護衛の依頼
「あの、突然申し訳ありません」
一人の男がすみれ姫達のテーブルに近づいて来て、そう声をかけてきた。
一応、警戒する三人プラス消えているレーナとミシェル。
その男は、すみれ姫達の動きで、自分が警戒されたことを察する。
「警戒させてしまい、申し訳ありません。私は商人のラズル、と、申します。お初にお目にかかります」
「えっと、ラズルさんとおっしゃる商人様が、何用でしょう」
リスベルが立ち上がる。
こういう時の交渉は、キザクラ商会支店長を務めていたリスベルが最適。
そう、リスベル自身も考え、立ち上がった。
まさか、すみれ姫やアシュリーに対応させるわけにはいくまい。
「実は、お話を伺っておりました。聞き耳を立て、申し訳ありません。そのうえで、お尋ねしますが、お三方は冒険者パーティでございますね?」
「はい。そうですが」
「こちらの小さなお子様もですか? 剣を背負ってらっしゃいますが」
「はい。三人でパーティを組んでおります」
リスベルは、レーナとミシェルのことを隠して答えた。
「それに、あなた様も、こちらの方も、その服、ソフィローズですね。ということは、この宿に泊まっていることも含め、かなりの高ランク冒険者とお見受けします」
値踏みをされていた。
そう、リスベルは不愉快感を現わす。
「それがなんだ」
「それに、お金が必要と」
さらに、足元を見られていることに、イラつくリスベル。
事実ではあるが。
「だから、なんだ」
そんなリスベルに、丁寧に、へりくだりつつ対応するラズル。
「私どもは明日、シューンシュタットに向けて出発する予定の商人です。どうか、護衛を引き受けていただけませんか?」
ラズルは丁寧に腰を曲げて、リスベルに依頼する。
しかし、リスベルは警戒する。
冒険者が警戒をするのは当然。
基本的に、臆病な冒険者の方が生き残る確率は高い。
「その程度、私達のような高ランクの冒険者に頼まなくてもいいだろう」
プラチナとゴールドとカッパー。
それが、精霊様とお姫様の三人のランク。
つまり、半数が達しているゴールドがこのパーティのランクだ。
しかし、ラズルは説明を続ける。
「はい。高ランク冒険者を雇うことで、人数が少なくて済みます。これもコスト削減なのです」
「報酬は?」
たしかにラズルの言っていることはわかる。
それに、ここまでの対応も紳士的だ。
「もともとシルバーランクの冒険者を十五名ほど、一人金貨一枚で雇う予定でした。もし、お三方で雇われていただけるのであれば、一人、金貨五枚となります。いかがでしょうか」
「それは、我々三人以外いないということだな?」
「はい。そのとおりです。急な予定でして。それに、この街の冒険者はこの街から離れたがらないため、旅の冒険者を探すのに苦労をしております」
リスベルはすみれ姫とアシュリーに視線を送る。
悪い話ではない。
たかだかシューンシュタットまで護衛するだけで、金貨十五枚。
すみれ姫はどうぞ、という感じ。
アシュリーはお金が欲しい。
お目目がキラキラだ。
「冒険者ギルドを通してもらえるか?」
一応冒険者としての受託となる。
冒険者ギルドを通すのが筋だ。
それに、冒険者ギルドを通した方が、安心できる。
冒険者ギルドが依頼を受けるような、信用できる商人ということ。
「承知しました。明日の朝、ギルドで受付をお願いします。して、パーティ名は? 指名依頼を出させていただきます」
ラズルはリスベルにパーティ名を問う。
「精霊様とお姫様、だ」
リスベルは少し視線をそらしつつ、そう答えた。
「精霊様とお姫様、ですね」
「何度も言わないでくれ、恥ずかしいから」
リスベルが頬を染める。
やはり、少し恥ずかし。
そもそも、自分は姫ではない。
「申し訳ありません。そうしましたら、明日の朝、ギルドで受付された後、そのままギルドでお待ちください。我々がギルドへ赴きますので」
「承知しました」
交渉が成立し、冒険者パーティ精霊様とお姫様の仕事が決まった。
ラズルも護衛が決まって安心したのか、歩みを軽くして三人から離れて行った。
「お仕事決まったー」
アシュリーがホッとする。
内心ドキドキだった。
お金は欲しいのに、リスベルは即決しないし。
「だが、どこまで信用していいか」
未だに疑っているリスベル。
実際、女性三人、内一人はちみっこ、一人は成人したての少女である。
正直、待ち伏せなどされて襲われてもおかしくはない。
(私達、つけてくる?)
リスベルの疑問にレーナが提案する。
「いい。いざとなったらその時」
レーナの提案は、すみれ姫が不要と判断した。
まあ、王城をいとも簡単に焼却処分してしまうような精霊が三人いるのだ。
何があっても何とでもなる。
翌朝、精霊様とお姫様の五人はギルドを訪れる。
リスベルが受付に並び、指名依頼を受けてきた。
ラズルはちゃんと依頼を出してくれていたようだ。
ギルド前で待っていると、馬車が二台止まった。
一台目の御者台にはラズルが。
二台目の御者台には女性と女の子が座っている。
女の子は就学前だ、おそらく。
「お待たせしました」
ラズルがすみれ姫達を見つけて声をかけた。
リスベルが改めて受託者として対応する。
「おはようございます。それでは、我々精霊様とお姫様の三名が護衛につきます。シューンシュタットまで、馬車二台ですね」
「はい。そうです。急な用事のため、御者は雇っていません。私と妻のハンナが馬車を御します。皆様は、馬車に乗っていただいて構いませんので、護衛をお願いします」
「すーちゃん様、後ろの馬車、奥様と一緒に乗っていただけますか? 私とアシュリーが前の馬車に乗って前方を警戒します」
リスベルがそう役割を振っていく。
「わかった」
すみれ姫は、後ろの馬車の御者台、ラズルの妻、ハンナの隣に腰掛けた。
「冒険者様、よろしくお願いいたします。私はラズルの妻、ハンナです。馬車に乗っている子は娘のキャロと言います」
キャロは御者台を譲るためか、馬車の中へと移動していた。
「すみれ姫。すーちゃんと呼んでくれ」
すみれ姫が自己紹介した。
「はい。承知しました。すーちゃんさん」
「すーちゃん」
キャロも御者台の後ろの幌から顔を出して、すみれ姫の名を呼んだ。
「あの、すーちゃんさん」
母親のハンナがすみれ姫に声をかける。
すみれ姫はハンナの顔を見上げる形になる。
「キャロと一緒に幌に入っていてもらってよろしいです?」
「なぜ?」
自分は護衛ではないのか?
なら、外が見える御者台に座っているべきでは。
すみれ姫はそう考えていた。
「警戒は、夫の馬車でしますし、この馬車はついて行くだけです。それに、キャロと一緒にいてくれる方が、私は安心できますし」
「ん。そう望むならそうする」
すみれ姫は、御者台から立ち上がって、幌の中に入って行った。
「やった!」
すみれ姫が幌の中に入ってきたことで、キャロが喜びのあまり、笑顔で両手を挙げた。
「ん?」
そのキャロのアクションの理由がわからないすみれ姫。
だが、キャロは素直にすみれ姫にお願いをした。
「お姉ちゃん、遊んで」




