火薬庫と火種
かいせいがすみれ姫達の心情をレノに確認する。
「つまり、悪魔を目の敵にしていると?」
「その通りです。その結果が、天守閣の消滅となります」
「それ、僕は関係なくないです?」
確かに関係はない。
ラテを襲った悪魔とかいせいとは無関係だ。
しかし、レノの考えは違う。
なぜなら、天守閣の再建費用の捻出について、現状あてがないからだ。
「かいせい様、貴方が悪魔の階層で暴れたせいです。だから、悪魔、と、ひとくくりにした場合は関係あります。それに、あの娘、キリエは確実に関係ありますよね。天守閣の再建代、払ってください」
そう。
ラテを殺した悪魔はこの第三階層に進出してきたキリエの実家、ピエートル家の悪魔なのだ。
なので、レノはさりげなく、大金を要求する。
しかし、かいせいに金を要求する理由については、少し考えて修正する。
「いや、やっぱりかいせい様に関係ありますね。あの悪魔はかいせい様の妻なのでしょう? なら、夫が責任を取るべきでは? 天守閣の再建代を」
いろいろな理由は関係ない。
ただ、キリエの夫だから責任を取れ、レノはそう単純化する。
「どうしたら?」
かいせいは、天守閣の再建代の部分は無視し、その精霊達と悪魔との関係性についてレノに問いかける。
「妻であるところは否定しないのですね。まあいいです。キリエを第二階層に返して来てもらえます?」
そう。
キリエがこの階層にいるからすみれ姫達が悪魔の討伐をあきらめないのだ。
ならば、キリエを元の階層に返してしまえばいい。
「しかし、ここに住まわせることを決定したのは、ソフィリアお義母様です」
「な!」
レノが絶句する。
まさか、本家が関わっているのかと。
しかも、ファーストが。
ならばグレイス様も納得済み。
グレイス様がソフィリア様に敵うわけがない。
口で。
ならば、キリエをここ、グリュンデールから動かすことはできない。
かいせいは、追加で予想を口にする。
自分の母親のことだ。
「それに、想像ですが、我が母も我関せず的に同意しているものと」
ありうる。
というより、絶対そうだ。
リーゼロッテ様が、そんなことに真面目に脳細胞を使うわけがない。
混ぜるな危険の片方が、ここにあることが決定した。
ならば、争いを起こさないためには、もう一方を遠ざけるしか……。
レノはそう思う。
クジラを使ってローゼンシュタイン領のグレイスの屋敷へ来たラノ。
・」・
「グレイス様はいらっしゃるか」
ラノは黒薔薇に連れられてグレイスの部屋へと通される。
「ラノ、あれ、今日は一人?」
グレイスがラノを出迎えた。
相変わらず軽いノリで。
「はい。ちょっとしたトラブルで」
ラノはここに来た理由を告げる。
ちょっとしたトラブルの報告と。
ちょっとした……。
「そう。じゃあ、聞こうかな。座って」
ラノはグレイスの正面に座る。
妻達も話を聞くためにラノとグレイスを囲っていく。
「で、何があったの?」
グレイスの言葉にラノが報告する。
「一言で言うと、グリュンデール城、天守閣が消滅しました」
「「「え?」」」
グレイスの他、ラナとルナが口をあんぐりする。
隣にいたライラとバイオレットがラナとルナの口を戻す。
美人がしていい顔ではない。
だが、グリュンデール城はラナとルナが力を入れた城だ。
それが消滅したとなれば、ショックも大きい。
「なぜ?」
「グレイス様が野に放った低位精霊の二人ですが、高位精霊と行動を共にしていました。私達はその低位精霊に興味があったため、部下に命じて城へ招いて話をしていました。その高位精霊と低位精霊は、慕っていた人間がいたそうです。ですが、その人間は悪魔に殺されていました。よって、精霊達は、悪魔を憎んでいます。ちょうどそこへ、かいせい様が悪魔の少女を連れて鉢合わせてしまいました。精霊達はかいせい様とその少女を認識した瞬間に攻撃を開始。かいせい様達は転移でよけ続けたため無傷でしたが、それに業を煮やした精霊達が、巨大な炎魔法を……」
ラノが一部始終を一気に説明する。
「それで天守閣が焼失?」
「炎魔法なので焼失という表現が正しいのかもしれませんが、あれは、爆破です。ファイアトルネードで囲ったのち、その内部を爆発させていました」
「……おかげで外には被害が出なかったんでしょ?」
グレイスがそれ以外の被害を確認する。
「まあ、そのとおりですが」
「人的被害がなかったならよかったじゃないか。城はまた建て直せばいい。ね、ラナ、ルナ、今度は耐火性能を高めるようにって、トドマツに」
グレイスはあっさりとしている。
そもそも、あんなに金ぴかにしてもらうつもりもなかった。
「「はい……」」
「金はほどほどにって」
「「はい」」
ラノは、問題点を挙げる。
「グレイス様、天守閣の事より、巨大な火薬庫と火種が一緒になっているというところなのですが」
「ん? だって、あの悪魔子ちゃんはかいせいに預けちゃったし、かいせいはグリュンデールで仕事があるでしょ? そうしたら、精霊達をこれまで通り、旅に出すしかなくない?」
「しかし、火種が一つとは……」
火種となっている悪魔について、悪魔を管轄しているリーゼロッテにグレイスが確認する。
「リーゼ」
「悪魔の国としての侵略はないだろうよ」
「ということは、個人レベルではありうるとですか?」
リーゼロッテの答えに、ラノが確認する。
「個人レベルまでは関与できない、ということだ」
リーゼロッテにそこまで言われてしまっては、ラノ達では、個人単位の悪魔についてはどうにもならない。
そんな悪魔がいるかどうかわからないが。
「グレイス様。この階層で悪魔の血筋は悪魔化もしくは悪魔の覚醒を起こすことはないのですか?」
第二階層からの進出ではなく、第三階層で悪魔が生まれるという危険性について、ラノが尋ねる。
「それはわからないな。悪魔の血も魔族の血同様に薄れて世の中に紛れているだろうし。かつてのアリシアから他の貴族、一般市民へと血がつながっていてもおかしくはないよね」
グレイスはライラを見る。
が、ライラは頷きをもって肯定するだけだ。
可能性が無いわけではない。
ラノは悪魔を発端とする惨事が起きかねないと理解する。
「最後に」
「なんだい」
「先日、三つ首ドラゴンが現れ、一組の冒険者により討伐されました。これは、悪魔の侵攻と関係ありますか?」
「ないと思うよ」
あっさりと答えるグレイス。
「で、その倒したって言う冒険者は?」
グレイスは知っているが確認のためにラノに尋ねる。
「はい。例の高位精霊と低位精霊達が加わっている冒険者パーティです。パーティ名は精霊様とお姫様」




