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リモート会議してたらダンジョン管理者になって、改善してたら魔王に定義されました。略称「リモート魔王」  作者: 遠藤 世羅須
第二章 魔王編 通勤魔王

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第二章 第12話 上げる?上げない?そしてB2F

サラマンダーの勢いに頭痛の種が増えた直人。しかし、やはり一番の課題は家族との絆。今までは憩いの時間だった家庭の風景が、今は違う温度で見えてしまう。

直人は現実空間で過ごしている。

美沙の皿を洗う音が、やけに大きく心に響く。

色々起こったが、まだ現実では数日しかたっていない。

昨日の会議も上の空だった。

頭の中は、常に”あの事”がある。


「記憶が消える」という言葉が、頭の奥でまだ鳴っている。

消えないくせに、いつか消える。そんな矛盾が、胃の底を冷たくした。

廊下の灯りはいつも通りで、リビングからは湯気の匂いがした。

美沙が振り向いて、「今日もお疲れ様」と当たり前みたいに言う。

ひながソファの上で足をぶらぶらさせて、何かを見せたくて手を振る。

その顔を見た瞬間だけ、胸の中の騒音がすっと静まった。

挿絵(By みてみん)


――忘れるかもしれない。

忘れたら、守れないかもしれない。

でも、だからこそ。

夕飯のあと、ひながリビングの床でクレヨンを広げていた。

美沙は食器を片付けながら、「明日の幼稚園の持ち物チェックしといてね」と軽く言う。


「了解。……あと――」


直人は口を開きかけて、止まった。


(今なら言える気がした)

(いや、言える“気がするだけ”だ)


美沙が振り向く。「あと何?」


直人の脳内で、魔王部屋の玉座と、PCの” 魔王” が同時に点滅する。

ついでにミリアの声まで再生される。

『魔王さま♡ 言っちゃいます?♡』


「……俺、魔王になった」


言い切りそうになって、喉の奥で緊急停止がかかった。

直人は慌てて方向転換する。


「……俺、まおう……」

「うん?」

「……まおう……っ」

ひなが顔を上げた。「まおう? まおうごっこ?」

直人の背中に冷たい汗が出る。


「ち、違う。まおうじゃなくて……ま、ま、まーぼー」

「麻婆?」と美沙が素で聞く。

「そう、麻婆。麻婆豆腐、明日作ろうかなって」

「急に?」

「急に。急に麻婆。うん」

挿絵(By みてみん)


ひなが嬉しそうに手を挙げた。「まおうどーふ!」

「魔王じゃないよ。まーぼーだ」

「まおうどーふ!」

引きつった笑い顔を美咲は気が付いただろうか?


美沙がクスッと笑って、「じゃあ明日、麻婆でいいよ」と流した。


直人は笑い返しながら、胸の奥でこっそり息を吐いた。

言えない。言ったら、この当たり前が壊れる。


テーブルの端で、スマホが一瞬だけ光った気がして、直人は見ないふりをした。


直人は心の中で言った。

(俺が守るものは、この家庭だ)

言葉にしなくても、体が勝手に前へ出る。

手を伸ばして、ひなの頭を軽く撫でる。

美沙の肩に一瞬だけ触れて、確かめる。

消えるなら、消えるまで。

奪われるなら、奪われる前に。

この手に確かな記憶を残す。

その決意だけが、今夜の現実を、確かな重さで支えていた。


家族が寝静まった後、

PC画面に浮き上がる「魔王」コマンド。

押したくない。

手が震える。

現実が逃げる。

恐ろしい。

誰もいないダミーのZoom会議室を立ち上げ、ミュートを入れる。

これで現実の時間は進まないはずだ

震える手で魔王コマンドを入力する。


魔王の間。無駄に豪華な玉座が、今日はやけに憎い。

豪華な部屋。憎い。

いつもの銀髪の笑顔まで、今日は妙に癇に障る。

それに、まだ何か隠されているのか?

疑念も湧き上がる。

挿絵(By みてみん)


しかし、此処は魔界。

俺は「魔王」。

事実だ。

直人は深呼吸する。


ミュートはONのまま。

現実の時間は進んでいないはず。

でも、胸の奥の焦りだけが進む。

シズクが銀の盆を差し出した。

「異界の魔王様。配食」


直人は受け取って、湯気を見つめた。

「……俺がまたレベルを上げたら、何かが消える」

シズクは即答。

「はい」

「何が消えるか分からない」

「はい」

「それでも、守るには必要になる」


シズクは少しだけ間を置いた。

「……だから、覚えてください」

直人が眉を寄せる。

「何を」

「家族の名前」

直人は喉が詰まる。

さっき見た寝顔が、脳裏に浮かぶ。


直人は、迷いを断ち切るように言う。

「……美咲。ひな」

シズクは頷く。

「毎回。失う前に」

直人は唇を噛む。

「それ、優しさか?」

「対策です」

「優しさじゃないんだな」

「異界の魔王さまに必要です」


ミリアが口を尖らせる。

「シズク、冷たい♡」

シズクは見ない。

「暖かく伝えると残りません」

直人が低い声で割る。

「……正論だ」


直人は【階層増設】のボタンを見た。

押せる。

押せば、守れるかもしれない。

押せば、何かが消える。


直人は押さなかった。

「……今日は上げない」

ミリアが楽しそうに頷く。

「我慢♡」

シズクは淡々と告げる。

「我慢では守れません」

直人が睨む。

「今は守る。運用で」

「運用は穴が出ます」

「穴は塞ぐ」

「塞ぐには人材と知見が要ります」


そうか、B2設計だ。

直人がB2の設計画面を開いた瞬間、空気が変わった。

静かになる。

豪華な玉座の間が、急に厳かになる。


背後から、声だけが落ちてくる。

デーモンロードだ。姿は見せない。見せる必要がない。

「異界の魔王。B2に手を入れるなら、私の許可が要る」

直人は即答した。

「分かってる。B3が統治権限の上だ」

「理解が早い」

「現実でも、承認フローは早い方がいい」

ミリアが横でにこっとする。

「魔王さま♡ 承認フロー、大好き♡」

「必要なだけだ」


直人はUIに“目的”だけ打ち込む。

【B2:目的】

侵入者の撤退率を上げる(撃破より撤退)

門(現実側)の接続確度を下げる


デーモンロードの声が淡く笑う。

「良い。なら任せる相手も決めろ」

直人は視線を上げた。

「アークデーモンだ」

デーモンロードは答える

「よろしい。B2は“迷う階層”だ。迷いは刃より深く刺さる」

「B2の現場は、アークデーモン配下で仕切らせる。管理は俺が持つ」

直人は頷いた。

「条件は受ける。B2はB2で完結させる。

 “無限ループ”を仕掛ける」

ミリアが嬉しそうに囁く。

「魔王さま♡ いやらしい♡」


デーモンロードは威厳のある言い方で

「B2の“迷い”は、撤退を導くためのものだ。

 永遠に閉じ込めるな。

 そして――私の領域(B3)に迷いを残すな」


直人は杖のUIに条件を書き足す。

現実の手つき。現実の言葉。

魔界の迷宮に、現実の仕様書を貼る。


【B2ギミック:無限ループ(条件付き)】

目的:低〜中レベル侵入者の撤退誘導(迷い→諦め)

到達条件:高レベル侵入者のみ“ズレ”を発見可能

必須:退出導線は常に存在

緊急:一斉解除(管理者の承認)


直人は入力しながら言った。

「帰れない無限はダメだ。“帰れる無限”だけ許可」

(これCPSサイバーフィジカルだな・・・)


デーモンロードの声が一段低くなる。

「“一斉解除”に私の承認を入れろ」

直人は頷く。

「入れる。B2が暴走したらB3が止める。二段ロックだ」


その時、見えないが、影らしきものが散った。

見えない部下がいる、それだけで十分だ。

ミリアが小声で言う。

「魔王さま♡ いっぱいいる♡」

直人が低い声で返す。

「数える必要ない。ログで見る」


アークデーモンの声が聞こえてくる。

「配下を各所に散らした。目。耳。爪。影。

 B2は“戻る”ようになった。戻り続ける者は、いずれ帰りたくなる」

直人はUIを確認し、最後にデーモンロードへ言った。

「これでB2は、ボス部屋に辿り着けるのは上澄みだけになる」

デーモンロードの声が落ちる。

「上澄みだけが来るなら、B1とB2は役目を果たす」

直人は、言葉を噛みしめるように答えた。

「撤退が増える。撃破は減る。門の安全が上がる」

ミリアが嬉しそうに囁く。

「魔王さま♡ 仕事上手♡」


直人は最後にもう一度、現実の家を思い浮かべる。

ひなの寝息。

妻の気配。

失いたくない。

だから、上げない。

でも――門は放置しない。


直人はミュートのまま、低い声で言った。

「……明日も仕事だ。だからこそ、今日、穴を塞ぐ」

ミリアが嬉しそうに囁く。

「魔王さま♡ 仕事ですね♡」


(美沙、ひな)

二人の名前を胸の奥で噛みしめて

直人は歯を食いしばって頷いた。

「レベル(力)には頼らない。

 俺の『運用』で、この理不尽な世界を塞ぎ切ってみせる」


(つづく)

やはり家族に真実は伝えられない。直人は改めて、背負った十字架の重さを噛みしめながら、魔王としての道を進む。

追記:今回の話、描きたかった所です。やはり、家庭の暖かさが何より「普通」の社会人には生きていく推進力だと思いますので、その温もりを感じる部分を少しでも表現したかったです。短いですけど。

まだ家庭シーンはありますけど、直人君の意識の変化もありますので。

追記:他作の呼び名が入っていた所を修正しました。

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