リスベルとアシュリーの悩み
二台目の馬車に、ラズル達家族とすみれ姫が乗り込んだのを見て、リスベルはレーナとミシェルにも聞こえるように、アシュリーに声をかける。
「私達は、あっちの馬車の中でミーティングをしましょう」
そのリスベルの提案に、一台目の馬車の幌の中に、四人で入った。
「レーナ様、ミシェル様、すみれ姫様はあのまま寝かしておいて、私達が交代で見張りをしますけど、よろしいです」
リスベルの提案に、レーナとミシェルは金と銀の姿を現し、縦と横に振れる。
「えっと、肯定もするけど否定もすると?」
レーナもミシェルも縦に揺れる。
「お二方も見張りをしてくれるということでしょうか」
縦に揺れる。
「アシュリー、それでは、まず私が。次にアシュリーが、そして、朝方は私が見張りをするということで。いいです?」
リスベルは順番をそう、アシュリーに確認する。
「うん。いいけど、私、真ん中の一回でいいの?」
「あんまり細かく割っても、寝られないしね」
「じゃあ、半分に割ったら?」
「長時間連続労働はお勧めしない」
「それじゃ、明日は私が最初と最後でいい?」
「……では、朝食後はちゃんと馬車の中で寝てね」
「リスベルもだよ」
「それじゃ、まずは私が火の番を兼ねて外にいるから、アシュリーはしっかりと寝てて」
「絶対に起こしてよ?」
「もちろん」
「それじゃ、先におやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
リスベルは馬車を出て火の前に座った。
レーナとミシェルも馬車から出る前に光を消して、リスベルに続いて外に出る。
リスベルは、姿を消しているレーナとミシェルがいることはわかる。
「レーナ様、ミシェル様」
なので、リスベルは二人に話しかける。
とはいえ、誰に見られているかわからないため、二人は光を発しない。
「私、皆さんの役に立っていませんよね」
ギリッ! と、音がしそうなくらいに歯をかみしめるリスベル。
「私、キザクラ商会の支店長までしました。つまり、エルフとしてもそれなりに能力が高いはずなのです。ですが、お三方の役に立つことができません。荷物を運んだり、こうしてすみれ姫様を寝かしてあげること、それくらいしかできません」
ぼふん!
ミシェルが優しくリスベルの頭に体当たりをする。
レーナが棒を拾ってきて、風魔法で字を書く。
『一緒に来てくれてありがとう』
ミシェルがリスベルの膝の上に座る。
レーナは続けて文字を書く。
風魔法で消しながら。
『すーちゃんが感情を表現したり、あんなふうに話をできるようになったのは、リスベルとアシュリーのおかげだよ』
『私達、話が出来ないから』
ミシェルも棒を持ち出す。
『そうよ。リスベルとアシュリーには感謝しているわ。でも、リスベルは何で役に立ちたいの?』
「……」
『悪い奴が来て、戦闘が必要なら、すーちゃんと私達がやるわ』
『うん。リスベルとアシュリーには傷ついてほしくないしね』
『私達、気づかれないし、傷つかないし。すーちゃんだって、上半身を消されても、翌朝にはケロッとしているんだから』
「そうかもしれませんけど、そういう嫌なことをお三方に押し付けてしまっては」
『じゃあ、いざと言う時のために、訓練はしたらいいんじゃない?』
『そうね。アシュリーを含めて、守ってもらう人も物もあるかもしれないしね』
『ミシェル、そういうの、フラグになるからやめてー』
『あはははは。ごめんなさい。でも、大丈夫よ』
ミシェルがリスベルに提案する。
『リスベル、ここは私達がちゃんと見張っているから……剣の訓練はうるさいかもだけど、魔法の訓練はしてもいいと思うわよ』
「そ、そうか。お言葉に甘えてしまっていいのでしょうか」
『もちろん』
「では、少し、魔力操作の訓練に集中させてもらって」
『っていうか、ごめんね。私達だけで見張りって、おかしいことになるから付き合ってくれてるんだもんね』
『そうね。ごめんなさいね。ここは私達が見ているわ』
リスベルは、目を閉じて、魔力操作の訓練を始めた。
ミシェルがぽふんとリスベルに体を押し付け、時間であることを教える。
『時間よ』
「もう時間。ありがとうございます。アシュリーを起こしてきます」
リスベルは、馬車に入って行った。
そして、アシュリーが出て来て、火の前に座る。
「ふぅ。誰もいない。暗い。寂しいなー」
そう呟くアシュリーに、ぽふんぽふんと体を押し付けるレーナとミシェル。
「二人ともいてくれるんだね。ありがとう」
アシュリーは、黙り込んで、炎を見つめる。
「ねえ、レーナ、ミシェル。私、どうしたらいい?」
アシュリーが突然、自分の悩みを吐露する。
((……))
「私、役立たずだよね」
レーナがまた棒を風魔法で操る。
『アシュリー“も”、何か役に立ちたいの?』
「も?」
『リスベルも同じようなこと言っていたよ』
「リスベルがそんなこと言うなら、私なんて……」
私なんてなおさら役立たず、そう思うアシュリー。
『私達は、二人が一緒にいてくれるのが嬉しいんだけど?』
「でも」
『すーちゃんもそう思っていると思うな』
「でも、それでも、リスベルがそうなら、私なんてもっと努力しないと」
アシュリーは悩む。
アシュリーはイングラシア聖王国の王女だ。
つまり、本来なら格闘技の訓練をするべき。
だが、太らない体質のせいで、格闘技を習ってこなかった。
当然、剣やナイフも。
ただ、教会があるため、魔法は少々。
「夜に剣を振るのは迷惑よね。じゃあ、魔法……魔法の訓練って……」
『私達、魔力を使わないから、教えられないの』
『リスベルに聞いてみたら?』
「そうね。わかったわ。でも、小さな魔法ならいいわよね」
アシュリーは、無詠唱で火魔法を使う。
手のひらに炎を出したり消したりをひたすら繰り返す。
少なくとも、発動までの時間を短縮できるように。




