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「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第三章 魔界でも社畜でした

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第三章 第7話 破り襲来

不穏な巡回が終わったばかりですが、

更なる不穏が牙を剥きます。

巡回の二人——VDとMK——は帰った。

帰った、というより「去った」。

痕跡だけを残して。

上納。素材。レベルアップ。

どれも丁寧な圧力だった。


玉座の間は静かだった。

静かな時ほど、何かが起きる気がする。


直人は深呼吸を一つだけして、

現場の報告に目を通そうとして——止まった。


空気が、ひとつ震えた。

ミリアが先に口を開く。

「魔王さま♡」

直人が聞き返そうとすると、

間髪入れずシズクが短く言った。

「来ます」

直人は確認する。

「何?」

シズクは迷わず。

「破りです」

直人の舌が渇く。


その瞬間、玉座の間の空気が“引っ張られる”感じがした。

門の揺らぎとは別の、もっと生々しい侵入の匂い。


直人は、UIで最小限の表示だけ開く。

【侵入】B1

胸の奥が冷えた。

(B1……)

B1のボスは、

「スケルトンメイジ」

再生可能だ。

だが“破られる”のは、想定していても心臓に悪い。

直人はすぐに判断しようとしたが、

ひとつ引っかかった。

「他のボスは待機しているか?」


シズクが即座に答える。

「今日は、デーモンジェネラルとサラマンダーが不在です」


直人の眉がわずかに動く。

「……不在?」

シズクは淡々と続けた。

「狩猟休暇です」

直人の口が乾いた。

「いないのか?」


急に背後から低い声がする。

「俺が出した」

影が立ち上がる。デーモンロードだ。

姿は出ない。だが支配は届く。

声だけで空気が締まる。


直人は背筋が冷える。

「B4とB5が不在…」

(よりによって、そんな日に……)

侵入者は待ってくれない。



「状況を」

絞り出すように問う。

「侵入者が違う——破りだ」

デーモンロードの短い声が、嫌な音で頭に刺さった。


探索でも討伐でもない。

“破壊”で来る連中。

直人は息を吐く。

撤退誘導が通じないタイプ。

そもそも“帰す”相手ではない。

「目的は」

直人が聞くと、デーモンロードは即答した。

「迷宮を壊して、中身を抜く」


直人は拳を握り、すぐに開いた。

怒りで握ると壊す。壊すのは破りと同じだ。

「……門に触らせるな」

ミリアが、珍しく口調を落として言った。

「触ります♡ だから危ない♡」


直人は判断する。

ここで迷っている時間はない。

「現場は、統治線で抑えて。俺は——」

言いかけて、直人は言葉を切った。

“俺は行く”と言えるレベルではない。

シズクが戦えるが、勝つ保障などない。


直人は確認する。

「殺さずに返せるか」

デーモンロードの返答は短い。

「返せない」

直人の喉が鳴る。

ここで方針がぶつかる。

直人は「殺さない運用」を選んできた。

だが破りは、殺すかどうか以前に、構造を壊してくる。


直人は、現実の顔を思い出す。

ひなの寝顔。

破りの狂気が、門の向こうに漏れたら終わる。


直人は結論を出した。

「止める。撤退じゃない。——ブロックする」

デーモンロードが、低く応じる。

「了解した」

シズクが短く言う。

「魔王様、状況開始です」

直人は頷く。

「判断する。出るのは最後」

それが、今の自分にできる最大限だ。


B1。入口階。

空気が荒れていた。


壊し方が雑じゃない。狙っている。

監視映像に映る。

直人の脳裏に、入口階の光景が立ち上がる。

骨が砕ける音がしたような気がした。

配置していたスケルトンが崩れたようだ。

(再生が——潰されてる)


シズクが一歩前に出かけて止まった。

直人が手を上げたからだ。

「待つ。見る」


モニターの向こうに、影が見えた。

デーモンロードの姿にも似ている。

冒険者の姿ではない。


迷いなく進む。

「……破り」


続けてB2キングスライムも長くは持たなかった。

核を簡単に切り抜かれ、無残に崩れる。


B3のエルダートロールとの戦闘になる。

破りは、力任せに次々と打ち込む。

エルダートロールは防戦一方だ。

スピードもパワーも違う。

そして、遂に致命的一打が入る。

現場で何度も話をしたボスが簡単に…。

挿絵(By みてみん)


倒れたのを確認し、破りはB4へ。


今日はB4デーモンジェネラルがいない。

おまけにB5のサラマンダーもいない。


B6に達する。

直人は冷や汗が出る。

休暇とはいえ、B5まで抜かれたのは初めてだ。


B6はアークデーモン。

迷宮があったが、破りは迷宮のギミックごと破壊する。


地獄部屋でアークデーモンと対する。

アークデーモンも決して弱くはない。

いや、むしろ、要の立派なボスだ。


しかし、

奴は魔法を撃ち合っていない。

アークデーモンが放つ業火の『地獄のギミック』を、

配線を断ち切るような正確さで空間ごと叩き割ったのだ。

その早業は、普段冒険者がめったに来ない事で、

油断のあったアークデーモンを蹂躙し、

反撃の術も空間支配も潰され、

岩壁を崩され、その下敷きにされた。


直人は思わず玉座から立ち上がり、

そわそわしてしまう。


残るはデーモンロードだけ。


シズクが厳しい顔のまま、

「魔王さま、覚悟を」

直人は乾いた喉で一言だけ

「わかった」


頭の中を巡る。

(……復活まで、十年以上だ)

魔王になって、初めての「恐怖」で震える。


「デーモンロード、頼む……」



直人がすがるような言葉を発すると、空気が落ちた。

デーモンロードの無言の支配が届く。

姿は出ない。


次の瞬間、破りは床を蹴ってB7に向かう。

速度が違う。

回避しながら“壊す”動きだけを通す。

壁を一枚、剥がす。

柱の根を削る。

迷宮の“骨格”を狙っている。

(こいつ、戦ってない)

(ギミックを解体してる)

直人は、背筋に汗が浮くのを感じた。


シズクが低く言う。

「魔王様。許可を」

直人は確認する。

「何の」

シズクは、背中の長物に手をかけながら、

「制圧です」


直人は一拍置く。

(切り札だが、今出して良い札ではない)


直人は結論を出した。

「少し待て、今はデーモンロードに任せる」


直人は命令を落とす。

「デーモンロード、出口を作るな。抜け道を潰せ。

 最終手段で頼む」

空気の向こうで、低い返答。

「了解」


デーモンロードが支配の圧をかける。

通路の奥が閉ざされ、周囲の壁も狭まる。

破りの肩が僅かに跳ねた。

破りは、初めて“警戒する”気配を見せた。


撤退のための動きではない。

次の場所を品定めする動きだ。


その瞬間、破りが笑った。

「いいね。これ、いい構造おもちゃだ。

 破り甲斐があるわ。また来るか、今日は偵察だしな」

「この奥の厄介な奴の対策を準備をしてからだな」

言い残して、影みたいに消える。

速度が違う。

追えない。


場に残ったのは、削れた壁と、冷えた空気。


直人は、呼吸を整えた。

デーモンロードが声だけで言う。

「侵入は止めた。だが、痕跡を残された」


直人の胃がさらに冷えた。

「偵察……だと」

(またマーキング……今度は玉座じゃない。迷宮そのものだ)

ミリアが、珍しく真面目な声で言った。

「魔王さま♡ これ、遊びじゃない♡」

直人は、頷くだけにした。


今は、次の手だけが要る。

直人は指示に落とす。

「再生核の保護。被害の補修。階層の再設計。」

シズクが頷く。

デーモンロードが低く返す。

「ボス2名は、俺の配下の魔人に再生させる。

 多少時間はかかる。あと、マナを大量消費する」

デーモンロードはそれだけ言うと、影に落ちる。


直人は、最後に一つだけ確認した。

「……破りは、また来るか」

ミリアが笑わずに言う。

「来ます♡ だって、匂いがつきました♡」

匂い。

狙われる匂い。


そして直人は気づいた。

今日来たのは“侵入者”などではない。

——自分を、葬りに来た敵だ。


自分の胸に重さが増えた。

記憶欠けの恐怖が、すぐ隣に立つが、

それでも、判断を先送りにしなかった。


直人は玉座の前で、静かに言った。

「止まれない。……強くする」


世界がこちらを見ていた。


(つづく)

破りに狙われた直人のダンジョン。

魔界に来て、初めての死の恐怖に震えます。

直人君、心構えが変わります。

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