一緒に食べる食事
昼が近くなり、キャロが目を覚ました。
「ん、ん。お母さん?」
キャロが周りを見回しても誰もいない。
そう言えば、すーちゃんとおままごとをして……。
キャロは幌から顔を出して御者台を覗く。
すると、そこに、馬車を御する母親と母親に寄りそっているすみれ姫を目にした。
「あー、お母さんは、私のお母さんなんだよ!」
キャロは、ほほを膨らませてハンナとすみれ姫の間に後ろから入り込もうとする。
「???」
「あらあら」
すみれ姫はなぜキャロが頬を膨らませているのかがわからない。
「キャロ、こっち側が空いているわよ」
ハンナは、すみれ姫がいる左ではなく、右の御者台をポンポンする。
「だって、お母さんんは私のお母さんなんだもん」
「……」
何を当たり前のことを言っているのかと、すみれ姫は疑問に思う。
(すーちゃん、キャロちゃんはやきもちを焼いているんだよ)
レーナがすみれ姫に教えてあげる。
「やきもち? それは焼いて食べるのか? おいしいのか? そのキャロのほっぺが膨らんでいるのはそれを食べているからなのか?」
「「……」」
ハンナもキャロも目を丸くする。
やきもちを知らないのかと。
キャロにいたっては、やきもちを焼いていると言われ、少し顔を赤くする。
「あはははは」
ハンナが笑う。
「キャロ、こっちにいらっしゃい。お母さん、子供が二人になったみたいで嬉しいのよ。キャロだって、お姉ちゃんが出来て、一緒に遊んでもらって嬉しいでしょ」
キャロは唇を尖らせてハンナの右に移動する。
「そりゃ、お姉ちゃん欲しかったし、遊んでもらって嬉しいけどね」
それに反応するのはすみれ姫。
「子供が増えると嬉しい? 一緒に遊ぶと嬉しい? 好き?」
ハンナは一瞬ためらう。
何だろう、このすみれ姫に感じる違和感。
嬉しいことも好きなことも経験したことがないのか?
それとも、感情表現ができないのか?
好き、が何かわからなあいのか?
「そうよ。私、子供は大好きよ。何人いてもね。しかも、それがすーちゃんみたいにこんなにかわいい子だったらなおさらよ。もちろんキャロのことも大好きよ」
「私も、お姉ちゃんと遊ぶの好き。一人より楽しい。嬉しい。好き」
キャロもすみれ姫の言うことに同意する。
「よかったわね。キャロ」
ハンナがキャロの頭をなでる。
すみれ姫は、胸が暖かくなり、なんとなくうれしく感じ、そして、ハンナに寄り添った。
ドクン!
すみれ姫は慌ててハンナから離れた。
すみれ姫はラテが好きだった。
好きだったのだろう。
同じようにくっついた。
くっついて星を見た。
でもラテは死んでしまった。
自分がラテを守れなかった。
それが悲しかった。
それが悔しかった。
「好きだと悲しくなる」
すみれ姫はうつむいた。
ハンナは察する。
すみれ姫は何か好きなもの、誰か好きな人を失ったのだろうと。
だから、人を好きになることに臆病なのではないのかと。
もしかしたら、母親の事だろうか。
「すーちゃん。好きな物、好きな人は大事にすればいいのよ。守ればいいのよ。できなかったことがあったとしても、それを経験にして、もうそんなことを起こさないよう、気をつければいいのよ。すーちゃん、好きになっていいのよ」
そう言って、ハンナはすみれ姫の肩を再び抱き寄せた。
すみれ姫はハンナに身をゆだねた。
夜は野営だ。
食事は依頼者であるラズルが用意をすることになっている。
保存性のあるパンに干し肉。ちょっとしたスープ。
火を囲んで、それをいただく。
すみれ姫の横にはキャロ。
「おいしいね」
キャロがすみれ姫に笑顔で伝える。
「……」
おいしいのか?
そう、すみれ姫は思う。
昨日宿で食べた料理とは比べ物にならない。
すみれ姫がそう疑問に思い、どう返事したらいいかと悩んでいると、レーナとミシェルがすみれ姫に言う。
(すーちゃん、みんなで笑いながら食べるご飯は何でもおいしいんだと思うよ)
(そうよ。私達は食べられないけど、ラテと食べたご飯だっておいしかったでしょ)
(みんなで何かするのは楽しいし、嬉しいし、好きだし、おいしいんだよ)
「……みんなで食べるご飯。おいしい」
レーナとミシェルの言葉に、すみれ姫はそう、言葉を漏らす。
「うん!」
すみれ姫のつぶやきに、キャロが笑顔を伴って同意する。
すみれ姫は、昨日、宿の料理を一緒に食べたアシュリーとリスベルを見る。
二人も笑顔でパンやスープを掲げてくる。
「一緒に食べるのがおいしい……」
すみれ姫は、そうか、これもおいしいなんだと、パンをかじった。
「夜の見張りはどうしましょうか」
と、ラズルがリスベルに尋ねてくる。
夜の見張りは交代で行うものだが、護衛の役割でもある。
(私達が見ているから寝ていていいよ)
(そうよ。何かあったら起こすから)
レーナとミシェルが提案する。
この提案は、すみれ姫にしか聞こえていない。
しかし、すみれ姫はレーナとミシェルの名前を出すことができない。
「私が見ているから大丈夫だ。寝ていていい」
すみれ姫はそう提案する。
これに反応したのはキャロ。
「えー、お姉ちゃん、一緒に寝てくれないの?」
そのやり取りを見ていたリスベルが気づく。
「ラズルさん、私達に馬車一台を使わせてもらえませんか?」
「ええ、もちろんです。女性冒険者と私が一緒に寝るわけにはいきませんから」
「そうしましたら、私達が交代で見張りをいたしますので、ラズルさん達家族は寝ていてください。すーちゃんも最初はキャロちゃんと寝てもらい、後で交代することにします」
リスベルはすみれ姫に確認を取る。
「すーちゃん様もそれでいいです?」
「ん」




