決意
リノ、ラノ、レノ、キルリス、そして、リスベルとアシュリーは、頭を押さえてテーブルの下に隠れる。
「リノ、これ、どうするの? 屋根、吹き飛んだわよ?」
ラノが仮面をつけたまま、リノに尋ねる。
ほとんど素の状態で。
このグルンデール城は、もともとグレイスの城。
しかも、黄金をふんだんに使った城。
屋根を吹き飛ばしていい物ではない。
修理?
いったいいくらかかるのか。
「どうしたらって……」
そんなことを言われてもリノもレノも同じだ。
どうしていいかわからない。
かいせいはキリエを抱えたままファイアトルネードを脱し、すみれ姫やレーナ達の背後に立った。
天使の転移だ。
「何をするんだ、突然!」
かいせいはすみれ姫に対して声を上げるが、すみれ姫もレーナもミシェルもその言葉には耳を傾けない。
「ミシェル!」
(ファイアトルネード!)
ドゴーーーーーン!
ファイアトルネード二発目。
それでも、かいせいはキリエを抱いたまま、ファイアトルネードから転移で抜け出してしまう。
「ラノ、レノ、キルリス、お願い、天守閣にいる者を全員避難で」
リノは何とかこの城の主として、従業員の安全を優先するべく指示を出していく。
城はもうだめだろう。
あきらめた。
「「「はい!」」」
リノは、目の前のリスベルとアシュリーの襟首をつかみ、転移していく。
「くそ!」
すみれ姫は精霊達に願い、風の刃を全展開し、さらに自分は剣を構える。
そして、風の刃と共にかいせいに切りかかった。
「ラテの仇!」
「うわっ! 危ないじゃん!」
かいせいは風の刃もラテの剣も転移を使ってよけてしまう。
「皆、続けて!」
すみれ姫に従う低位精霊、中位精霊により、無数の風の刃の魔法陣が浮かび、連続してかいせいとキリエに風の刃が襲い掛かる。
その風の刃に紛れて、すみれ姫がラテの剣を突き刺す。
しかし、またかいせいは消える。
「レーナ! ミシェル!」
((はい!))
レーナとミシェルもアイスウォールでかいせいを捕らえようとするが、かいせいは転移で逃げてしまう。
(すーちゃん、やるよ!)
レーナもミシェルも苛立ち始める。
「頼む、レーナ! ミシェル!」
すみれ姫の言葉に、レーナもミシェルも順番に魔法を唱えていく。
(ファイアトルネード!)
まず、ミシェルが天守閣全体を囲うような巨大なファイアトルネードを展開する。
(竜巻!)
すみれ姫がさらにその外側に風を展開させ、ファイアトルネードの威力を増長させる。
そして、最後にレーナ。
「レーナ!」
(エクスプロ―ジョン!)
ドゴオオーーーーーン!
ファイアトルネードの中心を埋め尽くすような大爆発が起き、天守閣が消滅した。。
「はあはあはあ」
((はあはあはあ))
すみれ姫は見回す。
しかし、かいせいもキリエも見つけられない。
三人は、宙に浮いたまま、それぞれにそれぞれの背中を預け、周りを警戒する。
悪魔達はもういない。
悪魔を倒せたのだろうか。
いや、手ごたえがなかった。
逃げられた。
すみれ姫は奥歯をかみしめる。
「くそっ、逃がした」
グリュンデール城の訓練場で、リスベルとアシュリーをつれて転移したリノ、そして、ラノ、レノ、キルリスは、天守閣内にいた従業員達と共に、天守閣の後地を見つめる。
「あー、グレイス様のお城が」
「ラナ様、ルナ様、トドマツ様の努力の結晶が」
「いったい、いくら分の金が」
「「「「……」」」」
すみれ姫、レーナとミシェルは、リノの前に降り立った。
「すまない。悪魔を逃がした」
すみれ姫はリノにそう報告する。
そう報告されても、どうしていいかわからないリノ。
「え、ええ」
「まさか、こんなタイミングで襲ってくるとは」
「え、ええ」
「次は絶対に殺す!」
「え、ええ」
すみれ姫の怒りに、リノはかいせいが敵ではないと伝えることができない。
しかも、かいせいが連れていた少女。
かいせいと違って、確かに見た目からして悪魔だった。
なんでこのタイミング……リノはおでこに手を当てて空を仰ぐ。
本当に、タイミングが悪い。
「リノ様」
リスベルがリノに声をかけた。
「ハッ。すみません、あまりの出来事に……」
リノはどうしていいか悩むが、今は話をするしかない。
「すみれ姫様、どうぞ、私どもの屋敷で今後の話を」
そう言って、リノはすみれ姫達を屋敷に誘う。
その一方で、
「ラノ、レノ、お願い」
と、ラノをローゼンシュタイン領へ、レノをグリュンデールのローゼンシュタイン邸へと派遣した。
リノの屋敷の会議室で、すみれ姫達はリノとキルリスと向き合う。
「申し訳なかった。あのタイミングで悪魔が現れるなど。しかも、逃がしてしまい……」
いつになく饒舌に謝るすみれ姫。
「いや、私達を逃がすため、戦ってくれ、感謝しています。おかげで、人的被害はありません」
天守閣は消えたが、と思うが、今は言うまい。
「悪魔があんなに素早いとは思っていなかった。一撃も与えることが出来なかった」
すみれ姫がこぶしを握る。
リノは思う。
かいせいは悪魔だが天使だからなー、と。
リノはかいせいの動きについて、すみれ姫に伝える。
ただし、『転移』とは言えない。
「あの悪魔達はおそらく、最強クラスでしょう。一般兵クラスであれば、すみれ姫様達でも対処できるものと」
しかし、すみれ姫が相手をするのは、仇にしているのは一般兵ではない。
すみれ姫はそれを理解している。
「だが、私は実際に、悪魔の攻撃を受けている。気づかないうちに」
ラテの時だ。
「だから、あれに勝てないといけないんだ」
ラテが殺された時、実際には、油断があった。
危機感なんて全くなかった。
ラテといることに幸せすら感じていた。
だから、悪魔の接近に気づいていなかった。
だから、すみれ姫はラテと一緒に攻撃されてしまった。
「次に現れた時には絶対に殺す」
すみれ姫は何度も、強くこぶしを握り、決意を新たにする。




