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リモート会議してたらダンジョン管理者になって、改善してたら魔王に定義されました。略称「リモート魔王」  作者: 遠藤 世羅須
第二章 魔王編 通勤魔王

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第二章 第30話(最終話)家族の時間、魔王の時間

いよいよ第二章最終話です。

直人君、背負うものが大きくなります。

直人は家族と夕食を取っていた。

メニューは「麻婆豆腐」。

一度作ったら意外に好評で、今日もひなからリクエストされた。

直人特製の麻婆豆腐だ。

ひな用にあまり辛くはしていない。

もっとも、ひなのリクエストは、いつも「まおうどーふ」だが。

挿絵(By みてみん)


「パパ、おいしい」

花が咲いたように笑ってくれる。

「そうか、良かった」

それだけ返して、直人はひなの顔を見た。

かけがえのない笑顔がある。

その隣で、美沙も静かに麻婆豆腐を口に運んでいる。


「夕ご飯作ってくれてありがとうね」

「ひなのリクエストだからね」


夕食後、美沙が食器を洗いながら問う。


「最近、家で”定義して”って言わなくなったね」


背筋に冷たいものが走る。

一瞬返事が遅れる。


「……仕事が重たくなったからな」

「そうなのね、直人頑張りすぎちゃうところがあるから」

「……こういう時間があれば大丈夫だ」

美沙は真っ直ぐに、温かい視線を合わせる。


直人はそっと近づき、美沙の肩に手を置いた。

額を軽く寄せる。


「どうしたの、急に」

「……大事なものだから」


こういう時間が、もう「当たり前」ではない。


ひなの顔を見に行く。

すやすやと穏やかな顔で寝ている。

先日、まおうランドで買った魔王のぬいぐるみを抱いている。

挿絵(By みてみん)


すると、突然、

「パパ」

眠りの底から浮かぶような、か細い声。

けれど間違いなく、ひなの声だった。

「…ひな…」

直人は愛おしさに耐えきれず、

自分の鼻先を、娘の柔らかい頬にそっと寄せる。

目頭が熱くなる。


常に自分が消えてしまう事を考えてしまう。

今ここで死ねば、次に戻れるのは13年後だ。

そして、記憶。


背負ってしまった。


家族が寝静まってから、PCでダンジョンのUIを立ち上げる。

「これが夢なら良かったのに」


ミュートして、「魔王」コマンドを押す。


――出勤だ。

いつもの玉座の間。

いつもの銀髪。


今日は座る。

逃げ腰では、背負ったものを守りきれないと知ったからだ。

玉座の冷たい感触に、自らの意思で腰を下ろす。


UIを開き、各種報告に目を通す。


巡回、食料、宝箱、意見箱。通常報告に異常なし。

だが、門の揺らぎとB7の運用だけは保留のままだ。

フロアボスの再配置も、そろそろ考えなければならない。

急ぎではないが、門の安全確保には必要だ。


しかし、探索者たちをB1入口階で返すだけだと、いつか対策される。

UIを立ち上げ、撤退率ログを見る。

撤退率が10%低下している。

同じ誘導は、もう学習され始めている。

「B1とB2は通れる階に偽装する。折るのはB3だ。

 簡単に通れると思わせておいて、B3で想定外の負荷をかけて心を折る。

 現在のフロアボスは下げる」


「魔王さま、やさしい♡」

「フロアボスは置く。しかし、撃破されても再生できるボスにする」

「かわいい♡」


再生可能なボス候補を検索し、仮配置予定だけ済ませる。

面接は後日。

「今日はこんな所だな」

直人がUIを閉じかけた、その時だった。


ミリアがにこやかな顔で言う

「魔王さま、まだ大事なお仕事があります」

「何だ?」


ミリアは笑顔で言う

「世界を知って頂くことです♡」

「世界?」

「はい。魔界の事を♡」

「魔界って、ここのことだろ?」

「ここも魔界です♡」

「他があるのか!?」


ミリアはニコニコしながら言う。

「ちょうどお知らせが来ています♡」


それは、直人を更なる深淵に誘う知らせだった。


魔王の杖のUIに、赤い文字のワーニングが出ていた。

クリックしてみると、1通のメッセージが来ている。

(メッセージが来るなんて、何処からだ?)


【宛先】ダンジョン魔王

【差出】魔王協会

【要件】定期報告について

【期限】至急


「魔界にもフィッシングメールがあるのか?」

「開いてください♡」


訝しがりながらも、メールを開く。

内容:御ダンジョンの定期報告が必要です。

   至急フォーマットに従い、報告書の提出を求めます。

   未提出の場合、補給・補充が停止される可能性があります。


添付ファイルをクリックすると、

目が痛くなるほど細かい文字列と、無駄に細分化された記入欄。

まさにどこかの役所の「報告書」だ。

差出人の名は

「魔王協会 担当ナンシー」とある


「何だこれ?」

「それに、魔王協会って…」


ミリアが笑顔で

「魔王さまのお仕事です♡」


色々な事が頭の中を巡る。

(このダンジョンだけじゃないのか?魔王協会?

 報告?何の為に?…担当ナンシー?軽いな)


「わかった。――いや、わからん。説明してくれ」


「魔王さまは一人ではありません♡」

「……まさか、他にもいるのか?」

「はい、いっぱい♡」

「……たくさん?」

「はい♡」


待て待て待て、ここだけじゃないのか!?

魔界ってそういうことか?

だけど、俺は魔王だぞ。魔王がたくさんいる?

それは「魔王」っていうのか?


「……知らないことが、まだ山ほどありそうだな」

「はい♡」


上目遣いに試すような目で見て来る。

最初にPC画面から現れた時の目だ。


「振り出しか……」


「魔王さま迷子♡」


「笑いごとじゃない」


俺はこのダンジョンの魔王だ。

しかし、事はそれでは済まないらしい。

どれだけ背負わされるんだ。


目を閉じる。


「……美沙、……ひな」


その名を口にしないと、今から開く世界を受け止めきれない気がした。

”魔王”、その言葉の重みは、鉛を胸に抱くみたいだった。

隣に居るミリアの笑顔が、今日ほど恐ろしいものに見えたのは初めてだ。

挿絵(By みてみん)



そのころ、魔界のとある場所。


光の届かない回廊で、二つの影が向かい合っていた。

「やはり、適性がありそうです」

「そう。報告は聞いています」


一拍の沈黙。

「まだ、見ておく必要があるわ。あの段階に届くまでは」

「引き続き観察します」

「頼みます」



(第二章 完)

本話にて第二章「魔王編」終了となります。

次回、第二章総集編(来週土曜日17時公開)を挟み、

第三章「魔界編 魔界でも社畜でした」が始まります。

(三章1話投稿予定、5月30日 17時)

引き続きよろしくお願いいたします。

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