
・既存ボス/既存ギミック:B6〜B15へスライド配置
・入口層(B1〜B5):再生可能ボスに更新(配下配置済)
【設定】B1〜B5 新規ボス(再生可能)
B1:ブラッドスライム
B2:アシッドスライム(強酸)
B3:カース・プラナリア
B4:パラサイト・トレント
B5:ヴァンパイア・ローズ
直人は画面を見たまま、息を吐いた。
(名前が嫌だ。見た目も嫌だ。夜道で会いたくない)
でも“嫌”の方が撤退誘導には良い。
撤退するなら、正解だ。
ミリアが隣でにこにこする。
「魔王さま♡ 入口が嫌すぎて最高♡」
直人は頷く
「破りからも嫌われると良いけどな」
Lvも上がった。
上がった後も、嫌だ。
UIが短く点滅する。
【更新】魔王Lv:10
直人は理解する。
(Lv進捗:B10時点で、次のLvまで半分進んでいたらしい。
だから、B11でLv8になり、
そこから2フロアでLv1ずつ上がり、Lv10到達か)
そして、直人の喉が鳴った。
【ミュート5分】 11日
【復活】 21年
ミュートで11日。復活21年……
わかっているつもりでも、心が拒否している。
(そして、何を失った)
答えは出ない。
出ないから怖い。
怖いから、指が止まる。
直人は、写真を見ない。
名前を呼ぶだけにする。
「美沙。ひな」
名前も顔も出て来る。
それだけで胸が痛い。
それだけで“確認”になってしまう自分が嫌だ。
日常に帰り、美沙にLv上がった代償の事を話す。
「どうしてそんな理不尽があるのに、Lv上げなくちゃならないの」
門の件を話すが、美沙は首を振る。
「そんな、直人だけが苦しむの納得できない」
うっすらと瞳が潤んでいる。
「ひなの為だ」
美沙を見つめながら言うが、
心の揺れは隠しきれない。
「直人じゃ……なくならないで……」
直人は、美沙をじっと見つめながら、小さく頷く。
そして、気付いた。
すっきりしている。頭の中がクリアになっているイメージ。
新たに記憶欠けが起こっていない希望が灯る。
窓から差し込む現世の光が、その光明に感じられた。
魔界に戻り、
訓練部屋に行く。
シズクがいる。
今日は木剣と、いつもの表情。
「魔王さま。模擬戦です」
直人は頷く。
「……バグの誤爆、抑えたい」
シズクは即答。
「魔力操作と同じ制御のはずです」
直人は深呼吸を一つだけして、頭の中を区切った。
この前の“特上素材”の効果だ。
薄い膜じゃない。
“仕切り板”が入った感覚。
魔界仕事脳の引き出し。
家族の引き出し。
いま開けるのは——魔界仕事脳。
(切り分け。復旧)
シズクが踏み込む。
直人は避ける。前より“逃げ方”がましだ。
避けながら、杖のUIを見る余裕が生まれている。
その瞬間、頭の片隅に、ひなが浮かぶ。
また虫がいる
直人はふと思う。
(ひなに憑く虫って、父親には永遠に敵だからな)
ミリアが肩を揺らして笑う。
「嫌すぎる♡」
(見えるのか?)
払ってみる
——空気がズレた。
UIが赤く点滅する。
【異常】バグ:誤適用
【追跡】BUG-12
【影響】低
直人は歯を食いしばる。
(来た)
壁が一枚、雑に増える。
訓練部屋が一瞬だけ“迷路っぽく”なる。
ミリアが拍手しそうになる。
「魔王さま♡ 自動迷宮化♡」
直人は低い声。
「嬉しくない。バグだ」
シズクが木剣を止めずに言う。
「今のも誤爆です」
「分かってる」
直人はUIの提案を探す。三行だけ。
【提案】差分解除
【追跡】BUG-12
【回復】不可(隔離のみ可)
直人は押す。
壁がストンと戻る。
戻り方が“なかったこと”すぎて、心臓に悪い。
直人は息を吐いた。
「……嫌すぎる」
シズクは即答。
「同意します」
戦いは続く。
シズクの圧は相変わらず。
だが、直人は“見える”ようになってきた。
攻撃の種類ではない。
危険の匂いが見える。
これも素材の効果なのか?
そして直人は、ふと思い出す。
前に暴走した、厨房制圧。
(あれに“バグ”を当てたらどうなる?)
(誤爆じゃない。意図して当てる)
直人は息を整え、仕事脳で考える。
「シズク」
直人が言う。
「一回、“厨房制圧(弱)”を起動してくれ」
ミリアが目を丸くする。
「ここで♡?」
シズクは一拍置き、頷いた。
「訓練用に限定します」
シズクが袖口の小瓶を鳴らす。
――カン。
薄い湯気が立つ。
“弱”だ。だが制圧の匂いは同じ。
直人は目を閉じる。
狙う対象はひとつ。
厨房制圧そのものではない。
スコープだ。
(範囲。対象。解除条件)
直人は意識を集中して、ひなをイメージし、
顔に付いた虫を術式に向かって「当てる」。
当たれば、それは誤爆じゃない。
——湯気が、変わった。
広がらない。
外へ漏れない。
代わりに“内側だけ”が、綺麗に止まる。
シズクの目が、わずかに動く。
「……止めた」
直人は息を吐いた。
「止めた。…当てられた」
UIが短く点滅する。
【対象】厨房制圧(弱)
【操作】バグ適用(スコープ調整)
だが次の瞬間、代償が来る。
床の格子が一枚、ズレる。
壁が雑に歪む。
“修復”が必要な歪みだ。
ミリアが小声で言う。
「後始末♡」
直人は首の後ろを押さえた。
「……嫌すぎる」
シズクが淡々と告げる。
「修復します」
直人が言う。
「俺もやる。…やった責任だ」
シズクは直人を見る。
無言で。
そして短く言った。
「魔王さま」
直人が息を止める。
「何」
「そのスキルは——最強です」
直人は乾いた笑いを出しそうになって、飲み込んだ。
最強のお墨付き。
でも、嫌すぎる。
玉座の間。
直人は椅子に沈み、目を閉じた。
B15。
Lvも3つ上がった。
記憶欠けの恐怖。
バグ。
そして、協会の条件。
胃が痛い。頭が痛い。
でも、手は動く。
運用は止められない。
UIの端に、短い表示が残っていた。
【状態】ユニークスキル:バグ(未習熟)
【注意】誤適用の可能性あり
直人は、じっと見ながら呟く。
「嫌すぎる……」
そのころ。魔界のとある場所。
光の届かない回廊で、影が向かい合っていた。
「……動き始めましたね」
「はい。ユニークスキル。想定より早いです」
「危険ですか」
「大変危険です。そして有用かと」
一拍。
「観察を続けます」
「頼みます。……まだ、先は長いでしょう」
黒い大きな影は静かに、笑った。
その笑いが、どこか“夜”の匂いを持っていた。
(つづく)
嫌なスキル、バグとの付き合いが続く中、ダンジョンも広がっていく。
段々仕事が増えてきた。
次回、手が足りないとなれば……




