第三章 第9話 B10へ
破り対策を早急に行わなければならない。
直人は逸る気持ちで、まずは増築。
直人は決意する。
階層を進める。
破りの脅威をなるべく遠ざけねばならない。
自分が強くなるのは時間がかかるし、強くなれるかもわからない。
ならば、当座出来ることは、階層を増やす事だ。
直人は、当然のようにそこにいる銀髪に、
「ミリア、B10まで作る」
ミリアは笑いながら、
「背伸びしますね♡」
直人は自分に言うように、
「深くして“到達までの手間”と“時間”を増やし、
とにかく面倒にする」
UIの画面で階層管理を開く。
現在B7。
【増築】B7→B8
YES/NO
一瞬止まるが、今回は迷わずYESをクリックする。
階層が増えているのだろう、遠くで地鳴りのような振動がある。
デーモンロードを呼び、声が影に落ちてくる。
「魔王、どうした」
「B10まで作る」
「破り対策か」
「そうだ。3人ボスを増やすが、B1~B5までは再生可能ボスで
入口層を厚くする。時間稼ぎができるような設計だ。
呼べるか」
デーモンロードは、一瞬だけ間をおき、
「了解した。後ほど連絡する」
「頼む」
デーモンロードはスッと消える。
直人はミリアに問う。
「協会から素材は届いてないか」
「まだですね♡」
「早く届いてくれ……」
しかし、届いたのは協会メール。
【差出】担当ナンシー
【案件】督促
【提出】破り報告書
【確認】「破損」「破壊」の差分
直人は、思わずガントレットに力を込め、
危うくまた、ひじ掛けがインシデントになるところだった。
(早すぎる。破りが来たこと、なぜ協会が知っている?
まるで、最初から破りが来るのを知っていたようなタイミングだ)
一旦落ち着き、
淡々と「報告書」を記入し、送信する。
何かに当たりたいところだが、
どうせロクな事にならないと思い、
「ミリア、一度戻る」
と言い一度、現実に戻る。
家は深夜。
家族は寝ている。
ひなの寝顔を確認する。
まおうぬいぐるみを大事そうに抱えている。
愛おしい……
直人は、一旦ソファに座り、
デスクに飾ってある家族写真を手に取り、
しばらくじっと見つめる。
持つ手が小刻みに震える。
どれだけ時間がたったのだろうか。
思い立ち、再び、ミュートして玉座の間へ。
UI画面を開くと、B8の増築が終わっている。
しかし、魔王Lvは上がっていない。
まだLv6のままだ。
ミリアが
「Lv10までは2階層ずつ必要ですから♡」
「わかってる」
さらに【増築】コマンドを開き
B8→B9
YESコマンド入力。
進捗バーが進む。
その時、デーモンロードから連絡が入る。
「魔王、3名呼んだ。明日来る」
「名を」
「シャドウレイス、リッチ、リビングアーマー。
再生可能だが、そこまでの戦力ではないぞ」
「わかった。問題ない。今回の目的は時間稼ぎだ。明日面接する」
デーモンロードの影が消える。
直人は訓練部屋へ行き、シズクにみっちり鍛えられる。
装備を使えるようになる為の訓練。
焦りばかりが前に出るのを、無理に抑える。
その後、農園視察、
シリカが新しい作物を試しているという。
さらに、宝箱確認などをし、
戻ってメール対応。
そして、魔界で次の日。
UIを開くと
【増築】完了B9
【魔王LV】 Lv7
【ミュート5分】 8日
【復活年数】 15年
「15年……」
(ひなの制服姿は見れないか…)
ため息が出る。
さらに、躊躇しない。
【増築】B9→B10
迷わない。
YESを押す。
その時、ミリアが、
「魔王さま、面接♡」
見ると、3体の魔人が勢ぞろいしている。
シャドウレイス、声より揺らぐ影が先に立つ。
リッチ、赤く光る眼の奥と、骨で杖を持つ手。
リビングアーマー、無言の圧が来る空洞の鎧。
皆アンデッド系だ。再生可能。
それぞれが、禍々しい外見をしている。
直人が何か言おうとしたが、向こうから話してくる。
シャドウレイスが
「我らは、デーモンロードより指示を頂いている。
魔王に従えと。何なりとご指示を」
「なら、話は早い」
「第一、撤退誘導。破り以外は極力殺すな。
第二、門に触るな。必須。
第三、飯で揉めるな。
守れるか」
「我らはアンデッド、食料は必要ないが、魔素を頂く」
「事前に聞いていた話と相違ない。問題ない」
「魔素は使え。その分再生はなるべく早く。では採用する。
そして、デーモンロードの現場指示に従え」
「シャドウレイスはB3、リッチはB4、リビングアーマーはB5、
明日階層が出来る。持ち場に着け」
「もう一度言う、門には触るな」
「承知した。我らは魔王に忠誠を誓う」
ミリアが
「魔王さま、家族がいっぱい♡」
直人は
「家族じゃないな、同志だ」
そして、魔界側の次の日、
現実世界のわずか数分で、階層が複数増えるようになった。
B10が出来る。
しかし、魔王Lvは上がらない。
……次のLvには、あと一層必要のようだ。
UIでデーモンロードを呼ぶ。
「面接でボス採用した。B1スケルトンメイジ、B2キングスライムは継続。
今回の新規再生可能ボスをB3~B5に配置。
B10まで完成した。既存の強いボスほど下層へ落とす。
B3からB7の既存ボスと迷宮、ボス部屋はそのままB6以降に下げる。
B10は貴様だ」
「承知した」
直人は設計を切る。
B1〜B5:再生可能ボスで入口層厚く。
B6〜B10:既存のボス/迷宮ギミックをそのままスライド。
杖のUIに、再構成された防衛網が反映される。
【B1-B5:再生可能防衛群(スケルトン/スライム/レイス/リッチ/アーマー)】
【B6-B10:迎撃・迷宮群(エルダートロール/デーモンジェネラル/サラマンダー
/アークデーモン/デーモンロード)】
「魔王さま、本気♡」
「まだ足りん。もっと必要だ」
「欲張りな魔王さま♡」
そんな時に、シズクが現れ、
「魔王さま、“特上素材”が届きました。既に毒抜きされているようですので、
明日にはご提供できると思われます」
シズクの顔が、救済者に見える。
直人は、すがるような声で
「……頼む」
「欲しがる魔王さま♡」
直人は、黙ってうなずく。
今、まさに「藁にもすがる思い」という心境だ。
ポケットからスマホを取り出し、美沙やひなとの写真を眺める。
先日のまおうランドの写真を見ながら、
今、まだ彼女たちの名前を呼べる自分に安心すると同時に、
これがいつの事だったかわからなくなる自分もいた。
魔界との時間差もあり、混乱する。
――今回のLvアップで失ったものは何だ?
答えなど無い。
直人は、玉座に座り天を向き、しばらく動けなかった。
(つづく)
B10まで構築した。
しかし、まだ安心できない。
直人は次の一手を考える。




