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その日オイラは課題の作文には一切手を付けなかった。
その代わり、癒菜は作文がもうすぐ完成しそうだと、嬉しそうにオイラに言った
「楽勝、楽勝」
「一体なんて書いたんだよ」
「えへへ、読む?」
癒菜は上機嫌でニマニマと笑いながら、オイラに2枚の作文を渡してくれた。
『私の香り
神田 癒菜
私の今の体臭は、無味無臭です。
ちょっと汗の匂いするけど、無味無臭という事にします。
そう友達に話すと、友達は「癒菜は畳みの香りがする」と言いました。
茶道部に入っているから、だそうです。
私は畳みの優しくて落ち着いた香りが大好きです。
なので友達にそう言われて嬉しかったです。
ソフトクリーム売っているおばさんには「青春の香りがする」と言われました。多分、私が学生だからでしょう。 』
その他にも癒菜の作文には兄や両親、サイトで知り合った人などから聞いた自分の香りが書かれていた。
夏院先輩も癒菜の香りについて"畳"と答えていた辺りになんだか笑ってしまった。
そして最後は『色んな人の私の印象が聞けて面白かったです』で締めくくられていた。
「成る程な〜」
言いながら、オイラは癒菜に作文を返す
「参考になりそう?」
得意気な笑みを浮かべて作文をとった癒菜は、なんだか誇らしげだ。
その顔に少しだけ苛立ちを覚えたから、オイラは少し意地悪を言ってみた。
「参考にさせて貰うよ。引き続き宿題も頑張ってね」
「……そうでした」
誇らしげな顔が一瞬にして消え失せ、代わりに顔をうつ向かせて癒菜は分かりやすく落ち込んでいた。
本当に、表情豊かで面白いやつ。
そんな事を考えたその時、隣に座って本を読んでいた桜が、わざとらしく音を立てて本を閉じた。
なにやら、怒ってらっしゃる?
「寿くん、癒菜ちゃん。図書館では静かに、だよ」
口元を人差し指で押さえて、桜はまるで図書館のお姉さんみたいにオイラと癒菜を注意した。
「ごめん」
といって謝ると、またいつもの穏やかで優しい表情の桜に戻ったけど、なんだか普段怒らない人が怒ると怖い




