冒険者パーティ『精霊様とお姫様』
ミシェルの当然の疑問にすみれ姫が答える。
「レーナが言った」
レーナは言っていない。
すみれ姫が聞き間違えただけ。
(あはははは。すーちゃん。一緒に魔物狩りに行こうか)
レーナがすみれ姫にそう提案する。
(そうね、宿代、払わないわけにもいかないしね)
ミシェルも狩りに行く理由をすみれ姫に説明する。
だが、
(でも、明日だよね)
(そうね、もう遅いし)
レーナもミシェルも明日にすることを提案した。
(そうだ、魔物を狩るのに、道具とかは、この二人持っているのかな?)
「魔物を狩る道具は?」
レーナの疑問をすみれ姫が口にする。
「私は魔法と……すみれ姫様のその剣をお貸しいただけるとかは……」
「いやだ」
ラテの剣は人には貸せない。
すみれ姫は即、拒否する。
「ですよね」
リスベルは事情を知らないが、断られるのは仕方がないと思っている。
武器は冒険者にとって命ともいえる。
「ですが、魔物を狩った証拠として証明部位を持ち帰らなければならないのですが、それを取るためのナイフくらいは必要かと」
リスベルは少なくとも刃物、ナイフが欲しい。
(ナイフかー。正直、すーちゃんの風の刃で何でも切れそうだけどね)
「いらないって」
すみれ姫がリスベルに冷たく言い放つ。
「ですよね。お金もないですし」
リスベルは肩を落とす。
自分はナイフすら持てないのだと。
くぅ。
アシュリーのお腹が鳴る。
「すみれ姫様は食事はいかがされるのですか?」
リスベルがすみれ姫に尋ねる。
精霊なのはわかっているが、自分とアシュリーは何か食べたい。
しかし、二人だけで食べるのは気が引ける。
「あってもなくても」
「ですよね。ですが、せっかくですので、ご一緒しませんか? そのためのお金は明日、頑張って稼ぎますので」
リスベルはすみれ姫を説得する。
食事はすみれ姫にも食べてもらいたい。
(すーちゃん、一緒に食べる? 私達は食べられないけど)
(そうよ。一緒に食べるの、楽しいかもしれないわよ)
そのレーナとミシェルの言葉に、すみれ姫はリスベルに答えた。
「一緒に食べてもいい。楽しいかも知れない。でも、なら、死んでほしくない」
すみれ姫がぽつりとそう言った。
リスベルは思い出した。
先ほどレーナから聞いたことを。
「はい。絶対に、絶対に死にませんから。どうぞ、お供させてください」
「わかった」
すみれ姫が承諾した。
「それでは、下の食堂へ」
一階の食堂に五人で降りる。
もちろん、食事をするのは三人だが。
リスベルは、食事を注文した。
「「「カンパーイ」」」
リスベルはエールを。
すみれ姫とアシュリーは果実水だ。
一口飲んで、すみれ姫が気になっていることを尋ねる。
「リスベルとアシュリーは、う〇ことしっこするのか?」
「「ぶふー!」」
(あ、すーちゃんが)
すみれ姫がリスベルとアシュリーが吐き出したエールと果実水で濡れる。
(リムーブ)
しゅん、と、ミシェルの清浄魔法ですみれ姫がきれいになる。
「な、何を……」
「私は、姫なので……」
リスベルもアシュリーも答えを言いよどむ。
「しないのか」
「します……。なんてこと言わせるんですかー!」
アシュリーが真っ赤な顔して誠実に答える。
クレーム付きで。
((あはははは))
笑っているのはレーナとミシェルだけである。
しかも、苦笑い。
(すーちゃん、明日、何を狩りに行くのかな、どこに行くのかな)
すみれ姫がレーナの代わりに尋ねた質問にリスベルが答える。
「明日ですが、山脈に行くと洞窟があるらしいのです。行くのに一日。滞在が一日。帰ってくるのに一日。三日かかるという想定です」
「じゃあ、宿は引き払うの?」
アシュリーがリスベルに問う。
「ええ。部屋の確保はもったいないですから」
「でも、お金払わないと」
「……」
「お金、あるぞ」
すみれ姫がそう発言する。
「「すみれ姫様ー」」
「すーちゃんと呼べと」
「「すーちゃん」」
すみれ姫は特にこの二人に聞かなければいけない情報もない。
なので、レーナとミシェルの疑問をすみれ姫が代わりに尋ねていく。
「アシュリー、その恰好で森に入るのか?」
アシュリーは自分を見る。
どう見ても姫様だ。
「新しい冒険者のかたちとしてありかも知れません」
「リスベルは?」
「私も、このままでも」
「後は必要なものは?」
「討伐証明を持ってくるリュックでしょうか」
「どうする?」
「お金を貸してくだされば、朝一で用意します。他にも、必要なものがありますから」
「私は何もいらない」
さすがは精霊様だ。
「エルフでごめんなさい」
「人間でごめんなさい」
「ほれ」
すみれ姫はギルドでもらったお金をリスベルに渡した。
「いいのですか?」
「うん」
「ありがとうございます」
「ありがとうー」
翌日、チェックアウトの前に、リスベルは冒険者御用達の店に行き、あらかた装備品を買い集めてくる。
「すーちゃん、いつでも出発可能です」
「うん。行こう」
しかし、そこにアシュリーが水を差す。
「あの、冒険者なので、冒険者パーティは……」
「パーティ?」
すみれ姫が疑問符を頭に浮かべる。
「うん。せっかくだからパーティ組もうよ」
アシュリーが強くそう提案する。
「私はいいが、基本的に、すーちゃんがいいと言わない限りはダメだぞ」
リスベルはアシュリーをなだめる。
すみれ姫が嫌がることはできない。
(すーちゃん、いいんじゃない?)
「いいじゃないか?」
すみれ姫がレーナの言葉に従って、冒険者パーティを組むことを承諾する。
「やった。じゃ、ギルドに寄ろう」
アシュリーは部屋を飛び出して行った。
チェックアウトし、皆で冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドのカウンターに並んでいる冒険者達の後ろにとりあえず並ぶ。
この街は、森が近いだけあって、朝は冒険者の数も多い。
しばらくして順番が回ってくる。
「冒険者パーティを登録したいのだが」
リスベルが代表して受付嬢に依頼する。
「あら、貧乏ゴールド冒険者様じゃないですか」
受付嬢の言葉に、がっくりするリスベル。
「まさかと思うのですが、パーティを組むの、その小さい子じゃないですよね?」
受付嬢は、怪訝な目をすみれ姫に送る。
「そうだが」
「あの、冒険者って十二歳にならないとなれないんですよ」
「すーちゃん、冒険者カードを見せてください」
リスベルに言われ、すみれ姫は冒険者カードを受付嬢に見せた。
「え? プラチナ? こんな小さな子が? 年齢不詳? どういうごまかし方ですか」
「仕方ないだろう」
リスベルは受付嬢に顔を近づけ、小声で言う。
「年を取らない病だ」
「……はいはい。わかりました。カードを見る限り本物ですし」
受付嬢は、その後ろに並んだ列を見て、これ以上のやり取りをめんどくさがった。
「それで、パーティ名は?」
「「……」」
リスベルとすみれ姫が固まる。
が、アシュリーが宣言する。
「『精霊様とお姫様』です」
「「「……」」」
受付嬢までもが固まる。
なんてパーティ名だ、と。、
だが、他人事だ。
事務的に処理してしまおう。
「精霊様とお姫様。受け付けました。はい、行ってらっしゃいませ」




