キリエ、グレイスに出会う
翌朝。
トントントン
「副船長! 入ります」
乗務員が部屋に入ってきた。
「ん……」
ラキアが乗務員の呼びかけに目を覚ます。
「副船長、気づかれたのですね、よかったです」
「ありがとう。でも、何が……」
当然のことながら、倒れてからの記憶がない。
「副船長が倒れられた後、本国から治癒魔導士様が来られて、副船長を治療されました」
「そう、助かったわ」
ラキアは、自分の布団を見る。
なぜか盛り上がっている。
「これは?」
そのこんもりを指さして、ラキアは尋ねる。
「めくってみたらいいかと」
「……」
ラキアは膨らんだ布団をはいでみる。
そこには、丸くなったキリエが。
「キリエ……」
ラキアは、ほほを染める。
かわいい……。
「その子、ずっと離れなかったんですよ」
乗務員はラキアにそう報告した。
「そうなんですね」
ラキアは、丸まっているキリエの髪をなでながら、
「キリエ、ありがとう」
と、お礼をつぶやいた。
「ん、んん」
キリエが目をこすって体を起こした。
そして、同じく上半身を起こしているラキアにキリエが気づく。
「ラキア!」
キリエがラキアに抱きついた。
ラキアもキリエを抱きしめ返す。
「ラキア、よかった。よかった」
キリエは、抱きついたまま、ラキアの胸元におでこをぐりぐりする。
「キリエ、様。ずっといてくださったのですね。ありがとうございます」
「ラキア、こっちがありがとうだよ。私の事、やけどまでして守ってくれて、ありがとう。ありがとう、ラキア」
「キリエ様も無事でよかったです」
ラキアがキリエの髪をなで続ける。
「こ、コホン」
乗務員がわざとらしく咳払いをする。
自分がいることを忘れないでくれ、と。
「あ、起こしに来てくれたのね。ありがとう」
起こしに来た乗務員にラキアがお礼を言う。
「朝食、どうされます? 適当でいいです? 持ってきますね、二人分」
「よろしくね」
二人は、部屋で朝食を一緒に済ませた。
「もうすぐ入港します」
食器類を下げに来た乗務員がラキアに報告する。
「そう、ありがとう」
「副船長は、今日はお休みでよろしいかと思いますので、そのままで」
そう言って、乗務員は部屋を出て行った。
「キリエ様、旅を続けるのですね」
ラキアがキリエに確認する。
この階層では悪魔が旅をするのは難しいかもと、ラキアは心配する。
「うん。旅になるかわからないけどね。ラキアが私の事、守ってくれたから。私も頑張ろうって思った」
「そうですか。悪魔にはつらい世界かも知れませんよ」
「うん。でも、昨日、ソフィリア様が、一緒に来たらって、誘ってくれたの」
「そうなのですね。よかったです。あ、昨日来てくださったのは……ソフィリア様なのですね」
ラキアはほほを染める。
ソフィリアはソフィローズの創始者、エルフ達の憧れの一人。
「キリエ様、お願いがあります。私、ラキアがお礼を。感謝していたと、ソフィリア様に」
「うん。絶対に伝える」
ガガガ……
船が接岸する。
「キリエ様、行ってください。好きなこと、好きなものがいっぱい見つかりますように」
「ありがとう、ラキア。いっぱい好きなものを作って、話しに来るね」
最後にもう一度、キリエはラキアに抱きつき、
「それじゃ、行ってきます」
そう言って、部屋を飛び出した。
目から涙を流しながら。
でも、笑顔で。
前を向いて。
閉まったドアにラキアが言えることは一つだけ。
「行ってらっしゃい」
船のタラップから降りながら、キリエは迎えに来てくれているであろう人を探す。
「そう言えば、どんな人が来てくれるか、聞いてなかった」
キリエはきょろきょろ見回しながら、トコトコと岸壁を歩いていく。
すると、後ろから小声で声がかかった。
キリエは固まる。
気づかなかった。
「悪魔子ちゃんですか?」
私へのその呼び方、ソフィリア様のそれと同じ。
ということは、この人が迎えに来てくれた人。
しかし、気配が全くなかった。
キリエは振り向く。
そこには、足元まである真っ黒なコート、いや、制服? 軍服? を着た兎人族が立っていた。
顔は、仮面をつけていてわからない。
黒い帽子をかぶっていて、そこからうさ耳が伸びている。
「悪魔子ちゃんですか?」
もう一度、兎人族が聞いてきた。
「はい。えっと、ソフィリア様の言われたお迎えの方でしょうか」
「そうです。それでは、ついて来てください」
兎人族の女性は、すたすたと歩き始めた。
キリエは兎人族について行く。
兎人族の女性は、全く後ろを振り向くでもなく、街の中へと歩いて行く。
どこへ行くんだろう、と、しばらく歩いていると、女性は、一軒の商会に足を向けた。
知っている。
猫のマークの商会。
キザクラ商会だ。
女性は、全く気にすることなく、商会の奥へと歩を進める。
キリエもついて行く。
商会の店員であるエルフ達は、誰もそれを気にしない。
階段を上り、商会の会議室へ。
「バニー、ありがとう」
「はい。旦那様」
キリエは、これまでついて来たバニーと呼ばれた兎人族の後ろから顔を出した。
「君が悪魔子ちゃんか」
「お初にお目にかかります。私はキリエ・ピエートルと申します。ピエートル家の娘です」
「ご丁寧にどうも。僕は、グレイス。こっちはバニー。僕の妻」
「……」
キリエは目を丸くする。
グレイスって名前の人。
この人には魅了か効きそうにない。
きっと私よりずっとずっと強い。
最強の悪魔を生むために、この人がいいのかな?




