第二章 第13話 訓練(ゴブリン戦)
シズク教官のおかげで、多少は魔力コントロールが出来るようになった感覚がある直人。訓練は次のステップに入る。
訓練部屋、いつものようににぎやかだ。
スライムが飛び跳ね、ゴブリンたちが木剣で遊び、
コボルトが走り回り、空中を飛ぶ魔物、火を吹く魔獣。
しかし、シズクの一瞥で一瞬にして氷の静けさに変わった
そしていつもの銀髪。
直人は手袋(怪力)の表示を確認して、深呼吸を一つだけした。
隣で、ミリアが嬉しそうに言う。
「魔王さま♡ 今日こそ初勝利♡」
直人は頷くだけで返す。
シズクが冷たい表情のまま
「今日は、次の訓練をします」
「次の訓練?」
「実践です」
「戦うのか」
「模擬戦です」
シズクが直人に言う。
「目的は二つです」
直人は聞き返す。
「二つ?」
「一つ。魔王様が“勝つ”こと」
「もう一つ」
「魔王様が“負ける理由”を理解すること」
直人は一拍置く。
「負ける前提?」
「現状分析です」
ミリアが拍手しそうになって、直人の視線で止まる。
ここのところ、シズクの容赦ないトレーニングで
魔力コントロールが少しは出来るようになってきた。
しかし、まだ、力加減は難しい。
時々暴走しそうになる。
確かにLV3に上がり、パワーが増した気がする。
だが、まあ、何とか戦えるだろう。
「シズクと戦うのか?」
「いいえ、ゴブリンです」
「ならいけそうだ」
直人の表情が緩んだのを見逃さない。
「今何と?」
シズクがさらに鋭い眼で睨む
「異界の魔王さま、既に格上のおつもりですか?」
「そういうことでは」
「いいえ、異界の魔王さまは、この訓練部屋で最弱なのをご理解されていません」
「装備は最強ですが、全く使いこなせていません」
直人は飲み込みに失敗する。
(弱者って俺か)
ミリアが
「魔王さま怒られた♡」
「うるさい」
シズクが
「実戦でご理解下さい」
グブたち3人のゴブリンが、木剣。盾、ロープを持ち既に準備している。
「異界の魔王さま、彼らと戦います。動けなくなれば勝ちとなります」
「俺は素手か?」
「はい。武器は危険です」
こちらは素手だが、どうせ木剣などあっても破壊してしまうだろう。
「よし、では始めよう」
シズクは合図もなく言った。
「開始」
グブ達が囲むような感じで近づいてくる。
なかなか連携が取れていそうだ。
まず、グブが木剣で切りかかって来る。
(タスク確認:ゴブリンAの斬撃回避)
太刀筋を見てひょいと避ける。
いいぞ、フットワークは軽い。
続いてボゴが盾を構えて近づく。
同時に、グブが木剣で切りかかってくる。連携だ。
直人はグブの剣をかわし、そのままボゴの盾をはじいた。
弾く動作が、過剰な力となり、
はじかれたボゴが後ろに飛ばされる。
さすがのガントレットパワーだ。
制御出来ている範囲内だろう。
だが、一瞬油断した隙に、グブの剣が尻に当たる。
痛い、普通に痛い。
さらに手にもコツ。
コツ。コツ。
地味に痛い。
地味に効く。
そして、ニョがロープを巻き付けに来る。
だが、これは飛び跳ねて避けることができた。
お互い、態勢を整えて見合う。
守ってばかりでは埒が明かない。
では、こちらから行くぞ。
足に意識を集中し、一歩を力強く踏み出す。
足が地を蹴る感触が一瞬過剰に返ってきた。
が、強すぎた。
突進してしまい、盾を構えたボゴに激突して、
持ってる盾が衝撃で2つに割れ、ボゴも飛ばされる。
(オーバースペックの処理落ちだ!)
そのまま転んでしまい、地面にうつ伏せで落ちた。
角が床に当たって「ゴン」と鳴る。
痛い。普通に痛い。
ミリアが小声で言った。
「魔王さま♡ 自爆♡」
直人は床に貼り付いたまま、返事ができない。
その時、足元にニョが素早く近づき、足をロープで縛った。
一瞬の出来事だった。
そんなに早くロープ結べるのか?訓練してたのか?
色々考える暇はない、急いで立ち上がろうとしたが、
ニョが足に乗っている上、グブが背中を身体で抑えて、
さらに腕の関節を抑えていて、一瞬で立ち上がる事が出来ない。
ニョのロープが段々きつくなり、遂には足がほとんど動かせなくなる。
何某かの魔術やパワーで動けるようになるのだろうが、
どうすれば良いのかわからない。
そして、ボゴも立ち上がり、俺の肩から手を抑える。
グブは完全に馬乗りだ。
動けない。
いや、パワーを出せば動けるかもしれないが、
こんな小さな連中に押さえこまれている。
それが何より悔しい。
戦闘に負けた。
それだけではない、自分に負けた。
シズクが歩いてくる。
足音が一定。
均等。
怖い。
シズクが宣言する
「そこまで」
ゴブリンたちは、勝った勝ったと小躍りして喜んでいる。
シズクは一切の慈悲なく言った。
「異界の魔王さまの完敗です」
「正確には、“勝ち方が分からないまま自爆しました”」
直人は言い訳しようとして、言い訳が浮かばない。
全部事実だ。
シズクが
「異界の魔王さま、力も身体も全く使えていません」
俺が打ちひしがれているのを見て、さらに
「もっと心で見ないと扱えません。心眼が開けば、眼を閉じていても戦えます」
「どうすれば見える」
「訓練です」
わかってはいる、しかし、現世の人間はそもそも魔法やバトルなどという
事態を想定して出来てはいない。
身体も心も追い付かない。
「訓練だけで良いのか?」
「もう一つ、心構えです」
「何が足りない?」
「心を現実に置いてきてます。守る目的は良いですが、
こちらを進む目が開かれていません。情けないです。
このままでは、玉座に座る資格がありません」
「すみま・・・あっ」
いきなりUIが立ち上がる
【謝罪ワード検知】
対象:すみません(ハーフスイング)
判定:成立(※VR判定)
処理:スポーン(小)
どこかで、乾いた音がした。
ゴブリンが現れた。
直人は口を閉じたまま、ただゆっくりと顔を上げた。
(途中でも増えるの、仕様が陰湿すぎない?)
ミリアが、声を殺して震えている。笑いを堪えている。
「……増えた♡」
直人は視線だけで「今は黙れ」を送る。
送ったが、ミリアは肩を揺らしたままだ。
シズクが冷たい目で見下ろす。
直人は、すぐに理解した。
これは怒られている。
怒鳴られない分、もっと怖い。
ミリアがニコニコ
「魔王さま頑張って♡」
何か返そうとしたが、
何かを喋ると増える文化を知ってしまった。
しかし、魔界で強くならなければ家族を守れない。
そして、俺は魔王、強くならなければ、討伐されてしまう。
討伐されれば、門が開いてしまう。ひなが…
強くなるには現世を引きずれない。
そして、強くなれば何かを失っていく。
「最悪だ」
(つづく)
次回、いよいよシズク回がやってきます。ちょっと依怙贔屓の回になりますが、どうぞ大目に見てやって下さいませ。




