僕は師匠の友として
ケインが宿に預けている荷物を回収した後、ユウリはケインを家に招き入れた。
「どうぞ~、ケイン君の家に比べたら犬小屋みたいなものだろうけど」
「そんなことは!趣のある素晴らしいお家です!」
ケインは精一杯のフォローをする。
「あはは、ありがと。ケイン君の部屋はここね」
ユウリは家の客間にケインを案内した。
部屋は六畳ほどで、ベットとランプ、小さな机と椅子のセットがあった。
「荷ほどきがすんだら戻っておいで、夜ご飯にしよう」
ケインは部屋で荷ほどきをし、ユウリは夕飯を用意した。
30分程で荷ほどきを済ませたケインが部屋をでると、香ばしい匂いが廊下に漂っていた。
リビングに繋がるドアを開けると、ユウリが鼻歌を歌いながら料理をしていた。
「あっ!荷ほどき終わった?もう少しでできるから座ってていいよ!」
「いえ、僕も手伝います」
ケインはユウリの手伝いをしようとするが、貴族出のケインには経験したことのないものばかりで、たいして力になれなかった。
「すみません師匠。情けない限りです」
「気にしないで、初めてなんだから仕方ないよ。これからゆっくり覚えていこう?」
料理はユウリに任せ、皿やカトラリー、モコの餌の用意などはケインが担当した。
料理が出来上がり、手を合わせて食べ始める。
「師匠は何でもできるのですね。あの短時間でここまで作れるとは」
ユウリの料理の腕に感心しながら食べ進めていく。
その様子をユウリはニコニコしながら見ていた。
「ケイン君はやっぱり貴族だね。食べ方がすごくきれい。僕そんな綺麗に食べられないもん」
「そうでしょうか。マナーは一通り教わってはいますが」
「うん、戦闘時の所作もキレイだったし、そういうとこは貴族ならではっていうか、ケイン君しか持っていないものだと思うよ」
ユウリに褒められて、ケインは嬉しそうにしている。
ケインもユウリに負けじと話題をふる。
「そういえば、師匠のご家族の方はご不在なのですか?」
「あー、家族はいないよ。僕一人で住んでるんだ」
ケインは話題をふり間違えたと思い、すぐさま話題を変えようとする。
「すみません、無神経でしたね」
「気にしないで、話そうとは思ってたから」
ユウリは食べる手を止めて、話し始めた。
「僕は6年前からここで一人で暮らしてるんだ。母親は僕が生まれてすぐに亡くなってて、冒険者だった父も、僕が8歳の時に事故で亡くなった。それからはおじい様と暮らしてたんだけど、6年前に流行った流行り病に罹られて、そのまま。ごめんね、こんな暗い話しちゃって」
「いえ、さぞお辛かったでしょう」
「うーん、辛くなかったかって言われると嘘になるけど、寂しくはなかったよ。アーノルドさんとか町の人たちとか、皆気を使って遊びに来てくれてたから。でもやっぱり夜は一人が多くてさ、だからケイン君と一緒にご飯食べたり、お話したりできるの、ちょっと嬉しいかも」
ケインは胸に手を当て、嬉しさを噛みしめている。
「僕の話はこのぐらいにして、ケイン君のこともっと教えてよ!ケイン君っていまいくつなの?」
「僕ですか?僕は今年で20歳になります」
「僕よりも2つも年上なんだね」
「ということは師匠は18歳なんですね?」
「もっと若いと思ったでしょ?」
ケインは図星を突かれて少し慌てている。
「そっそんなことは、」
「いいのいいの、僕身長低いし、童顔だから若くみられがちだし」
それからも他愛のない話をしながら食べ進め、片づけまで済ませた。
ケインが風呂に入っている間、ユウリはモコの観察をしていた。
「モコは野菜の方が好きみたいだね。ベノムタランチュラは肉食だから、虫とかの方が好みかと思ったんだけど、全然手をつけてないね」
ユウリがメモを取りながら観察していると、風呂からケインが上がってきた。
「お先に上がりました師匠。モコの観察ですか?」
「うん、本格的に新種の可能性が出てきたかもしれなくて」
ユウリも風呂に入り、そのあとしばらくはモコの観察をしたり、スキルの話をしたりしていた。
「明日はまたギルドに行くんですよね?では、他の依頼は受注できなさそうですね」
「そうだね、一応ケイン君も一緒にいたわけだから、同行してくれると助かる」
「分かりました。そろそろ寝ますか?もういい時間ですし」
「ほんとだ、気づかなかった。寝坊しても困るし、もう寝ようか」
ユウリとケインは自室に戻り、モコはユウリの側で眠った。
ー翌朝ー
ユウリが目を覚ますと、カーテンの隙間から明るい日差しが漏れていた。
「やばい!寝坊した!」
ユウリが慌てて身なりを整え、リビングに向かうと、ケインが朝食を用意して待っていた。
「おはようございます師匠!もうそろそろ起こそうかと思っていたところだったんですよ」
「おはようケイン君。これ、どうしたの?」
ユウリはテーブルに並んだ朝食を指さして言った。
「料理はできないので、朝市に行って買ってきました。モコには野菜とフルーツを」
「ありがとうケイン君!」
「いいえ、師匠のお友達として当然のことをしたまでです」
ケインは自信満々にそういうと、手にしていた紅茶をテーブルの上に置く。
「紅茶まで入れてくれたの?」
「紅茶は貴族の嗜みでしたから、この茶葉は僕のお気に入りのもので、師匠のお口に合うかどうか」
ユウリはカップを手に取り、一口啜る。
「おいしい!とっても甘くて、さっぱりしてるね」
「お口にあったようでよかったです!」
ケインはユウリに褒められ、嬉しそうにしている。
2人は朝食を済ませた後、準備をしてギルドに向かった。
「モコ、ケイン君が買ってきたフルーツ気に入ったみたいだったね」
「帰りにも買っていきましょう」
他愛のない話をしながらギルドに向かう。
ギルドに着き、ドアを開けると、ギルドの中が騒がしく、誰かを取り囲んで人だかりができていた。
「なんでしょうか」
2人が近づいていくと、急にユウリが大きな声を出した。
「あっ!アル!」
その声を聴いて、輪の中心にいた人物が振り返る。
「ユウリ!」
2人は熱く抱擁を交わし、お互いの再開を喜びあっている。
ケインは何が起きているのか理解できず、おいて行かれたモコと視線を合わせる。
「帰ってきてたんだね!」
「昨日の夜にね。ここに来たらユウリに会えると思って来てみたんだけど、囲まれちゃった」
「アルは人気者だもん、皆アルに会えて嬉しかったんだよ」
2人は抱き合ったまま話を続け、完全に2人だけの世界になっている。
「しっ師匠、その方はお知合いですか?随分と仲が良さそうですが」
ケインは勇気を振り絞り、ユウリに声をかけた。
「ケイン君、紹介するね。彼はアルバート、Aランク冒険者で、僕の幼馴染なんだ」
「はじめまして、アルバートです。あなたはユウリのお友達かな?」
「ケインと申します。師匠とはお友達としてお付き合いをさせていただいております」
「師匠?ユウリ、いつの間に弟子をとったの?」
「弟子じゃなくて、お友達!ケイン君がそう呼びたがるから、許してるだけ!」
3人は大勢の冒険者に囲まれ、異様な空間になっている。
「それより、ユウリ。おじいちゃんが探してたよ。来たら部屋へ案内してくれって言われてるんだ」
「あっそうだった。行こう、ケイン君」
「彼も連れていくの?」
「うん、ケイン君も昨日一緒に依頼に行ったから」
「へぇ~、彼もね」
アルバートはケインに視線を送り、ケインはあまりの冷たさに身構える。
「なにしてんの?早く行こうよ」
ユウリはそんなことには気づかず、部屋に行こうと急かしている。
「ああ、ごめんね。行こうか」
アルバートはユウリに側に行き、部屋へ案内する。
ケインはアルバートを警戒しながら、部屋へと入っていった。
「よくきたな。上からの返事が届いているぞ」
そういうとギルド長は手紙を手にし、読み始めた。
「『現在、調査員が不足しているため、すぐに調査を始めることは不可能である。引き続きSランク冒険者であるユウリ殿の元で監視を続けてほしい。』とのことだ」
「上の人たちも忙しいんですね。わかりました。引き続き監視をしていきます」
「ケインにも懐いているようだな」
「昨日からケイン君と一緒に住むことになって、モコも気を許したみたいです」
「一緒に住んでるの?あの家で?」
急にアルバートが口を挟んできた。
ギルド長はめんどくさい気配を察知したのか、視線を逸らしている。
「うん、ケイン君、僕のせいで勘当されちゃったから、部屋はあまってるしいいかなって」
「ふーん、そうだったんだ」
重たい空気が流れる。
「ゴッゴホン、ユウリ、1日そいつを観察して分かったことがあれば報告してくれ」
「ケイン君は僕についてきてくれないかな?色々聞きたいこともあるし」
ユウリは部屋に残り、ケインとアルバートはギルド近くの食事場に足を運んだ。
一番奥の人目に付かない席へと座り、対面で座って話をはじめた。
「それで、ケイン君だっけ?色々聞かせてもらってもいいかな?」
アルバートは笑顔だが、目が笑っておらず、場が冷たい空気に包まれる。
「それで?君、年齢は?冒険者ランクはいくつ?」
ケインは重たい空気に包まれながらもゆっくりと口を開く。
「年齢は20歳。冒険者ランクはBランクです」
「ふ~ん、ユウリとはどうやって知り合ったの?」
「僕が勝負を挑み、あっけなく負け、弟子入りを」
「ユウリが君は友達だっていってたけど?」
「お友達ですが、尊敬の念を込めて師匠と呼ばせていただいてます」
アルバートは淡々と質問を続ける。
「君、出身は?平民じゃないよね?勘当されたって聞いたけど?」
「はい、伯爵家の3男でした。師匠に負けたことが家に伝わり、勘当されましたが」
「で?一緒に住んでるんだ?」
「はい、師匠からのお誘いで」
「ふーん」
アルバートは指で机をトントンと一定のリズムで叩いている。
昼前の店内に他に客の姿は無く、静かな店内に机を叩く音だけが響く。
アルバートの放つ殺気に、ケインは冷や汗をかくが、アルバートの質問に嘘偽りなく答えていく。
しばらく沈黙が続いた後、アルバートが口を開いた。
「その程度の実力でユウリに付きまとってるんだ?恥ずかしくないの?」
先ほどとは打って変わって、アルバートの顔に笑みはなく、冷たい視線を向けられる。
ケインは背筋が凍ったが、負けじと目を逸らさない。
「師匠は僕に可能性を見出してくださった。僕はその期待に応えるまでだ」
「君の気持ちなんてどうでもいいんだよ。ユウリがSランク冒険者だってことは知ってるよね?ユウリは優しいから言わないだろうけど、きっと迷惑しているよ?傍から見ても釣り合ってないし、付きまとうの止めたら?」
アルバートは冷たい言葉を淡々と投げかける。
「それは貴方の意見だろう?師匠から直接お聞きしたわけではない。そんなものを鵜呑みにして師匠の側を離れるなど、師匠のお友達としてするべき行為ではない!」
ケインも負けじと言い返すが、アルバートの殺気はどんどん強くなっていく。
「だから、君の意見はどうでもいいの。Sランク冒険者であるユウリに釣り合うのは、Aランク冒険者である僕だけだ!ぽっと出のお前が、釣り合うわけないだろ!」
「確かに釣り合ってはいないだろうが、それを理由に友を止める気など毛頭ない!」
2人はヒートアップし、互いに殺気を放ちあう。
店の店員は怯え、建物はミシミシと音を立てている。
今にも決闘が始まりそうな雰囲気を切り裂いたのは、やはりユウリだった。
「そこまでだよ」
ユウリはパンと手を叩き、張り詰めた空気を一瞬にして壊した。
「ユウリ!」
「師匠!」
2人はようやくユウリの存在に気づき、驚いている。
「アル、そういうことしないでって言ってるよね?」
ユウリは冷たい視線をアルバートに送る。
「ちっ違うんだユウリ!僕はユウリのためを思って、」
ユウリはアルバートの言葉を最後まで聞かず、ケインに話しかける。
「ごめんねケイン君。大丈夫だった?」
「はい、問題ありません」
ユウリはケインの体に触れ心配そうにしている。
「ゆっユウリ?」
アルバートはあたふたしながらユウリに縋りつく。
ユウリは再びアルバートに視線を送り、冷たく言い放つ。
「アル、約束したよね?僕の友達に変なことしないって」
「僕はただユウリが心配で」
「アルに心配されることなんてないよ、僕はアルより強いし」
「でっでも」
さっきまでの雰囲気とは違い、アルバートはまるで母親に叱られる幼い子供のようになっていた。
「もういいよ、僕との約束を守れないアルの方が、相応しくないんじゃない」
「そっそんな、ユウリ」
「行こう!ケイン君!」
「はっはい!」
ユウリはケインの手を引き、アルバートを置いて店を出た。
「ごめんね、ケイン君。アルは昔から僕と仲良くする人にああやって突っかかっていく癖があって、もうしないって約束してたんだけど」
ユウリは申し訳なさそうにしている。
「師匠が悪いわけではありませんし、気にしないでください」
「でもケイン君ありがとね、僕嬉しかったよ」
「師匠!聞かれていたのですか⁉」
「うん、アルにあそこまで詰められて言い返すなんて、そう簡単にできることじゃないもん」
ユウリは嬉しそうに笑っている。
「いつも仲良くなった子たちは、アルに詰められて離れていっちゃったけど、ケイン君は言い返して、逃げないでいてくれたでしょ?僕、とっても嬉しかった」
「僕は師匠のお友達ですから、真の友ならば言い返して当然です」
「そっか、ありがとう!」
ユウリは心底嬉しそうに笑った。
《登場人物紹介》
アルバート
アーノルドの孫で、メイリーの兄。
Aランク冒険者でユウリとは幼馴染。
ユウリに対する感情をこじらせており、ユウリに相応しいのは自分だけと思い込んでいる。




