エンカウント
「それで、精霊様方をお連れしましたが……」
リスベルがリノに任務完了を改めて告げる。
リノはレーナとミシェルに会って、どうするのかと。
「ああ。お会いしたかっただけです。珍しい低位精霊様がいると聞いたので。私達もエルフ。精霊様方は崇める存在です。しかも、このような低位精霊様、低位精霊様? が、将来高位へと格を上げられた時が楽しみでなりません。その時まで私達が生きていられるかはわかりませんが」
リノは、にこやかに微笑む。
リノは天使化されているので寿命は無いのだが。
「それから、すみれ姫様もようこそお越しいただけました」
「うむ」
「まだお若い高位精霊様とお見受けいたします。どうして旅を?」
「母上に行けと」
「そうでしたか。それでレーナ様とミシェル様とご一緒に?」
「うむ」
「ということは、旅の目的はレーナ様とミシェル様に関係あると……」
「そうだ。二人の体が欲しい」
リノが察する。
「……つまりは、二人を高位精霊にしたいと?」
「うむ。方法を知っているか?」
すみれ姫はそれが知りたい。
旅を続けていればなれる、というものではないだろう。
しかし、リノは首を振る。
「申し訳ありません。精霊様の進化に立ち会ったこともなく」
「そうか。で、本題は?」
すみれ姫がリノに尋ねる。
ただ、レーナとミシェルに会いたかっただけではないだろう。
「……お見通しですか」
リノはため息をつく。そして、説明を始める。
「この国は、建国してからしばらくは、最強のメンバーを擁しておりました。特に、国王、それとその妻達。そして、その騎士団。この世界に、この人達に敵う者などおりませんでした。ですが、人には寿命というものがございます。国王、それに妻達、そして騎士団までもが、お隠れになられてしまいました。つまり……」
リノは、ためらいつつも、伝えることにする。
「今、この国を悪魔の侵攻から守るすべはないのです」
リノ達は天使化されていること、グレイスの側近であることから、悪魔に対して負けることは無い。
しかし、この世界を見守る立場であることから、悪魔のすることに手出しをしようとはしない。
つまり、悪魔の侵攻も対処はせず、見守るだけなのだ。
『悪魔』の単語に、すみれ姫の顔が曇る。
当然、侵略の最前線、イングラシアの姫、アシュリーも顔を曇らせる。
そのアシュリーの表情を見て、リノは訂正する。
「申し訳ありません。間違えました。この世界を悪魔から守るすべはないのです」
リノは悪魔から守る対象を国から世界へと格上げした。
悪魔が本気で侵略を開始すれば、この世界の人族は滅びるのだ。
リノは続ける。
「悪魔は、その身体能力の高さから、おそらくこの世界の人族では対抗できません。例え、悪魔が魔法をあまり使わないとしてもです」
悪魔は魔法を使わないわけではない。
もちろん、使う悪魔もいる。
ただし、悪魔はみな機動力が高く、直接的な攻撃の方が性に合っているのだ。
すみれ姫は奥歯をかみしめる。
ラテを殺された。
絶対に許さない。
殺された瞬間すら、気づかなかった自分も許せない。
次は絶対に殺す。
リノが、そして、仮面をつけているラノとレノも目を見開く。
すみれ姫の表情が怒りに満ちている。
高位精霊がここまで感情をあらわにするとは。
ならば、と、リノは続ける。
「そして、悪魔達の目的は、人族で最も魔力量の多い、私なのです」
すみれ姫が口を開く。
「なら、ここにいれば、悪魔がやってくるということ? ここにいれば、悪魔を倒せるということ? ラテの、ラテの仇を討てるってこと?」
すみれ姫の気迫に、レーナとミシェルも覚悟を決める。
ラテを殺された。
あんなにすみれ姫に対して優しかったラテを。
すみれ姫の心を開いてくれたラテを。
もちろん、二人もラテのことが好きだった。
すみれ姫が許せないように、レーナとミシェルも悪魔を許せない。
すみれ姫、レーナとミシェルの感情の高まりが、部屋中の緊張を高めていく。
冷や汗をかいているのはリスベルとアシュリーだけではない。
天使化しているレノ、ラノ、リノ、そして、キルリスすら、この空気をどう収めていいか、わからないほどの緊張感。
だが、タイミングが悪く、空気を読まない男が一人。
「リノさん、この子のことだけどさ」
突然のことだった。
少女を連れた男が、ノックもせずに、許可も取らずに、ふすまを開けて部屋に入って来た。
あまりの怒りにかいせいの接近に気づかなかったすみれ姫たち。
リノ達もかいせいのことなど気にする余裕もなかった。
すみれ姫は、部屋に入って来たかいせいに視線を送る。
そして、かいせいが連れている、かいせいの脇にいる小さな少女を見つけ、その少女が悪魔だと確信する。
悪魔の尾が出ている。
すみれ姫は目を見開く。
すみれ姫は見つけた。
悪魔を。
「貴様、悪魔だなー!」
すみれ姫が大声を上げて立ち上がった。
「レーナ、ミシェル、逃がすな! みんな、力を貸せ、風の刃!」
(逃がさない! アイスウォール!)
(アイスウォール!)
すみれ姫の怒りに同調し、レーナとミシェルがかいせいとキリエの後ろにアイスウォールを顕現させ、退路を塞ぐ。
そして、すみれ姫に従う低位、中位の精霊達が部屋中に展開した魔法陣から風の刃が放たれる。
バシュバシュバシュバシュバシュ……!
同時に、風魔法でラテの剣を抜いたすみれ姫がかいせいに襲い掛かる。
ブォン!
「うわっ! あぶねっ!」
かいせいはキリエを抱えて風の刃やラテの剣をよけ、慌てて逃げる。
かいせいに抱えられてしまったキリエはなすすべもなく、かいせいにしがみつくだけだ。
キリエはこの状況でどうすべきか考える。
狙われているのは自分。
反撃をすべきだろうか。
しかし、かいせいが反撃しないのだ。
反撃しないなりの理由はあるのだろう。
だから、自分も攻撃は控える。
いや、これだけの風属性魔法、よけきれはしない。
となると、かいせいの腕の中が一番安全だ。
(アイスランス! アイスランス! アイスランス!)
(アイスランス! アイスランス! アイスランス!)
「風の刃! 皆! 撃ちまくれ!」
逃げるかいせいを追いかけるように、レーナとミシェルのアイスランス、精霊達の風の刃が部屋中に突き刺さる。
(すーちゃん、こいつ、ラテを殺した奴より速い!)
(どうする?)
「レーナ! ファイアトルネード! 逃がすな!」
風の刃では致命傷を与えられないと察したすみれ姫がレーナに命じる。
(ファイアトルネード!)
ドゴーーーン!
レーナの魔法により、かいせいとキリエを囲むように炎の渦が巻き起こり、天守閣の屋根を吹き飛ばした。




