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「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第三章 魔界でも社畜でした

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第三章・第6話 魔王協会の巡回

巡回が来る。

社畜の始まりの予感です。

「巡回」の知らせが届いた瞬間、

直人はまず深呼吸をした。

怒る前に、確認する。


「……VDって誰だ?」

ミリアがいつもの笑顔で言う。

「巡回の魔人です♡」


直人は頷いた。

魔人。現場監査。

嫌だが、嫌でも来るなら受けるしかない。


シズクが淡々と準備を進める。

「以前も巡回は来ました。報告帳票は最小で揃えます」

直人は短く返す。

「頼む。門の件は触れさせない」



すると、突然、

前触れも無く入って来る2つの影。

来客は二人だった。

そして「巡回の魔人」という言葉より、

妙に“社会”の匂いがした。


一人目は背が高い男。

細身で高身長、尖った耳。

エルフ?

鎧ではなく、整った外套。

歩き方が落ち着きすぎている。

視線が、現場を見る視線だ。


ミリアが一瞬だけ、意味深な顔をした。

笑顔は同じなのに、目だけが別の方向を見ている。


直人は見逃さないが、追わない。

いま追えば、重要なものを落とす。

優先度は巡回対応だ。


「VDと申します」

名乗りは丁寧で、抑揚が少ない。

“上の人間”の声。


二人目は、その背後に影のように立つ人物。

背丈は高くないのに、空気の密度が違う。

顔立ちは優しいが、目が冷たい。

無駄がない。


「……MKと申します」

そう名乗った声は、柔らかいのに、硬かった。


直人は玉座の前で立ったまま、頭を下げすぎない角度を選ぶ。

相手は客だ。だがここは自分の領域だ。

それでも“巡回”という言葉が、その境界を曖昧にする。

挿絵(By みてみん)


「佐倉直人。このダンジョンの魔王です」

言い切ってから、確認を入れる。

「本日の目的は?」


VDが淡々と答えた。

「視察と確認です」

直人は頷く。

「確認項目は」

「ダンジョン運用状況、定期報告の整合。補給物資。

 ……そして、上納」

 最後の単語だけ、空気が少しだけ重くなった。


直人は眉を動かさない。

「上納?」


ミリアが横で小さく笑いそうになって堪えている。

シズクは無表情のまま、場を整えている。


VDが当然のように言う。

「運用が回っているダンジョンからは、

 魔鉱石を含む上納が必要です」

直人は一拍置く。

「……税」

VDが頷く。

「その理解で結構です」


直人の胃の奥が冷える。

社畜理解が、別世界でも刺さる。


直人は短く整理した。

(提出と上納と巡回。——同じ構造だ)


直人は確認する。

「上納は誰が回収する」

VDが言う。

「基本はそちらで手配です」


直人の喉が鳴る。

「魔鉱石はどこに?」

VDが

「深層には魔鉱石が多くあります。

 階層増やせば外からの回収は必要なくなります」

直人は

「……自分達で取りに行け、と」

VD

「配下に回収を命じ、指定の手順で納める。それが最も自然です」


直人は内心で思った。

(自腹で交通費出して納税するやつ……)

笑えない。笑うと崩れる。


直人は判断を出す。

「現場に回収班を作る。必要量と期限を提示してほしい」

VDが頷く。

「提示します」


ミリアが、ほんの少しだけ意味深に目を伏せた。

直人は気づいたが、今は追わない。


今度はMKが、初めて静かに口を開いた。

「もう一つ。あなたは“異界の魔王”ですね」


直人の背筋が冷える。

この呼び方を、外の存在から聞くとは思わなかった。


直人は表情を変えずに答える。

「そう扱われているが」


MKは微笑む。

微笑むが、温度がない。

「異界人には副作用が出やすい。記憶の欠損です」

直人の喉が鳴る。

ここで、その話を出す。

誰に言っていないはずなのに。

——いや、協会に提出している。


探るように視線を向ける。

「対策があるのか?」

MKは頷いた。

「素材を配布できます。

 狩猟で手に入るものより、効果がはるかに大きいものを」

直人の指先がわずかに強張る。

だが、すぐに緩める。焦るな。


MK

「ただし、留意事項があります」

直人

「留意?」

MKは一拍置く。

「身体への負担です」

直人は静かに頷く。

「具体的に」

MK

「摂取後、一定時間の倦怠。発熱。場合によっては意識の混濁」

「しかし、最高の素材なので、今後の欠損は最小限に留まります」


直人は顔が強張る。

(欲しい、が…)

しかし、判断は保留だ。

(現実側の稼働に影響が出るなら、受け取れない)


MKが続ける。

「条件を受け入れて頂ければ、無償提供しましょう。

 また、暫く上納も結構です」

直人は即答しない。

「条件とは」


「あなたのダンジョンを、さらに発展させること」

「魔王さまのLvアップを求めます」


淡々と言う。

まるで、当然の義務のように。


直人の胸の奥が冷える。

Lvアップは、記憶欠けの恐怖でもある。

だが、その恐怖を軽減する素材を得るために、

Lvアップが必要だと言われる。


悪い循環。

いや、良い循環の形をした圧力。


直人は判断を急がない。

まず確認する。


「要求Lvは」

MKは微笑む。

「今は“次”で構いません」

直人は目を細める。

「“次”とは」

「あなたが、上がれる範囲」

言い方が綺麗すぎる。

相手の自由を尊重しているようで、実質は“上げろ”だ。


直人は一拍置く。

「……理解した。条件は受け取った」

受け取るだけ。今は承諾しない。


MKが静かに頷く。

「賢明です」


その言葉に、直人は違和感を覚えた。

賢明。

なぜ、この人物は自分の判断の癖を知っているように言うのか。


ミリアが、横で意味深な顔をしたまま黙っている。

直人の胃がさらに冷える。


応接が続く。

VDが淡々と項目を確認し、MKが静かに頷く。

直人は「確認→判断→指示」で応じる。

社畜の会話が、魔界で成立しているのが最悪だった。


その最中、厨房から、音がした。


そして聞こえる。

「いい匂いにゃ」


直人は一瞬だけ目を閉じた。

(今じゃない。よりによって、監査の真っ最中だぞ)


シズクがこちらに居るのを良いことに、

シュレが厨房に入っている。

いつの間に……


シズクが一礼し、すぐさま厨房に向かう。


見えないが、声が聞こえる。


「触れないでください」

「おやつの匂いがするにゃ」

「許可は匂いだけです。摂取は禁止です」

「おやつが人生にゃ」


次の瞬間、また空気がひっくり返る感じが伝わる。

最悪の瞬間で、最悪の衝突。


直人は即座に判断する。

「二人とも、止めろ」

直人は、腹の底から絞り出すような低い声で制止した。

声は止まったが、ヒリヒリした殺気は漏れ出ている。


MKが、興味深そうに目を細めた。

VDは無言のまま見つめている。


直人は指示を変える。

「シュレ、退出」


シュレが答える。

「ここ、好きにゃ」

直人は低い声で言う。

「呼んでない、去れ」


シュレが尻尾を揺らす。

「巡回、嫌いにゃ」

直人は短く返す。

「俺もだ」


シズクが、視線だけでシュレを押す。

シュレが渋々、消える。

“渋々消える”という矛盾が、余計に腹立つ。


ミリアが、何事もなかったように微笑む。

「うちのペットです♡」


直人は“謝罪”を口にしない。


代わりに、淡々と話を戻した。


「続けます」


VDが頷く。

MKが微笑む。

その微笑みが、さっきより少しだけ深い。


「……面白い部下をお持ちですね」

MKが言う。

直人は即答しない。

「請負です」

MKが小さく頷く。

「なるほど。縛れないものを使う」


その言い方が、妙に刺さった。

まるで、直人の選択を最初から知っていたみたいに。


直人は、玉座の肘掛けに指を置き、力を抜いた。

壊さないために。

そして、自分が壊れないために。


もう一つ、

「条件」だ。

Lv上げは門の強化にはなる。

素材でどこまで欠損が防げるのか、

摂取しなければわからない。

ここで何日考えても、結論など出ない。たぶん。

だが、ひなの寝顔の記憶が抜け落ちていく恐怖に比べれば――


直人は暫く考えた後に答える。

「条件は受ける」

「ただし、設計はこちらに一任で」

MK

「承りました。では、素材を手配致します」

「段階が進んだ事を確認後、上納の一時停止を認めます」


その後、話もある程度片付き、

最後は、魔獣達の扱いには慣れましたかのような

他愛の無い会話で巡回終了となる。


そして、二人は慇懃な礼をして帰ってゆく。

去り際にMKが見せた意味ありげな目線が印象に残った。


巡回は、始まったばかりだ。

だが、面倒が増えた事だけはわかった。


そして、直人はふと、気になっていたことを思い出した。


(今回、ミリアが大人しかったな……)


だが、直人はまだ知らない。

Lvを上げる本当の意味と、

今回視察に来たのが、「巡回の魔人」ではないということを。



(つづく)

次回、第一章13話、第二章8話のような

直人が衝撃を受ける事態となります。

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