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リモート会議してたらダンジョン管理者になって、改善してたら魔王に定義されました。略称「リモート魔王」  作者: 遠藤 世羅須
第二章 魔王編 通勤魔王

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第二章 第29話 シズクの独白

前回、呼称が変わり、名実とも「魔王」となった直人。

今日は、そのシズクと訓練部屋にいます。

挿絵(By みてみん)

訓練部屋は、珍しく静かだった。

魔物たちは遊ぶのをやめ、壁際に寄り、息を潜めている。


直人は玉座の間に戻らず、訓練部屋の端に立ったまま、

手袋を外しかけて――やめた。

外しても、もう戻らないと知っている。

今はただ、この持て余す出力オーバースペックを、

どうやって周囲に波及させないかだけを考えていた。


その背後で、シズクが淡々と武器の手入れをしていた。

磨く動きは正確で、音がしない。

いつも通りのはずなのに、今日は違う。


「……魔王様は、不思議な方です」


突然の声。


直人が振り向くと、磨く動きは止まっていた。

シズクは少しだけ目を伏せていた。


「普通は、力を得れば振るいたくなる。

 ですがあなたは、必死に力を隠そう(制御しよう)となさる」

「……俺の力が、魔界の仕様に合ってないからな」


「ええ。だからこそ、思い出してしまうのです。全く逆だった、あの方を」


直人は眉を寄せた。


「あの方?」


直人が問うが、シズクは返事をしなかった。

代わりに、磨いていた刃を止め、少しだけ目を伏せた。


「……魔王さま」


声が、いつもより低い。


「生きてください」


直人は喉元に刃を突き立てられたような感覚で言った。


「お前、なんでそんなに強い」


シズクは笑わない。

静かに直人に目を向ける。

そして、ただ、事実だけを落とす。


「前の魔王さまが、Lv99だったからです」


直人の喉が鳴る。

「……は?」


シズクはゆっくり顔を上げた。

いつもの無表情のまま、視線だけが遠い。


「魔王さまの前任です。私は、あの方のメイドでした。

 ……その傍で給仕をし、降りかかる余波を『制圧』し続けるには、

 この程度の技量が必要でした」


「……Lv99」


「はい。そこまで上げた魔王は、皆、同じ場所に呼ばれます」


直人は反射で言い返しかけて――飲み込んだ。

いまのシズクは、突っ込んでいい温度じゃない。


シズクは、刃先を指でなぞった。

鈍い光を放つその業物から冷たい声が届くようだ。


「最後の戦いに向かう前、前の魔王さまは言いました」


シズクの声が、少しだけ柔らかくなる。


「帰ってきたら、厨房の棚を整理する…と」



直人が目を瞬いた。

「……それ、遺言みたいだな」

「遺言でした」



シズクは淡々と続ける。

「私は棚を整理して、戦闘食を仕込みました。

 戻ってきたら、温かいものを出す予定でした」


直人は唇を噛む。

(料理かよ。最後まで厨房かよ)


シズクは、そこで初めて小さく息を吐いた。

疲れた息だ。


「でも、戻りませんでした」


言い切る。

感情は乗せない。


直人は低い声で尋ねた。

「……勝てなかったのか」


「勝ち負けは、遠い世界の私たちではわかりません」


シズクは首を振る。


「“そういう戦い”でした。魔王が一人で片付けられる規模ではない」


直人は理解できない。

理解できないのに、胃だけが沈む。

(前任魔王も『日常の約束』を残すことで、

 自分を繋ぎ止めようとしていたのか?)


シズクは、武器を鞘に納めた。

金属音が、乾いた。


「だから私は残りました。次の魔王が来るまで」



直人が絞り出す。

「……それが、俺」


「はい。魔王さまは――」


シズクは一拍置く。

容赦ない言葉を、いつも通りの敬語で言う。


「弱いです」


直人は苦笑しそうになって、失敗した。

笑えない。


シズクは続ける。

「ですが、前の魔王さまより、“壊さない”可能性があります」


直人は眉を寄せる。

「……褒めてるのか、それ」


「評価です」

「褒められては無いようだな」

「必要です」


シズクは、直人の手袋を見る。

怪力の手袋。

壊す力。

そして、止める訓練。


「前の魔王さまは、強かった」


シズクは静かに言った。

「強すぎて、世界の方が折れました」


直人は言葉を失う。

訓練部屋の魔物たちが、さらに静かになる。


シズクは最後に、ほんの少しだけ視線を戻した。

直人の目を見る。

初めて“教官”じゃない目だった。


「魔王さま」

「……何だ」


「私は、魔王さまを生かします」


直人は息を呑む。


「厨房の棚は、あの日のままです」


シズクは淡々と続ける。

「生きて、帰って、棚を整理してください」


直人は、泣きそうなのを堪えるように、喉の奥で小さく笑った。

「……どこまで厨房なんだよ。

 分かった。俺は生きて、棚を片付ける」


シズクは、いつもの顔に戻った。

「厨房は、最後まで現場です」


シズクが磨いていた武器の刃に、

帰り道の見えない暗い魔界の天井が映っていた



その瞬間、訓練部屋の奥でスライムがぷるん、と跳ねた。

いつもの音。

いつもの遊び場。


でも直人は知ってしまった。

ここは遊び場で、訓練場で、――そして、止まった時間の余白だ。


シズクの独白は、刃より冷たく、

スープより温かかった。


(つづく)

シズク独白会となりました。

背景が明かされ、いよいよ直人の周囲の世界が、連綿と続く世界であること、

そしてシズクの背負う物も明らかになりました。

次回、いよいよ二章最終回となります。

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