精霊になる?
残されたのはレーナと美鈴の魂。
グレイスはあきらめて立ち上がり、二人のそばへと歩み寄った。
「二人の名前は?」
「「……」」
リーナも美鈴も何も返事をしない。
「あ、そうか。ごめんね」
と、グレイスは日本語で謝る。
そして、日本語で聞く。
「二人の名前は?」
「えっと、私が美鈴、こっちがレーナです。貴方は?」
「僕はグレイス。よろしく」
「よろしくお願いします」
「それで、えっと、どうしよっか」
「「……」」
グレイスは悩む。
どうしようか、と言われても、どうのしようもないのは美鈴もレーナも同じ。
二人は黙るしかない。
グレイスは第四番世界の言語でれーちゃんに尋ねる。
「れーちゃん、どうしたらいいの?」
グレイスはいいアイデアも浮かばず、精霊のアイドル、れーちゃんに確認する。
精霊にしたらいいんだよね、と。
しかし、れーちゃんはそんなグレイスの意図を読んだりしない。
「どうしたらって、何がだ?」
「この魂、精霊にできるの?」
「神であるお前ならちょちょいだろう。だが、問題がある」
「なに?」
「精霊にも階位がある。どう考えても、低位精霊からだろう?」
「え、高位精霊になれないの?」
「どうやってなるのかもわからないのに、どうやって高位精霊にするのだ?」
「……」
なるほど。
れーちゃんの言い分には一理ある。
グレイスはそう納得する。
さらにれーちゃんは問題点を挙げていく。
「それにだ。今は魂だから私達と話ができる。低位精霊として現実に堕としたら、実体がなければ口もないし、会話もできないぞ? 精霊同士は念話できるかもしれないが、そもそも、低位精霊が会話をしているのを聞いたことがない。低位精霊にして意思があるのか、残るのかすらわからないのだ」
実際には、精霊に意思さえあれば、グレイスや妻達のような神や天使であれば意思の疎通はできるであろう。
だが、世間一般的には高位精霊しか会話ができないうえ、意思を持っているのが高位精霊以上であるため、れーちゃんはそのように言う。
グレイスはレーナと美鈴にもう一度向き合い、日本語で聞く。
「君たちは、う〇こをしないアイドルになりたいんだね?」
「はい! アイドルはう〇こをしません!」
勢いよく答えるレーナ。
シャルロッテもリーゼロッテも苦笑いだ。
だが、同じように美鈴も顔をしかめる。
魂だから顔がないが。
グレイスはそんな二人に提案をする。
「二人とも、ちょっとそのままで一晩を過ごしてくれるかな?」
「どうしてです?」
美鈴が聞く。
「う〇こをしないアイドル、それは精霊のアイドルなんだけどね。一つ目、今ここで精霊になってもらってもいいんだけど、そうすると会話が出来なくなる可能性がある。特に僕らとは。精霊にする前にいろいろとこの世界のことについて説明したい」
れーちゃんも言ったが、神であるグレイスも天使である妻達もメイド達もおそらく精霊と会話ができる。
しかし、できないふりをする。
世間一般に慣れさせるために。
「それから、二つ目、明日、この世界のナンバーワンアイドル、ロッテロッテのミサがある。それを見てほしい」
「ロッテロッテ?」
「ミサ?」
「そう。ここにいる、シャルロッテとリーゼロッテ、二人がロッテロッテ。この二人のステージを見てほしい」
「……」
美鈴が固まる。
そして、レーナがつぶやく。
「さっきから気になっていたんですが、超絶美少女じゃないですか」
シャルロッテもリーゼロッテも、そんなことを言われても照れたりしない。
二人はこの世界で神とも崇められるナンバーワンアイドルなのだ。
グレイスはレーナのロッテロッテに対する意見は置いておいて、話を進める。
「そういうことだから、今日は休んで欲しい。いい?」
「「はい」」
グレイスはこちらの言語でメイドに命じる。
「コルベット! 二人を部屋へ」
「はい、ご主人様」
レーナと美鈴は、ふわふわ飛びながら、コルベットについて行く。
「こちらでお休みください」
コルベットはそう言って去って行く。
もちろん、こちらの言語でだ。
「なんて言ったのかしら」
「ここで休んでって、じゃない?」
「そうよね、たぶん」
二人は部屋に入る。
しかし、部屋に入るなり、美鈴は疑問をレーナにぶつける。
「私達、こんな姿だけど、どうやって休むのかしら。休めるのかしら」
しかし、レーナは美鈴の疑問に答えなかった。
「考えても仕方ないから、私、布団に入るね」
レーナは光の玉のまま、布団に入り込んだ。
そんなレーナを美鈴は見つめる。
レーナが寝ようとしている。
アイドルには休息も必要だ。
体はないけど、美容のためでもある。
なにより、レーナも不安なのだろう。
美鈴はレーナを寝かすことにした。
「レーナ、お休み」
「おやすみなさい」
……
……
だが、こんな状態で、眠れるわけもなく。
「ねえ美鈴さん」
『寝る』と言っていたレーナが美鈴に話しかけた。
「……なに?」
「ここまでのところ、理解できてる?」
「実は、よくとは言えないのだけれど、なんとなく?」
なんとなくであっても、事態を理解できているのであれば、どうすればいいのか、相談はできるだろう。
レーナが美鈴に確認する。
「えっと、私達、死んじゃって、よくわからないけど、今は魂なのよね?」
「ええ、そうらしいわね」
美鈴はくるりと回って自分の姿を確認する。
「で、ここに連れてこられたわけだけど、それはアイドルになれるからよね?」
「ええ、そうらしいわね。あのピンクの髪の人がそう言っていたし」
「で、トイレに行きたくないって言ったら、精霊? それになるの?」
だが、美鈴は首をかしげる。
なんとなくわかっていても、わからないものもあるのだ。
美鈴もレーナに聞いてみる。
「精霊って、何?」
精霊……見たことも聞いたこともない。だが、物語の中ではよく出てくる存在だ。
れーちゃんが精霊だと言われても、普通に人に見える。
「わからない。でも、ファンタジーな話にはよく出てくるけど」
「それ、実際にいるのかしら?」
「さあ、どうかなあ」
とりあえず、わからない存在のことは置いておく。
「でも、レーナ、ここにもアイドルはいたわね」
そんな美鈴の話の転換に、少しだけレーナが表情を明るくする。
顔はないが。
「明日見せてもらえるって言ってたよね」
「ちょっと楽しみじゃない?」
「うん。楽しみ。私、他のアイドルを見るのも好きだから」
「それじゃ、明日を楽しみにして寝ましょうか。考えてもわからないことだらけだし」
「うん。あ、そうだ」
レーナが改めて美鈴に向き合う。
「なあに?」
「美鈴さん、一緒に来てくれてありがとう」
「ふふふ。私、貴方の一番のファンだから」
魂の姿ではあるが、レーナは美鈴に寄りそった。




