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桜は夏目漱石作の『こころ』を読んでいた
その横でオイラは作文の続きを書こうとしていた。
『同級生からは月の香りがすると言われました』
オイラは作文に書かれたその一行を眺めた
桜がオイラに言った文だ。夜が似合いそうだからと桜は言ったけど、でもオイラは夜より昼の方が好きだな
夜は寝ないといけないし
「あ、でも今夏か」
夏祭りとか、花火とかあるか
その時オイラが呟いたその声に桜は反応して
「え、どうしたの?急に」
と笑った
「いや、ちょっと作文の事から脱線して別の事考えてた」
「あ、じゃあ一人言か」
そう言って桜はオイラの隣でクスクスと笑った
大きな声で笑ったりなんてことは桜はしない
いつも上品で、儚げで
なんだか着物が似合いそうだなって、いつも思う
「うん、一人言だから気にせず本読んでて」
と、オイラは出来るだけ笑顔でそう桜に言った
そうしたら本当に会話が一切無くなって、図書館独特の静けさと古い本の香りがオイラの周辺を取り囲んだ
癒菜が来たのはその数分後だ
「ごめん寿!つい寝坊しちゃった」
急いで走ってきたせいか、癒菜はの息は少しだけ荒くなっている。
まぁ、急いでいた割には髪はきちんと整えられているし、私服も……うん、結構可愛い格好してると、思う
女ってそういう所あるよね身だしなみを気にするのは悪いことじゃないけど
「いいじゃん遅刻しても
学校じゃないんだし」
「そっか、ありがとー」
図書館の静けさには似つかわしくない程の元気な声を上げて、癒菜はオイラの前に座った
癒菜が桜の存在に気が付いたのは、座った後の事だった
「て、あれ。桜ちゃん?」
「あ、癒菜ちゃん」
桜も声を掛けられて初めて癒菜の存在に気が付く。
きっと本に夢中だったんだ
「桜ちゃん部活は?」
「今日は休みだよ。だから読書しに来たの」
オイラは癒菜と桜が普段あんなに仲良さげに話している所を見たことがない。
だからなんか、変な感じ
偶然が生み出した奇跡だな




