第二章 第20話 深くなる迷宮、重くなる魔王
階層追加をした直人はさらにB5まで視野に入れる。
当然、ボスも必要。
色々思う所はあるが、覚悟を決める。
B4とB5の増設は、思ったより“仕事”だった。
クリックして終わりではない。
工程があり、人が動き、資材が減る。
農園が回っているのが救いだった。
腹が満ちている魔物はよく働く。
直人は杖のUIを最小表示にして進めた。
「B4、増設完了。…次はB5」
【増設】B5
YES/NO
指が震える。
押した瞬間、何かが消えるかもしれない。
それでも『YES』を押す
ミリアが横で妙に機嫌がいい。
「魔王さま♡ 現場が広がる♡」
直人は返事をせず、進捗だけを見る。
白いバーが伸びる。音はしない。
だが空気が、少しずつ“厚く”なる感覚があった。
ダンジョンが深くなるたび、現実の床が遠のくような。
【増設:完了】B4
【増設中】 B5
しばし黙って見つめる。
一息ついた後、
直人はUIを通し、デーモンロードを呼ぶ。
ボスは現場に来ない。
代わりに空間に“気配”が立ち上がる。影が整列する。
「……魔王」
「頼みがある。B1とB2のフロアボス候補を出せ」
「増設したか」
「B5まで」
一瞬の沈黙。
「……欲張ったな」
直人は否定しない。
「門が揺れるよりマシだ」
「条件は」
直人は用意してある。
「撤退誘導。現世干渉なし。飯で揉めない」
ミリアが小声で囁く。
「最後、重要♡」
直人は聞こえないふりをした。
「よかろう。候補は二名」
「B1に、エルダートロール」
「B2に、デーモンジェネラル」
直人は即答しない。
「理由」
「エルダートロールは“場”を作る。入口を支配できる」
「デーモンジェネラルは“隊”を動かす。迷宮運用に向く」
「だが、双方とも戦いを生業とする。
”撤退”を受け入れるかわからんぞ」
直人は頷いた。
「承知している。魔界の常識は」
一息置いて言う
「呼べるか」
「呼べる」
「面接は俺がやる」
デーモンロードが少し笑う気配。
「当然だ。フロアボスは主に忠誠を誓う」
直人は一度現実に戻り、
家族の寝顔の確認をして、再度ミュートで戻る。
魔界で次の日。
杖のUIにインフォが灯る。
UIの表示が出る
【増設:完了】B5
直人は見つめたまま、深く一息つく。
そして、
玉座の間に、二名が来た。
来た瞬間、空気が“重く”なる。
先に入ったのはエルダートロール。
背が高い。筋肉が塊。だが目が妙に冷静だ。
武器は持たない。
次にデーモンジェネラル。
鎧。外套。立ち方が“軍”。
視線が部屋を測っている。
勝てる配置を探している。
――この禍々しいオーラ。こいつ等自身が武器だ。
直人は椅子に座らない。
「要件はシンプルだ」
「俺のダンジョンは“殺さない運用”が基本。撤退させろ」
エルダートロールが低く言う。
「殺さないで、帰らせる?」
「血を見ない演出は性に合わん」
直人は頷く。
「怖がらせれば良い。帰らせれば成功だ」
エルダートロールが言う
「二度と来させないなら、殺してしまえば良い」
直人は
「殺すと、さらに整えてまた新手が来る。
一度来たら、面倒でまた来たく無くなる場所にする」
デーモンジェネラルが続ける。
「私は戦いが糧だ」
「戦って勝つ事こそ主命の全うと心得る」
直人は
「”主命”は殺傷回避だ。撤退が目的だ」
デーモンジェネラルは暫く間を置く。
「殺さないなら、我々の武はどこで振るうのか?」
さらに一拍おいて、
「……戦闘になったら?」
直人は即答する。
「門を守れ」
デーモンジェネラルは、一拍置く。
「……ならば、門を守るを主命とする。
軍紀統率は任せるか?」
直人は答える。
「任せる。ただし現世側への干渉は禁止」
ミリアが横で微笑む。
直人は最後に確認だけする。
「飯で揉めるな」
エルダートロールが眉を上げる。
「……飯?」
直人は淡々。
「揉めると、次は刃が出る」
デーモンジェネラルは即答した。
「私の部下たちは配食規律に優れる。罰則も心得ている」
エルダートロールが一歩前に出る。
「入口は顔だ。恐怖を演出しよう」
直人は頷く。
「演出は歓迎。ただし殺すな」
トロールが笑った。
「殺すのは最後にする」
デーモンジェネラルは敬礼めいた動作をする。
「再度伺う。戦闘は裁可してもらえぬか」
「なるべく戦うな。あくまで侵入者の撤退が目的だ」
「戦闘が不可避の場合がある」
「戦うより優先度が高い事がある」
一拍、間がある
「優先度……、武より……、了解……した……」
直人は短く言う。
「頼む」
直人は頷く。
「よし。採用する。デーモンロードに従え」
(……こいつら見た目が凶悪すぎるだろ。
本当に飯で揉めないかこいつら?)
そして、
【雇用:フロアボス】
B1:エルダートロール
B2:デーモンジェネラル
(禁止:現世干渉/門接触)
直人は“確定”を押した。
画面が一瞬だけ揺れ、契約が固定される。
UIでデーモンロードを呼ぶ。
「二人を採用した。既存の三人は下げる」
「サラマンダーはB3、アークデーモンはB4、デーモンロードはB5」
「ギミックも合わせる。溶岩はサラマンダー部屋へ。
地獄はアークデーモン部屋へ。迷宮はB2に残す」
配置換えは、さらっと済ませる。ログは最低限。だが意味は重い。
ミリアが嬉しそうに言う。
「最下層にボス♡」
直人は頷く。
「B5は“最後”だ。軽く触らせない」
デーモンロードが低い声で答える。
「……理解した」
直人は短く返す。
「任せる」
UIの表示を再度確認する
【魔王更新】Lv5
直人は息を吐いた。
「……Lv5」
(……何が欠けた?……)
数字が軽いのに、肩が重い。
ミリアが、ここでだけ少し真面目な声になる。
「魔王さま。理、説明します♡」
直人は返さず、続きを促す。
「最低限だけ」
ミリアは指を二本立てた。
「二つです♡」
「一つ。Lvが上がるほど、門は“固定”されます♡」
直人は頷く。そこは目的だ。
「二つ。固定が強いほど、運用が重くなります♡」
「重い?」
「資材とマナが必要になります♡」
直人は視線を落とす。
「……つまり、いままでの“勢い”が通じなくなる」
ミリアがにっこり。
「はい♡」
――そこで、直人は思い出した。
現実側の時間。ミュート。あの“加速”。
直人のUIに、小さく一行だけ出た。
【参考】(ミュート5分あたり)
Lv5=6日
直人は無言で固まった。
「……6日」
ミリアは涼しい顔のまま言う。
「現実で5分黙ると、魔界で1週間近く働けます♡」
直人は口の端だけで息を吐いた。
「……つまり、現実の1時間の会議をフルでミュートしたら、
こっちでは2か月以上(72日)の時間が過ぎるってことか」
「はい♡ 浦島太郎ですね♡」
「よく知ってるな、その話」
そしてもう一つ、直人が目を逸らしていた項目。
失敗した時の話。
直人は静かに確認する。
「復活は?」
ミリアが笑顔のまま、温度を落とす。
「少し長くなりました♡11年です♡」
「戻れません」
シズクだ。
いつの間にか、玉座の間の端に立っている。
武装メイドは、いつだって“結論”から入る。
「異界の魔王様の復活は、年数がかかります。
レベルが上がるほど長くなります」
直人は眉を寄せる。
「なんで上がるほど長い」
「再構築に手間がかかるからです」
シズクは淡々と、結論だけ提示した。
UIを確認する。
更新されている。
【復活年数】
Lv5:11年
直人は息を止めた。
11年。
家族が、待てる数字じゃない。
シズクが追い打ちの代わりに、淡々と釘を刺す。
「だから軽々しく死なないでください」
ミリアが小声で囁く。
「長期離脱は炎上します♡」
直人は頷くしかない。
炎上は嫌だ。現実でも魔界でも。
結局、縛りの意味はこれだった。
Lvを上げれば門は安定する。
ミュートの“使える時間”も増える。
だが、失敗した時の代償が――現実を直撃する。
直人は視線を戻す。
「……だから統治が必要になる。わかった」
やることは、まだ終わらない。
復活は11年。
現実は、それを待ってくれない。
なら、訓練を避ける理由はなかった。
直人は訓練所へ向かった。自分の足で。逃げないために。
訓練所の扉の前で、直人は一度だけ息を整える。
中から金属音。魔物の声。遊び場みたいな騒がしさ。
――だが、今日は違う。
今日は、自分から行く。
扉を開ける。
直人は、
「……少しはマシになった。そういう前提で頼む」
シズクは一拍置いた。
そして、容赦なく言った。
「前提を置くのは、結果を出してからです」
直人は笑えなかった。
だから、ただ一言だけ言った。
「やろう」
(つづく)
相変わらず厳しいシズクの訓練は続きます。
直人君、LV5に上がり、色々不安があります。
次回、解決方法のきっかけが来ます。




