『じゃ、だめよ』
「そうですよね。すみれ姫様のお考え次第ですよね」
高位精霊であるすみれ姫。
そのすみれ姫がしたくないことはできない。
その通りだと、リスベルも思う。
『それに』
と、ペンを走らせるレーナ。
『私達は、この前、同行していた人間を一人亡くしている』
「え? それはなぜ、それがなぜ同行を拒む理由に……」
その人間はなぜ死んだのか。
すみれ姫達高位精霊と同行することで、死に至るのか。
リスベルは疑問に思う。
『悪魔に襲われたの。その時に、すーちゃんが慕ってた、ううん。私達が慕ってた人間が殺された。私達が大きな魔法を使ったせいで、その人間が大きな魔力を持っていると勘違いされて』
レーナは続ける。
『だから、同じことが起こるかもしれない』
リスベルは拳を握る。
それでもと。
「私は、仮にもキザクラ商会支店長を務めたエルフです。確かに悪魔にはかなわないかと思いますが、お二人の、いえ、お三方の盾にはなれます。精霊様方の盾になれるのであれば、本望でございます」
『じゃ、だめよ』
レーナが即答で同行を断る。
「え?」
理由がわからない。
自分は精霊を崇め、付き従いたいのに。
『すーちゃんの前では誰も殺させない。だから、死んでもいいなんて言う人は、一緒にいられない』
「……」
『それに、すーちゃんは悪魔のことを絶対に許せないと思う。ううん。私達もそう。だから、もし悪魔と対峙したら絶対に戦いになる。貴方、一緒にいたら死ぬわよ』
リスベルは奥歯をかみしめる。
すでに悪魔の実害があったのかと。
しかも、敬うべき対象の精霊達に。
付き従おうと決めていた精霊達に。
そのような理由なら、いつになるかわからないが、悪魔との戦いは避けられないだろう。
自分はまだいい。
自分には戦い勝つことはできなくても、逃げることはできるかもしれない。
アシュリーは。
アシュリー?
リスベルは大事なことを忘れていた。
アシュリーの存在だ。
「レーナ様、話の途中ではございますが、アシュリー殿下を探してきてよろしいですか? 置いてきてしまって」
(……)
レーナは縦に揺れる。
「ありがとうございます」
リスベルは立ち上がって部屋を出た。
アシュリーを放置してしまったのも問題だが、これで考える時間が少しできた。
自分はいい。
アシュリーは戦うすべを持っていない。
多分。
だが、自分がついて行けば、アシュリーもついてくる。
リスベルは宿を飛び出して、西門へと向かう。
が、リスベルは意外とすぐにアシュリーを見つけることができた。
西門へと通じる通りに、人だかりができていたのだ。
おばちゃんが少女を囲っている。
「お母さんはどこに行っちゃったの?」
「お父さんは? 心当たりはないのかい?」
アシュリーは迷子扱いになっていた。
それも仕方がない。
リスベルはすみれ姫に意識を奪われ、どこかへ行ってしまった。
お付きの騎士は国へと帰って行った。
財布には銀貨が一枚しかない。
涙目でとぼとぼ歩いていれば、心配性のおばちゃん達が囲ってくる。
「アシュリー」
その呼び声に気づくアシュリー。
「リスベル!」
アシュリーが涙にぬれた顔を上げ、そう叫んだことに安心してか、おばちゃん達がはけていく。
「よかったよかった」と。
「アシュリー、大丈夫だった?」
「うん。おばちゃん達が慰めてくれてた」
リスベルは、立ち去って行くおばちゃん達に頭を下げてお礼を言う。
聞いているかどうかはおいておいて。
「ありがとうございました。ありがとうございました。ありがとうございました……」
リスベルは、アシュリーの手を取って尋ねる。
「どうしてこんなことに?」
「えっと、あのね。リスベルを追いかけたんだけど、門で門兵さんにつかまって、リスベルを見失って、財布も騎士達が渡してくれたんだけど、銀貨一枚しか入ってなくて、不安になって、街中を探したんだけどリスベル見つからなくって、不安になって、不安になって……」
アシュリーは目に涙をためる。
「すまなかった。精霊様方と、宿に入っていたんだ」
「……」
「一緒に行こう」
リスベルはアシュリーをつれて宿へと戻った。
さて、アシュリーを連れて精霊様について行くことができるだろうか。
自分だけでも難しいかもしれない。
だけど……。
「お待たせいたしました」
リスベルがアシュリーと共に部屋に戻る。
が、反応が無い。
「「……」」
リスベルが口に人差し指を当てて、アシュリーに言う。
「お休みになられたようなので、出かけようか」
二人は、改めて、部屋を出た。
「リスベル、ごめんなさい。私、冒険者カードを馬車に置きっぱなしで来ちゃって」
「仕方ないね。じゃ、冒険者ギルドへ行って、再発行してもらおう」
「でね、リスベルもだと思うけど、着替えがないの」
「!!!」
そう言えば、馬車から飛び出してきた。
っていうか、騎士達、馬に乗っていただろう。
馬車、置いて行けよ。
そうは思っても後の祭り。
「リスベル、お金持ってる? 私、銀貨一枚しかない」
「……財布」
二人で銀貨一枚しかないことが今、判明した。
さて、宿屋の代金、どうしたものか。
「パンツはキザクラ商会のじゃないと嫌だな……」
アシュリーがふとつぶやいてしまう。
だが、リスベルもそれは同意だ。
にもかかわらず、キザクラ商会のパンツは高い。
二人で予備も含めて買ったら、それこそ金貨を請求される。宿屋の代金は払えない。
パンツは買えない。いったいどうしたら。
大きな問題がまた一つ。
「アシュリー、私達はお金が必要だ」
「そうね、真実だと思うわ」
「そのためには、稼がないといけない」
「冒険者としてってこと?」
「そのためには、アシュリー、貴方の冒険者カードが必要だ。なければ街の出入りに銀貨一枚必要になってしまう」
「うん」
「なので、まずは、私一人で依頼を受けてお金を稼ぐ」
「手伝う。手伝うよ」
「本来なら、魔物を狩ってくるところだけど、私、武器も馬車の中で……」
気づいた。
武器も持たずに高位精霊様達に同行するのか……。
頭を抱えるリスベル。
「とりあえず、冒険者ギルドに行く」
二人は、冒険者ギルドへと歩き始めた。




