精霊様とお姫様の再出発
「ねえ、すーちゃん」
アシュリーが小さな声で遠慮がちにすみれ姫に声をかけた。
「ん? 何だ?」
「あの、街中を走っている乗り物に乗りたいです」
ローゼンシュタイン邸は、グリュンデール王都の隅っこにある。
アシュリーは姫だ。
ここまでさんざんすみれ姫達と歩いて来たわけだが、歩かなくていい手段があるのであれば、それを活用した。
(バスねー)
(この街、広すぎるもの)
見るからにバスだ。
レーナとミシェルが見たことのある、その乗り物。
レーナとミシェルはアシュリーの言葉に理解を示す。
「バスに乗るのか? あれか?」
すみれ姫がバスを指さして言う。
すみれ姫はレーナとミシェルの会話をきいて、その乗り物の名前が『バス』であることを理解した。
(すーちゃん、お金がいるよ)
レーナがすみれ姫に一応の確認をする。
こちらの世界のバスに乗ったことがあるわけではないが、おそらく必要だろう。
「アシュリー、お金あるか?」
すみれ姫はレーナの言葉に従って、アシュリーに確認を取る。
「……」
シュンと肩を落とすアシュリーとリスベル。
(あ、今日くらい、王城かさっきのところで泊めてもらえばよかったね)
(そうよねー、宿代もないわよね)
「宿代、ないな」
すみれ姫はレーナとミシェルと会話をしているだけだ。
宿代がない、それはミシェルの発言。
だが、すみれ姫の一言を聞いて、アシュリーとリスベルの足が止まる。
お金がない。
ひとえに自分達がお金を忘れたせい。
だが、すみれ姫は歩みを止める気配がない。
このままだと、リスベルとアシュリーは本当に置いて行かれかねない。
そもそも、リスベルとアシュリーが勝手について行く旅なのだ。
置いて行かれても仕方ないことだが。
「ちょっと待って、すーちゃん」
「そうですよ。私達、てっきり三つ首ドラゴンの報酬でお金持ちになれるかと思ったのに」
それでもと、アシュリーもリスベルもすみれ姫を追いかける。
リスベルは、三つ首ドラゴンの報酬をもらえなかったことを愚痴りながら。
「しかたないじゃないか、あんな簡単に燃えるとは」
グリュンデール王国王城、天守閣のことだ。
「「……」」
二人は思っても言わない。
『バカ火力』と。
確かにレーナとミシェルは単発バカ火力だ。
だが、それを風魔法でブーストしたのは紛れもなくすみれ姫。
「あーん、晩御飯食べたいよー」
アシュリーがついに泣き出す。
「アシュリー、我慢して。私達、貧乏だから」
リスベルがアシュリーの肩を抱く。
自分も我慢するからと。
「私、王女なのに、王女なのに……」
「今は冒険者でしょう。我慢よ」
((……))
精霊は飲まず食わずでも生きていける。
自然エネルギーがあればそれでいい。
だが、さすがに同情してしまうレーナとミシェル。
レーナもミシェルも空腹のつらさを知っている。
アイドルにダイエットはつきものだ。
ただ、なぜだかマネージャーであったミシェルの方がその苦労の経験は多い。
(すーちゃん、今日くらいは何とかしてあげられない?)
(私達もお金はもっていないけど、二人がちょっとかわいそうになって来たわ)
「今日は宿に泊まろう。ご飯も食べよう」
すみれ姫のその言葉に、アシュリーとリスベルが目を見開く。
「「すーちゃん!」様!」
王城近くの宿屋に泊まることにした五人。
とはいえ、三人での申請だが。
王城近くはどうしても高級になりがち。
しかし、アシュリーがどうしてもと言い張った。
食事をしながら話をする。
食事をするのはこれも三人だが。
「すーちゃん、すーちゃんは旅を続けるんだよね」
アシュリーが確認のためにすみれ姫に尋ねる。
「そうだ。レーナとミシェルの二人を高位精霊にするのが目的。そのためにも旅をしろと母上が」
(私達も言われた)
「レーナ達も旅が近道だといわれたらしい」
「じゃあ、旅をするのはいいんです。これは、私とアシュリーの問題です。お金がいるんです」
リスベルが問題を提起する。
「泊まるのも、食事をするのも、服とかいろいろ消耗品も」
アシュリーが申し訳なさそうにリスベルの言葉を補完する。
「正直、置いて行かれてもおかしくないのですが、ついて行きたいのです」
「つまりは?」
「お金を稼ぎたいです」
「稼ぎたいです」
リスベルとアシュリーが主張する。
(ちょっとまって。気になることを聞いていい? すーちゃん)
「レーナ、なに?」
(すーちゃん、かなり言葉が流暢になっているよね)
「ん?」
(そうよ、すーちゃん。いっぱいしゃべるようになっているわ。さっきのローゼンシュタイン邸でもそうだったけど。ってことは、考えるようになった?)
「ん?」
普通に考えれば失礼な物言いだが、すみれ姫は何を言われているかよくわかっていない。
(それはきっとね、リスベルやアシュリーともいっぱい話をするようになったからだよ)
「レーナとミシェルでは?」
実感のないすみれ姫だが、ここまでレーナとミシェルとずっと会話をしながら旅をしてきた。
(みんなだよ)
レーナはそう言う。
リスベルとも、アシュリーとも、そして、ラテとも話をしてきたのだ。
「で、それが?」
(みんなで一緒にいて、いっぱい話をすることで、すーちゃんも進化しているんだよ)
「……」
(そうよ、すーちゃんだって変わって来ているわ)
「だとしたらなんだ?」
(アシュリーとリスベルとも一緒に旅をしようよ。でもそのためには、アシュリーとリスベルには食事も寝るところもいる。つまり、お金がいる。だから、一緒に稼いであげよう!?)
(そうよ。私達、力には全然なれないけど、魔法なら、何とかするから)
「私が変わるのにアシュリーとリスベルが必要?」
「そう言っていただけると、うれしいです、すーちゃん様」
「すーちゃん!」
「一緒にいるのにお金がいる?」
「いえ、ついて行くことを許していただけるなら、飢えるまでついて行きます」
リスベルが意気込む。
(だけど、リスベルに死んでほしくないんだけど)
「リスベルとアシュリーにお金が必要なら稼ぐ」
「「すーちゃん」様」
すみれ姫は、目の前の料理を口に入れる。
そしてリスベルとアシュリーに尋ねた。
「おいしい?」
リスベルとアシュリーは答える。
「「おいしいです」」
それなりの高級店だ。
おいしくないはずもない。
「嬉しい?」
「「はい、食事ができることは嬉しいです」」
「一緒に?」
アシュリーとリスベルは顔を見合わせ、そして、すみれ姫を見て答えた。
「「はい。すーちゃん(様)と一緒に食事ができるのは嬉しいです」」
「嬉しい、嬉しい、嬉しい……好き」
確認をするようにつぶやくすみれ姫。
少しほほが染まる。
キランキラン
「わかった。お金を稼ごう。私も皆でいるのは嬉しい。好き」
「「すーちゃん(様)」」
((すーちゃん))




