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「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第三章 魔界でも社畜でした

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第三章 第14話 バグ

将軍の挨拶を終えた直人。

特上素材を少しずつ摂取する。

表面上は落ち着いたように見えるが……

玉座の間。


現実の仕事が止まると、魔界の仕事が前に出る。

特上素材の摂取にも、少しずつ慣れてきた。

地獄味は地獄味のままだが。

胃は痛いまま。

それでも、前みたいに落ちたりはしなくなった。

少し頭が重い程度でクリアできている。


直人は玉座に座り、杖のUIを開く。

協会の差し戻しは減らない。

魔鉱石依頼の書式の往復……。

破り対策は未完。

自動迷宮化は未実装。


でも、ひとつだけ変わった。

「……安定した感じがある」



訓練部屋。

魔物たちは退去。

床の格子が薄く光る。

直人は目を閉じた。

今日は“イメージ”の訓練。

デーモンロードに教わった、あれだ。

自分の中の魔力を受け入れて、包み込む。

全身でまとって、押し出す。


(守る)

ひなの顔が浮かぶ。

あの柔らかい頬。

寝顔。

「パパ」と呼ぶ声。

直人は、そのイメージを抱きしめるように——

……して、眉を寄せた。


(……ん?)

ひなの頬に、何かが見えた。

黒い点。

点というより、小さな虫みたいな影。

ひなの顔に、虫?


直人は嫌なものを見た気がした。

(何だ、あれ)

(いつ付いた)

(取れ)

直人は反射で虫を払う。

現実ならそれだけだ。

だがここは、魔界だ。


手を動かした瞬間、イメージが崩れ——

「……っ」

空気が“ズレた”感じがした。


訓練部屋の端で、シズクが一瞬跳ねたことに直人は気づかなかった。


次の瞬間。

隣にある厨房区画から、湯気が噴き上がった。

「!?」

白い。濃い。止まらない。

温度が上がる。湿度が上がる。視界が薄れる。

「湯気」ではない。制圧の蒸気だ。


ミリアが目を見開く。

「えっ♡」


シズクが一歩だけ前に出る。

顔が一切動かないのに、空気だけが凍る。


「魔王様」

シズクの声は低い。

「厨房制圧が……暴走しています」

直人は瞬きをする。

「は?」

「止まりません」

「何を言ってる」


直人はまだ、何なのか認識できていない。


シズクが淡々と告げる。

「湯気が出っぱなしです。厨房が——」

「勝手に制圧を続けています」


直人の背中に汗が浮いた。

(やばい)

この世界で「出っぱなし」は、事故だ。

現実ならガス漏れ。

魔界なら、術式。

しかも、シズクの術式だ。

味方の術式が壊れるのは、労災だ。


直人は杖のUIを開いた。

「何か策はないか」


指が勝手に動く。現実の事故対応と同じだ。

【運用】→【厨房】→【制圧】


項目がある。あるが——

【厨房制圧】稼働中

【停止】(権限不足)

直人は目を細める。

「権限不足!?」

ミリアがにこにこする。

「魔王さま♡ 厨房はシズク管轄♡」

「今それ言う!?」


シズクが一礼もせずに言う。

「私が止めます」

シズクが袖口に指を入れる。

——入れた瞬間、湯気がさらに濃くなった。

「……止まらない」

シズクの声が、初めて“苛立ち”を含んだ。

恐ろしい圧がある。


ミリアが囁く。

「事故♡」

直人は胃が痛い。

「事故って言うな。対応中だ」

挿絵(By みてみん)


直人は深呼吸を一つだけして、やることを絞った。

原因ではない。被害を止める。

「シズク、厨房から離れろ」

「——なぜですか?」

「いま、制圧のスコープが“本人”に引っ張られてる可能性がある」

言ってから、直人自身が驚く。

(俺、何言ってる?)


だがシズクは、即座に下がった。

プロだ。

下がるのが強い。

湯気が、わずかに薄くなった。

しかし、止まらない。


直人は息を飲んだ。

(俺が原因……?)

その瞬間、胸の奥で何かが“点灯”した。

そのとき、UIの端で、見慣れない表示が一行だけ点滅した。

いつもの報告書地獄じゃない。


【通知】スキル解放

【名称】ユニークスキル:バグ

【状態】未習熟


直人は目を細める。

「バグ……?」

背後でミリアがにこにこする。

「魔王さま♡ 物騒♡」

直人は聞こえないふりをした。


さらにUI表示が短く続く

短いのに、心臓に刺さる。

【異常】厨房制圧:バグ適用

【追跡】KITCHEN-01

【提案】差分解除ロールバック


直人は固まった。

「……バグ」

ミリアが笑う。

「魔王さま、暴走♡」

「笑うな!」


直人は、さっき出た新スキルを思い出す。

ユニークスキル:バグ。

未習熟。

俺はひなの顔の虫を払っただけだ。

——虫?

(ひなに虫が)

(俺がやったのか)

(虫を払おうとして)

(味方の術式に——“適用”した?)


「……原因はいらない。今は“差分”を切る」

「KITCHEN-01を、ロールバックする」


直人は、言葉の意味が分からないまま、手だけ動かした。

最低限のログ。

原因は出ない。

でも症状は出た。


「シズク。止まらないか?」

シズクは短く答える。

「通常は、私の解除で止まるはずです」

「でも、止まりません」


「止まらない……」

直人は一拍置いて言う。

「じゃあ、俺が“適用”したなら、俺が“外す”しかない」

ミリアが肩を揺らす。

「魔王さま♡ デバッグ♡」


直人は杖のUIを開き、スキル欄を押して

「デバッグ」と入力する。

すると、

厨房制圧に、新たに簡素な選択肢が一つだけ出る。


【ユニークスキル:バグ】

・差分解除(未習熟) 〈対象:KITCHEN-01〉


直人は「差分解除」YESを選ぶ。対象はKITCHEN-01。

ためらう暇はない。押した。

何も起きない。

——起きたように見えない。


だが次の瞬間、湯気が“ストン”と落ちた。

落ちる、という表現が正しい。

湯気が重力を得たみたいに床へ沈み、消える。


UIの追跡表示が、KITCHEN-01:解除済に変わる。

厨房の空気が戻る。

温度が戻る。

視界が戻る。

静寂。


しかし、一文が残る。

【隔離】厨房制圧:バグ適用

【回復】自動修復不能


直人には心臓の動悸だけが聞こえる。

(止まった……)

(だが、自動修復不能だと……)


シズクが直人を見る。

無言で。

その視線が痛い。


直人は先に言った。

「……すま——」

言いかけて飲み込む。

謝ったら増える。今は増やしたくない。

代わりに、事実だけ言う。


「事故だ。俺がやった」

シズクは淡々と頷いた。

「理解しました」

「……怒ってる?」

「現状分析です」

「それ便利な言葉だな」


ミリアがにこにこする。

「魔王さま♡誤爆♡」

直人はため息を吐いた。

「便利なのはいい。誤爆は怖い」



ユニークスキル:バグ。

解除できた。


直人は喉が渇いた。

(俺がやったのか?)

「……訳が分からない」

ミリアが笑顔のまま言う。

「分からないまま、強くなるのが魔王さま♡」

誤爆した理由も分からない。

そもそも、ひなの顔の虫は何だったのか。


直人は自分の手を見る。

虫を払っただけなのに、世界が壊れた。

壊れかけた。


そして、直人はもう一度思い出す。

ひなの頬の虫。

——あれは、見間違いか。

それとも、見えてはいけないものが見えたのか。


そして、突然脳内に出てきたスコープ表示のような映像と

口から出た言葉。

得体の知れない何かが自分を動かしているのか?

特上素材の影響か?


直人は玉座の間へ戻り、深く座った。

胃が痛い。頭が痛い。

でも、目だけは冴えている。

バグというスキルを、得たようだ。

そして同時に、怖さも得た。

(……これを、武器にしろと?そもそも俺はデバッグする側だぞ)

(それとも、俺が壊れる前触れか)


答えは出ない。

出ないまま、UIの端で小さな文字が点滅していた。

【状態】ユニークスキル:バグ(未習熟)

【注意】誤適用の可能性あり


直人は目を閉じた。

ひなの顔が浮かぶ。

虫の影も、浮かぶ。


直人は、現実が壊れる予兆を感じ、身震いがした。

そして、決意する。

「駄目だ。話さなければ」


(つづく)

ついにユニークスキルを手に入れた直人。

しかし、まだ使える状態ではない。

そして、現実への対応が何より優先。

次回、転換点です。

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