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リモート会議してたらダンジョン管理者になって、改善してたら魔王に定義されました。略称「リモート魔王」  作者: 遠藤 世羅須
第二章 魔王編 通勤魔王

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第二章 第27話 欠けたもの。そしてB7

やはり妻の美沙は違和感を抱いている。

隠せるものではない。

どれだけ普通を装っても……


(――美沙の視点――)



朝、ひなが起きてきて、相変わらず「まおうごっこ」と言う。

以前はそんな言葉、あまり出さなかったのに、

ここ最近、よく言うようになった。

幼稚園で流行ってるのかな?


でも、それより気になるのは、直人の方だ。

仕事が忙しいのは前からだと思う。

でも、そんなんで挫ける直人じゃない。


違和感はいくらでもある。

まおうランドで、彼は楽しんでなかった。

ひなに対しても、笑顔を作っている。

私に対しても、返事が遅れる。


どうしたんだろう。

この違和感は、”忙しい”では説明がつかない。

でも、彼は頑張ってしまう人。

特に、仕事の悩みは話さない。


あと、時々話してた仕事の愚痴も言わなくなった。

そして、マグカップの置き場所忘れてた。

そんなことある?

今まで、あんな顔の直人は見たことがない。


今度、話しなきゃ。


「じゃ、直人、ひな送って仕事行くね」


「パパ、ばいばい」



「うん、いってらっしゃい」



(……”直人の顔”じゃない……)




----------------------------------------------------------------------------------



妻と娘を見送った後、

直人は自宅のデスクでZoomに入室した。

最近、意識してミュートを控えている。

向こうが無闇に進むのは良くない。

ミュートの間に門が揺れるなどは絶対に駄目だ。


また会議中に出て来ない言葉があった。

会議が怖い……


改めて深くため息が出る。




今度は、個人会議を作り、ミュートを入れる。

(今のうちに、片付ける)



B7の増設は、B6のときより“手が重かった”。

指が重いんじゃない。気持ちが重い。


杖のUIを開く。

【修繕】→【増築】→【B7】

確認:増設しますか?

YES / NO


直人は深呼吸を一つする。

深いため息の後、YESを押した。

押す指が震えた。


ミリアが

「魔王さま素敵♡」


直人は頷く。

「……一度戻る」




一度現実に戻り、家族との夕食、

最近は、会話も恐ろしい。

美沙に「ボウル出して」と言われ、

”場所”がわからない。

探してしまう。


(まただ……マグカップの時も思い出せなかった

 ……家のキッチンの配置すら俺から消えていくのか……)



夕食時、ひなも

「パパ、元気ない」と言ってきた。

「ちょっと疲れてるかな」

「ふーん、じゃあ、いい子してあげる」

挿絵(By みてみん)


頭をなでてくれる。

それが優しくて、震えるのをこらえるのが精一杯だった。



美沙が少し硬い笑顔でじっと見ている。

幸せな時間、癒される時間のはずなのに、

今は”削られる”時間になっている。

心が折れそうになるのが自分でもわかる。



家族が寝静まってから、

再びミュートして玉座の間へ。


UIを開く

B7進捗バーが伸びている。

白い線が伸びるたび、空気が“深く”なる。

現実の床が遠のく感じがする。


そして、バーが100%に達した。


【増設:完了】B7

【更新】魔王Lv:6


直人は息を吐いた。

上がった。


B6のときは上がらなかったのに、今回は上がった。


「……やっぱり、条件があるな」


ミリアが横で嬉しそうに言う。

「あります♡」


直人は返さず、確認に回る。

「B6では上がらなかった。B7で上がった。つまり――」


「はい♡ Lv5からは“フロアを一つ作るだけ”じゃ足りません♡」


「足りない分は?」


ミリアは指を一本立てる。講師みたいに。

「“積み上げ”です♡」




直人が目を細める。

「積み上げ?」


ミリアは涼しい顔で言う。

「Lv5以降は、次のLvに上げるのに必要なフロア数が増えます♡」


直人は少しだけ嫌な顔をする。

(現実の昇格要件みたいだ)




ミリアがUIを軽く叩くと、小さな表が出た。

ログは最小、でも刺さる。



【Lv上昇(〜Lv10の目安)】

Lv5→Lv10:追加フロア 2(例:B6+B7)



直人は、しばらく黙った。

「……つまり、Lv10までは2フロアずつ」


ミリアはにっこり。

「はい♡ 軽々しく強くならない仕組み♡」



直人は、その言い方にだけは頷けた。

軽々しく強くなって、軽々しく欠けるのが一番怖い。


「で、Lvが上がったら――ミュートは?」


直人が聞くと、ミリアは待ってましたとばかりに指をもう一本立てた。

「魔王さまの“勤務時間”が伸びます♡」


また小さくUI。


【ミュート5分あたり】


Lv6:7日


直人の喉が鳴る。

「……Lv6で、5分黙ったら7日か」


ミリアは涼しい顔。

「1週間♡」


直人は、笑えなかった。

便利の形をして、家族から離れる距離でもある。

感情の問題だけじゃない。運用上の致命的な欠陥だ。


(現実の会議で1時間ミュートしたら、向こうはどうなる?

 84日……3か月近くも管理者のいない現場が勝手に動くのか?)




直人はもう一つ、目を逸らしていた項目を口にする。


「復活は?」



ミリアが言う前に、シズクが淡々と口を挟んだ。

いつの間にか、部屋の端に立っている。


「はい。復活年数13年です。」


胸の奥が冷たくなる。



直人は、しばらく言葉が出なかった。

数字が、家族の寿命を跨ぐ。


(13年……もし今死んだら、ひなのランドセル姿も、制服姿も、

 何も見られないまま『いなかった父親』になる)




ミリアが、甘い声のまま言う。

「だから魔王さまは、死んじゃ駄目です♡」


直人は小さく頷いた。


それは最初から方針だ。

撤退誘導。事故ゼロ。門の固定。

全部、死なないためで、家族のためだ。




でも、矛盾が残る。

ミュートで長く居られるほど、現実で一緒にいられない。

強くなるほど、失敗できない。


直人は椅子に座らないまま、玉座の前に立っていた。

玉座が「座れ」と言っている気がする。

言っていない。言っている気がする。


直人は自分の手を見る。

魔王装備の手。

それで守れるものと、守れないものがある。


「……考えることが増えたな」


ミリアが嬉しそうに言う。

「魔王さま♡ それが“縛り”です♡」


軽く返せる話じゃない。


代わりに、静かに問いを落とした。


「……俺は、どこまで上げればいい」



高マナ素材の件は、まだ先だ。

それでも今日は、B7ができて、Lv6に上がった。



何が欠けた?

答えはまだ出ない。


出ないまま、現実の数分の裏で、


得体の知れない違和感だけが残っていた。



(つづく)

遂にLV6になった直人君。

二章はあと3話です。

3話それぞれに重み(山)が現れます。

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