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おままごと~母上とお母さん

 キャロは、見た目の年齢が同じくらいのすみれ姫が、冒険者であることから年上だと想像する。

 一応……。

 その通りなのだが。


 通常、キャロは道中暇をする。

 母親も馬車を御しており、会話以外、遊んではもらえない。


「遊ぶ?」


 遊ぶとは、なんぞや。

 すみれ姫は首をかしげる。

 ハイエルフの里に連れ込まれて以来、『遊ぶ』という行為をしたことがない。

 もちろん、その前にもない。


「うん。おままごと。お姉ちゃんがお母さんね」


 すみれ姫を『お母さん』役に指名するキャロ。

 しかし、すみれ姫が想像するお母さんとは。


「お母さん?」

「うん。お母さん」

「お母さんって母上の事か?」


 そう。

 高位精霊カルディナのことだ。


「そうだよ。母上の真似して」

「……」


 すみれ姫は悩む。

 カルディナは普段、何をしていただろうか。

 当然、興味などなかった。

 そうして、すみれ姫は、カルディナの真似をして座って固まる。


「……、お姉ちゃん?」


 キャロが不信がって、すみれ姫に尋ねる。

 何をしているのかと。

 お母さん役をやってと言ったはずだがと。


「ん? 母上はいつもこんな感じだぞ」

「……そう、そうなんだ」


 キャロは思ったのと違う、そう思う。

 だが、すみれ姫にとっての母上はあくまでもカルディナだ。

 特にすみれ姫に対して、カルディナは何かをしてくれていたわけではない。


 すみれ姫は、そう言えばと思い出す。

 そして、カルディナから言われたことをキャロにも言う。


「旅に出なさい」

「え?」


 キャロにとって、それこそ意外だ。

 今はおままごとをしようとしているのだ。

 なのに、いきなり出て行けと?


「ねえ、お姉ちゃん、お姉ちゃんの母上、そういうこと言うんだ?」

「ん」

「……じゃあね、私がお母さんやるね」


 キャロは、すみれ姫に母親役をやらせることをあきらめた。

 思った母親と違ったのだ。


「はい、すーちゃん、これからご飯を作るから、待っていてね」


 キャロはすみれ姫に背を向け、料理を作っている真似をする。


「トントントントン」


 声を出して、包丁の音をまねる。


「はい、すーちゃん、ごはんですよ」


 キャロは、すみれ姫に両手でお椀を作って差し出した。


「……」


 もちろん、おままごとをしたことのないすみれ姫には、それが何を意味するのか分かっていない。


「すーちゃん、食べる真似をして?」

「……いただきます」


 すみれ姫は、キャロの両手から手づかみで何かを取って口に入れるふりをしてみた。


「おいしい?」


 間違ってはいなかったらしい。

 話は先に進んだ。

 しかし……。


「えっと」


 何かを食べたわけでもない。

 おいしいかどうか?

 何と答えたらいいのか……。


「おいしくなかった? えーん、お母さん、泣いちゃう!」


 キャロが泣きまねをする。

 子供にご飯をおいしくないと言われれば、母親としては悲しい。

 それを表現する。


「……キャロ?」


 しかし、すみれ姫は真に受ける。


「えー、違うよ。お母さんだよ」

「お母さん……」


 キャロに修正されながら、すみれ姫はおままごとを続ける。

 いや、続けられている。


「なあに、すーちゃん」

「どうして泣きまねを?」

「すーちゃんがご飯をおいしくないって……えーん」

(すーちゃん、おいしいって、言って)


 その様子に、いたたまれなくなったレーナがすみれ姫に助言する。


「おいしい」

「ほんと! お母さん、嬉しい」


 キャロは、喜びの笑顔を浮かべる。


「それじゃね、すーちゃん、お昼寝の時間ですよ」


 今度は、次のステップに移ったらしい。

 すみれ姫にはついていけない。


「……」

(すーちゃん、横になるの)


 すみれ姫は、何をどうしていいかわからず、レーナのアドバイスに従う。

 すみれ姫が横になると、キャロも寄り添って横になり、歌い始める。


「ねーむーれー、ねーむーれー、よーいーこぉはぁゆめのなかー」

「ゆーめーのー、なーかーはー、だーいーすきぃなおかしがあるよ」

「ねーむーれー、ねーむーれー……」


 キャロは、歌いながらすみれ姫の肩をポンポンする。

 すみれ姫はどうしていいかわからず、固まっている。

(すーちゃん、そのまま、寝たふりだよー)


 と、レーナからの助言通り、すみれ姫は寝たふりを決め込む。

「ねーむーれー、ねーむーれー……」


 キャロの手が止まる。


「すー……」

(あ、キャロちゃんが寝ちゃった)


 子守唄を歌いながら、キャロ自身が眠ってしまったのだ。


「どうしたらいい?」


 すみれ姫はどうしていいかわからず、レーナとミシェルに尋ねた。


(一緒に寝てあげたらいいんじゃない?)

(そうよ。せっかく寝ているのに)

「……」





 幌の中でキャロの声がしなくなったことに気づいたハンナが幌の中を覗いてくる。


「あれ、キャロ、寝ちゃった?」

「ん」


 すみれ姫がそれだけで肯定する。


「今日、朝が早かったからねー。ごめんね、すーちゃんさん。すーちゃんさんも眠かったら寝ていてもいいけど、そうじゃなかったら、キャロのことは置いておいて、好きにしていいわよ」


 その言葉に、すみれ姫はキャロを起こさないようにそっと体を起こし、御者台のハンナの横に座った。

 そして、すみれ姫は、わからないことをハンナに聞く。


「お母さんと母上は同じか?」


 ハンナが一瞬怪訝な顔をする。

 同じだと思うけど、何でそんなことを聞くのかと。


「同じよ。母上も子供からしたらお母さんよ」

「お母さんはご飯を作ってくれるのか?」


 作ってもらったことがないのかしら、と、ハンナは少し、すみれ姫のことを不憫に思う。

 だが、思い直す。

 いや、ちがうか、と。


「そうよ。お母さんはご飯を作るの。でもすーちゃんさんみたいに、お母さんが作らない時は他の人が作ってくれるんでしょ」


 すみれ姫の服から、高貴な出かもしれないと、ハンナは想像する。

 その問いに、すみれ姫は素直に答えた。


「ん。エルフが」

「エルフ? エルフがご飯を?」

「ん」


 ハンナは考える。

 エルフがご飯を作る。

 っていうことは、エルフが料理人? 従業員? いずれにしろ……。


「すーちゃんさん」

「ん?」

「ご飯を作ってくれる人のことを、種族名で呼んじゃダメよ。みんな、ちゃんと名前があるのだから、名前で呼んであげなきゃ」

「……」


 すみれ姫はエルフ達の個々の名前を知らない。

 毎日、ぼーっと暮らしていただけなのだ。

 エルフに興味もなかった。


 そう、返事に困るすみれ姫に、ハンナは理解を示す。


「忘れちゃったのね、仕方ないわよね。そういうこともあるわ」


 と、ハンナは笑ってすみれ姫をポンポンした。

 すみれ姫は、ポンポンされた頭を両手で触り、うつむいた。


「あら、嫌だった? ごめんなさいね。すーちゃんさんが小さくみえたから」


 決してすみれ姫は嫌な感情を持ったわけではない。

 むしろ、胸が少し暖かくなった。


「嫌じゃない」


 すみれ姫は端的にそのことをハンナに伝えた。


「ふふふふふ」


 それを聞いてハンナはすみれ姫を抱き寄せる。


「!!!」


 すみれ姫は目を見開く。

 ラテと同じことをハンナがしたと。

 それを嬉しく感じたすみれ姫はハンナに体を預けた。


 そして、馬車は進む。





わんも「登場人物紹介を挟みましたが、100話です。いつも読んでくださり、ありがとうございます。続けられているのも、皆様のおかげです。感謝してます」

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