すみれ姫、襲われる
「ねえ、リスベル」
「何でしょう」
「何でグリュンデール王国は我が国と平和条約を結んでくれなかったのでしょう」
アシュリーとリスベルは馬車に乗って、グリュンデール王国王都を出た。
アシュリーはカッパーランクの冒険者となって。
「えっと、本気で言ってる?」
アシュリーの無知で独りよがりな質問に、リスベルは思わず素に戻る。
「リスベル、どういうこと? 協力関係を得られないって知っていたみたいじゃない」
「そりゃまあねぇ」
リスベルは馬車の外を向く。
それを聞くのかと。
「ねえ、リスベル? 言葉遣いもおかしくない?」
「まず、そこを正しますね。私はもう、アシュリー殿下の依頼を請け負ったキザクラ商会イングラシア支店の支店長ではありません。キザクラ商会統括直属、単なるリスベルです。なので、カッパーランクの冒険者、アシュリーに対する態度なんて、こんなもので充分す」
「……」
呼び捨てにされた。
だが、冒険者ならそんなものかもしれない。
「わかったわよ。いいわよそれで。で、平和条約の件!」
「アシュリーは私達の事どう思ってるの?」
「リスベル達? えっと、エルフってこと?」
「そう」
「私も太らない体質だから同じなんだけど、痩せてる。悪い言い方をすると貧相かな」
「……」
「あれ、違った?」
「いや、合ってる。それで、エルフって言う種族については?」
「えっと、きれいだな、とか? キザクラ商会の制服が似合っているなとか?」
「アシュリーはそうかもしれないけど、イングラシア教の人達は、私達エルフのことを亜人といって、蔑んでくるわよ」
「……」
「で、グリュンデール王国は多種族の国。もともと人間族の国だったけど、初代国王が様々な種族から奥さんをもらっていたから、種族に対する偏見が無い。無くはないかもだけど、薄い。王都に近いほどね。だから、エルフの国王が成り立つし、街には獣人もドワーフもいる。つまり、グリュンデール王国は、イングラシア教を強く信仰しているイングラシア聖王国と相いれないのよ」
「そんな!」
「グリュンデール王国は複雑なのよ。特に初代国王様は父親が人間、母親が悪魔と魔族のハーフと言われているわ。で、その王妃様は、人間、ドラゴン族、獣人、悪魔、(ハイ)エルフ、精霊」
「えっと……」
「まあ、そういうわけだから、イングラシア聖王国とは分かり合うのは無理なのよ。きっとだけど、人間以外を蔑むイングラシア聖王国なんて、滅べばいい、くらい思っているかもよ」
「そんなぁ」
「たとえアシュリーが思っていなくても、イングラシア教がそういう思想なのは事実だわ。キザクラ商会がどれだけ苦労したと思って?」
「ごめんなさい」
「わかってくれたならいいわ」
アシュリーがうなだれた。
二人が乗る馬車は、護衛に囲まれてローゼンシュタインへと向かう道を進んでいく。
すみれ姫とレーナとミシェルはグリュンデール入口の街を出て街道を歩いていく。
しかし、道中でそのまま夜を迎えてしまう。
街を出たタイミングが悪かったこと、すみれ姫のトテトテした足取りでは、次の街にまでたどり着けなかったのと、理由はいろいろだ。
街道沿いにたまたま大きな岩を見つけ、その裏側に座り込む。
(すーちゃん、星が見えるね)
「うん」
(きれいだね)
「うん」
(すーちゃん、ラテのところにいたかった?)
「うん。でも、レーナもミシェルも悲しんでた。それに、ラテはここにいる。私は、レーナとミシェルの体を見つけて、三人でラテのところに行く」
(すーちゃん、ありがとう。私も、いつかすーちゃんに恩返ししなきゃね)
(私もだよ)
レーナに続いてミシェルもすみれ姫に感謝の意を伝える。
が、突然三人が警戒する。
あの時から、警戒を怠らないようにしている三人。
近づいてくるものがあれば、理由によっては先制攻撃も辞さない心づもりだ。
もう、誰も傷つかない、傷つかせない。
シュッ!
突然の空気を裂くような音。
すみれ姫が首を傾けてよける。
突然ナイフが飛んできたのだ。
動きの遅いすみれ姫。
体を狙われていたら危なかった。
「あれー、よけられちゃったかな」
月明かりの下、声が聞こえる。
「誰?」
すみれ姫が尋ねる。
が、今度は左からナイフが飛んでくる。
シュッ!
(すーちゃん、声を出しちゃダメ)
すみれ姫は黙って頷き、風属性魔法でナイフを逸らせる。
ナイフがさらに何本か飛んできて、それをすべて逸らせるすみれ姫。
「あれー、俺、今日、調子悪いのかな? それとも、何かしてる?」
「……」
「ねえ、聞いてる?」
「……」
「ちっ、やりがいのねぇの。おいちびっこ、お前、人を殺して馬車ごと荷物を奪ったらしいじゃん。金もらったの?」
「……」
「その金、渡してもらおうか」
「……」
「……しゃべらねえの? ビビってんの? まあいいや、殺してから奪ってもな」
シャリン。シャリン。
どうやら、男が二人いる。二人とも剣を抜いたらしい。
「おい、そのガキは連れて来いって会長が言ってただろう」
「そっか、そうだったっけ。事故死じゃダメか?」
「お前ひとりで叱られるんならいいけどな」
「じゃあ、治せるぐらいになら痛めつけてもいいかな?」
「だから、お前が叱られろよ」
「じゃあ、死ね……」
シュン、ゴトン、ドサッ。
言いかけた男の首が落ち、体が崩れ落ちる。
「な?……」
シュン、ゴトン、ドサッ。
次いで、もう一人の男の首も落ちた。
すみれ姫の背中の鞘に、ラテの剣が納まる。
((すーちゃん……))
「聞くに堪えなかった」




