目指すべき精霊の姿
翌朝、ドアがノックされる。
トントントン
「はーい」
美鈴が返事をするとドアが開く。
一人のメイドが入って来て、何かを言っているが、美鈴にもレーナにもよくわからない。
ただ、ドアを開けて待っている様子なので、ついてこい、と言っているのだろう。
「レーナ、行く?」
「うん。それしかなくない?」
二人はふわふわと浮いて、メイドについて部屋を出た。
魂なので、着替える必要もない。
ちなみに、グレイス、長谷川陵と違って魔力量が多いわけでもないので、死んだ後の魂の状態で人の姿を取れてもいない。
というか、そんなことすら教えられていない。
二人はグレイスの執務室に通された。
「やあ、おはよう」
グレイスが日本語で挨拶をしてくる。
「「おはようございます」」
「昨日はよく眠れた?」
「はい。眠れました」
「私もです」
グレイスが手でソファに座るように促す。
それに従って、レーナと美鈴は魂の体をグレイスとは対面のソファにぽよんと乗せた。
「さて、午前中は暇だから、これから暮らしてもらうこの世界のことを少しだけ勉強してもらおうかと思って」
「『この世界』っていうことは、えっと、ここ、どこです?」
レーナが聞く。
これにグレイスが答える。
「昨日、あのピンクヘアー、あいつ、陽っていうんだけど、どこまで説明してくれた?」
「アイドルになれる世界に行くと」
「それだけ?」
「う〇こをしなくていいアイドルになれると」
実体があれば、レーナはほほを染めているだろう。
アイドルが何度も口に出して言い単語ではない。
「それだけか……。じゃあ、転生については?」
「輪廻がどうのこうのと、女性の方が……」
「あずあず、あずさね。あずさの言うとおり、死んだら魂はクリーニング、つまり記憶を無くされて生まれ変わる。それが輪廻転生。だけど、君達は記憶を持ったまま生まれ変わることになった。この世界でね」
「なんだか、神様みたい」
レーナのつぶやきを無視するグレイス。
実際、陽もグレイスも神様だ。
神様でなければそんなことをしようともしなければできもしない。
「だけど、う〇こをしない動物なんて、あの世界にはいない。だから、この世界に来たんだけどね」
昨日の話から、それはわかる。
「う〇こをしない動物、それがこの世界の精霊なのですか?」
美鈴が確認する。
「うーん。精霊が動物かどうかはよくわからない。自然エネルギーの塊だからね。だけど、人と同じように記憶も感情もある。人とは何も変わらないように見える。僕は魂と自然エネルギーの間に何か共通点があると思っているんだ。確かめようもないけどね」
「「……」」
「ごめんね。僕にもわからない難しい話になっちゃった」
グレイスは三人の妻を呼ぶ。
「れーちゃん、ドライア、ディーネ」
しゅわん!
三人の女性、いや、二人の少女と一人の女性というべきか、白、緑、青を基調とした三人が現れた。
いや、転移してきた。
三人とも精霊ではあるが天使でもあるため、転移ができる。
「「……」」
突然現れた三人に、レーナと美鈴が固まる。
「この三人は僕の妻、れーちゃんとドライアとディーネ。三人とも精霊だ」
「「……」」
レーナと美鈴は未だに固まっている。
何が起こった? マジック?
「もしもし?」
「はっ、今、突然現れましたけど」
レーナが目を見開いて聞く。
目はないが。
「まあ、精霊だからね」
「精霊って、そんなことができるんです?」
「……ごめん、間違った。精霊だからじゃない。転移っていう超高度な魔法を使えるからだ」
天使だから、とは言わないようにするグレイス。
「「魔法?」」
また聞きなれない単語の出現にレーナと美鈴が反応する。
まさに、ファンタジー物語で出てくる単語だ。
グレイスは、指先に炎を顕現させる。
「そう。この世界には魔法がある」
「す、すごー」
レーナが興味深く、その炎を見つめる。
美鈴は沈黙している。
これは、中二病じゃないとついて行けないやつだ、と。
自分も何とか発症させなければと意識を変える。
変えようと努力する。
「だけどね、魔法が便利なおかげで、この世界は君たちの世界のように文明が発達していない」
「ということは、どういうことです?」
何とか美鈴がついてくる。
「歴史の勉強で習ったかな。この世界はおおよそ、中世くらいの文明だと思ってくれたらいい。産業革命前だ」
今度はレーナが沈黙する。勉強、してない。
「じゃあ、電気がないってことです?」
美鈴が聞く。
「お、具体的なところに来るね。正しくは、電気はある。だけど、電気を使う機器、家電や電子機器がない」
「あるのは?」
美鈴が部屋を見回す。
「そう。電球くらいかな」
「そ、それじゃ!」
レーナが声を上げる。
「シンセもエレキギターもないってこと? カメラもプロジェクターも?」
「そうだ」
「それでアイドルを?」
「そんなものが無くても、アイドルはいる。アイドルになれる。それを今日の夜に見てもらう」
「ロッテロッテでしたっけ。あの超絶美少女の二人……」
レーナがれーちゃん達に視線を送る。
「こちらの方々もすごくかわいいし美人、美少女ですけど……」
れーちゃんは当然という表情。
ドライアはにやけ、ディーネはほほを染める。
「そう。まあ、こっちのアイドルがどんなものかは後で見て納得して欲しい。それでだ。ちょっと話がずれちゃったけど、この三人に来てもらったのは、君たちが目指すべき精霊の姿だからだ」




