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『ごめんなさい』と『ありがとう』

 ソファにかいせいとキリエ、その両側にリノとレノが座る。

 対面にはすみれ姫とリスベルとアシュリー。

 すみれ姫の左右に姿を消したレーナとミシェル。


 全員が座り、落ち着いたところで、リノが話し始める。


「まず、聞かせてほしいのですが。そこのキリエという悪魔っ娘」


 リノがキリエに尋ねる。

 少々の威圧をもって。


「はい。何でしょうか。ちなみに、かいせい様の妻のキリエです」


 キリエはかいせいの腕を取って震えながらリノに自己紹介する。

 この、重々しい雰囲気の中でも、妻であることの主張は忘れない。


「なぜ、悪魔はこの階層に攻め入ったのですか」

「それは、お父さまが……」


 すみれ姫が殺気をまとっているのが誰にもわかる。

 悪魔がこの階層に攻め入った。

 だから、ラテは殺されてしまったのだ。

 キリエはすみれ姫の殺気に耐えながら言葉を発する。


「悪魔族を強化するため、私の旦那様を探すため……魔力の強い人族に魔族の階層へ来てもらうためにです」

「では、なぜラテを殺した!」


 リノの反応を待たず、すみれ姫が叫ぶ。


「ひぃ!」


 キリエがさらに縮こまり、かいせいの腕に密着する。。

 だが、そのすみれ姫の問いに、キリエは答える。


「あの、ごめんなさい。わかりません。父が言うには、魔力の多い人に悪魔の階層に来てもらえるよう交渉をと」

「だから、なぜ、ラテを殺した!」


 悪魔の階層に来てもらうため、という理由で、ラテがなぜ殺されなければならなかったのか。

 すみれ姫には理解が出来ない。


「わかりません。我々の部隊の誰かがもし、人族を殺して……」

「事実だ!」


 その剣幕にキリエは涙目だ。

 キリエはラテが殺されたことを知らない。

 キリエの家の軍に属する悪魔が、ラテを殺してしまったことを。


「なぜラテを、なぜラテが……」


 すみれ姫の目から涙が流れる。


「ごめんなさい、ごめんなさい。我々の部隊の誰かが人族を、その人を殺してしまったのであれば、それは、領主である父、そして、その娘の私の責任でもあります。ごめんなさい。ごめんなさい」


 キリエも涙を流す。

 そんなつもりはキリエも、キリエの父もなかったのだ。

 しかし、すみれ姫の大事な人を殺してしまった。

 その罪は重い。


「我が部隊が、いえ、私が貴方の大事な人を殺してしまったのです。どう、責任を取っていいか、私にはわかりません」


 キリエは、そっとかいせいの腕を離し立ち上がった。

 貴族として、悪魔の貴族として、責任を取る必要がある。


「私は、私の心臓はここと、ここの二か所にあります。二か所同時に破壊されれば、私は死にます」


 キリエは涙を流しながら続ける。


「その剣とその剣」


 すみれ姫が背負っている剣とリスベルが携えている剣を指さすキリエ。


「それを同時にここへ……」


 そこまで言って、キリエは言葉に詰まり、そして、大声で泣く。


「うわー、死にたくないよー。私、この人と生きていたいよ。せっかく見つけた好きな人と。うわーん。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」


 すみれ姫は、風魔法を使ってラテの剣を抜く。

 そして、その剣をキリエに向けるでもなく、抱きしめた。


「そんなことを、そんなことをしたって、ラテは、ラテは帰ってこない……うわーーーーん!」

「「うわーーーん」」


 泣き叫ぶ少女二人。

 すみれ姫に寄り添うレーナとミシェル。

 キリエを座らせて抱きしめるかいせい。

 だが、二人とも泣き続ける。

 感情を隠そうともせずあらわにする高位精霊すみれ姫。

 キランキラン





「「ぐすっ」」


 二人が少しずつ落ち着いてきた。

 そこで、レーナがすみれ姫に語りかけた。


(すーちゃん。あの子を殺さないでくれてありがとう)

「殺したかった。殺したかった、この悪魔を! だけど!」

(うん。私も違うって思っちゃった。だから。殺さないでくれてありがとう)

(私もそう思うわ。すーちゃん、ありがとう)


 レーナとミシェルが改めてすみれ姫に寄り添う。

 そこでキリエがもう一度立ち上がり、手を胸の前で組んですみれ姫に顔を向ける。

 その真剣なまなざし。


「誓います。私、絶対に人族に害をなさないと。それと、悪魔族が人族に害をなそうとしたときは、全力で止めます。まだ、弱いけど、ここで鍛えてもらって強くなります」


 そのキリエの宣言に、かいせいも立ち上がる。


「僕も誓おう。この子に人族に危害を加えさせないと。それから、ありがとう。僕の妻を殺さないでくれて」

「「「……」」」


 六歳児を妻認定したよ。

 と、リノ、レノ、キルリスが目を丸くする。


 そのかいせいの言葉に、キリエはぎゅっとかいせいを抱きしめた。





 すみれ姫はすっと立ち上がった。


(すーちゃん?)

(すーちゃん?)

「旅に出る」

((うん!))


 リスベルとアシュリーもすみれ姫を追うように立ち上がった。


「すみれ姫様。皆さんの旅の目的は何なのですか?」


 かいせいが背中を向けたすみれ姫に尋ねた。


「レーナとミシェルを高位精霊にすることだ」


 すみれ姫達は部屋を出るためにドアへと近づいていく。

 その途中で、アシュリーが気が付いたことを言葉にする。


「そうだ。三つ首ドラゴンの報酬をもらいにギルドに寄ろうよ」


 そう、すみれ姫に提案した。

 しかし、それを聞き逃さなかったリノ。


「その件ですが」


 アシュリー達が振り返り、リノの言葉を待つ。


「城の再建費用と帳消しで」

「「えー?」」


 リスベルとアシュリーが悲鳴を上げる。


「だって、それじゃ、また文無しじゃん、私達」


 アシュリーが慌てる。


「そうだ。ご飯食べられないじゃないか」


 リスベルも今後の食事の心配をする。


「食べなくても死なない」


 しかし、すみれ姫は二人の心配など、関係ない。

 精霊は自然エネルギーを吸収して生きていけるのだ。


「それはすーちゃんが精霊だからじゃん!」


 アシュリーの叫び。


((あはははは))


 レーナとミシェルも苦笑いだ。





「ん?」


 と、すみれ姫がドアに手をかけたところで動きを止めた。


「ご飯?」


 と、すみれ姫が振り返った。

 すみれ姫は何かを思い出した。


「キリエと言ったか」


 すみれ姫はキリエに尋ねた。


「はい?」

「悪魔はう〇こするのか?」




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