精霊の進化とは
「「「「ブフー!」」」」
すみれ姫の突然の質問に、リノ、レノ、キルリス、かいせいが噴き出した。
顔を真っ赤にしたキリエが答えた。
律儀に。
「します。しますよ。しない生物なんていません」
「そうか。いいう〇こを」
すみれ姫はそれだけ言って部屋を出て行った。
「「「くくくくく……」」」
笑ってはいけないと思っても笑いが止まらないリノ、レノ、キルリス。
「もう、精霊ってなんなのよ。デリカシーのかけらもない。旦那様の前で恥をかかせてー!」
と、赤い顔でぷんすかするキリエ。
だが、
「でも、ありがとう」
キリエは閉まったドアにそっとお礼を言った。
かいせいは、そんなキリエの頭をぽんぽんした。
「ところで」
かいせいがリノ達に声をかけた。
「すみれ姫の横にいた低位精霊、光りましたね」
レーナとミシェルの『キランキラン』だ。
「気づいていましたか?」
「あんなの見たことが無いけど」
「……」
リノは黙ってキリエに視線を送る。
そして、かいせいはキリエに命じる。
「キリエ、耳を塞ぎなさい」
すこしだけふくれたキリエは、かいせいから離れて耳を塞いだ。
旦那様に命じられては仕方がない。
ここから先は、天使以上の会話になる。
「あれ、精霊進化に関係している?」
「あのタイミングでなんでです?」
「例えば、精霊の感情に引っ張られるとか」
「精霊なんて、そうそう感情を表したりしないでしょう?」
「だから進化がそうそう起こらない。感情表現って、感情が変わるってこと。つまり、精霊が変わると、変わろうとすると、従っている精霊にも影響が出るとか?」
「ドライア様とディーネ様は? お二方が大精霊になられなのは?」
「従っているかわからないけど、そばにいるレイ義母様は特に感情表現の激しい精霊だと思う。それにご三方とも父様の妻になったことで、日々様々な変化に身をゆだねているのではと」
「でも、それならお三方の周りにいる中位、低位の精霊は、ぽんぽん進化していてもおかしくないですよね」
「なるほど。うーん。ちがうのかなぁ」
「でも、確かに、あそこまで感情を表す精霊って、レイ様達以外に見たことないですよね」
「そういう意味では、すみれ姫は、変わって行く途中、変わろうとしている途中、感情が人に近づく進化をしている途中なのかもしれないね」
「それからもう一つですが」
今度はリノがかいせいに確認する。
「六歳児を妻にするって、それ合法ですか?」
「あ、え、えっと。僕なんて言いました?」
「『僕の妻を』と」
「……」
「婚約者くらいにしておきなさい」
「はい」
「グレイスくーん」
ローゼンシュタインの屋敷にて、ソフィリアがグレイスに迫る。
「ソフィ、その言い方、僕何かした?」
「かいせい君の教育、どうなっているのかな?」
「え、かいせいなんて、仕事もしているし、いい大人だし、グリュンデールのローゼンシュタイン邸だって任せちゃっているじゃん。なに? いまさら教育って」
「かいせい君が婚約したの知っているかしら?」
「え? そうなの? お祝いする?」
「相手の事、気にならないの?」
「気になるけどさ、婚約自体がめでたいじゃないか……って、事は、その相手の事でなにか?」
「グレイス君、かいせい君の事いい大人って言ったわよね」
「言ったね」
「その婚約者が六歳でも?」
「……」
グレイスがすべてを理解して反撃に出る。
「だけどさ、聞いたよ。かいせいの眼鏡を取ったらかいせいが何でも言うことを聞くってルール作ったのソフィでしょ? それでその子が眼鏡取ったんじゃないの? 違うの?」
「……そ、そうだけど、そんな簡単にかいせい君が眼鏡を取られるとは思っていなかったのよ。だから、わざと取られたんじゃないかと」
「結婚を要求されることをわかっていてっていうこと?」
「うん」
「ソフィ、それがわかっててそういうルール作ったのなら、ソフィのせいでもあるんじゃない?」
「うう」
「だけど、結婚は成人してからだよね」
「そうね。あと九年は待ってもらわないと……どこかで聞いた話ね」
クシュン。
ステラがくしゃみをする。
「母上!」
グレイスがリーゼロッテに声をかけた。
「リーゼと」
「……リーゼ」
「何でしょう」
「かいせい、いいの?」
「どうしろと? お前だって六歳で婚約したじゃないか。六歳の子に求婚されたじゃないか。同じだぞ?」
「……」
「「はぁ」」
ソフィリアとリーゼロッテが合わせてため息をついて言った。
「グレイス君が」
「お前が」
「「言っても全く説得力ないね(な)」」
この日よりかいせいは伊達眼鏡をやめ、キリエはかいせいの眼鏡を宝物のようにしまい込む。
「旦那様、旦那様」
「なんだいキリエ」
「旦那様は、私がお願いを言う前に私のことを妻と認めてくださいました」
「婚約者にしておいて、今は」
「はい。それで構いません」
「で、何だい」
「私、まだお願いを言っていないのです」
「……」
「いつか、お願いを聞いてくださいね」
キリエは、自分の身長の倍近くもあるかいせいを、満面の笑みを持って見上げる。
「ああ、わかっているよ。僕のお姫様」
かいせいは、キリエを抱き上げた。
「でも、勉強をしないと、すべて帳消しだからね」
「……忘れていました」
こうして、キリエはかいせいの婚約者に、そして、かいせいの下で訓練に励んでいた黒薔薇三隊はかいせい直属の黒薔薇騎士団兼メイドとなった。




