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ソフィリア登場

 騎士達と乗務員エルフ達のにらみ合いを収めたのは夫人だった。


 夫人は老人から離れ、キリエの下に歩いて向かう。

 騎士の間を通って、乗務員の間を通って。


 そして、ラキアを抱きしめているキリエ脇に膝を降ろし、キリエの肩に手を当てて優しく言葉をかける。


「お嬢ちゃん。帽子を取ってきてくれてありがとう。感謝するわ」


 キリエは帽子を夫人に渡す。

 だが、それでラキアの状態が良くなるわけじゃない。

 キリエは藁にも縋る思いで夫人に頼み込む。


「ラキアを。ラキアを……」


 しかし夫人が治癒魔法を使えるわけではない。

 夫人はゆっくりと立ち上がり、そしてこれまでの夫人らしからぬ声を上げる。


「剣を納めなさい!」


 そして、乗務員にも声をかける。


「この方の治療を早く!」


 その声に、騎士が剣を納めるより速く、乗務員が担架を持ち出してラキアを船内に運び込んだ。

 また、別の乗務員が茫然としているキリエを抱えて船内に入って行った。


「お前、あれは悪魔なのだぞ!」


 貴族の老人が夫人にそう言った。

 なぜ悪魔を放置するのか、助けようとするのかと。

 しかし、夫人は老人をたしなめるように言う。


「あなた、私の大切な帽子を拾ってくれたあの子に、なんてことを言うんですか。この帽子は、貴方が私にプレゼントしてくれた帽子なんですよ。私の大切な帽子なんです」


 そして、夫人は老人に断言する。


「私は、あの子に感謝しているんです」


 老人は、ため息をつき、そして命じる。


「お前ら。下がっていい」


 騎士達はその命令に甲板後方へと下がって行った。





 医務室では、ラキアがベッドに寝かされていた。

 制服は脱がされ、やけどをした顔や耳、手には薬を塗られ、上から包帯を巻かれている。

 髪は、焦げたまま。


「ラキアを治して。ラキアを!」


 ベッドの横でキリエが叫ぶ。

 船医らしきエルフがキリエに言う。


「キリエ様。とりあえず落ち着いてください。そして、その翼をしまってください」

「はっ、ごめんなさい」


 キリエは翼を消す。


「でも、ラキアを」


 その願いに船医は答える。


「申し訳ありません。実は、副船長は魔力量が多く、治癒魔法をかけられるものがいません。ですので、いま、救援を呼んでいるところなのです」

「治癒魔法をかけられる人が来るの? いつ? すぐに?」


 船医は首を振るだけだ。


 ちなみに、この世界に携帯電話はない。無線もない。

 ただし、念話の使える者がいる。

 ドラゴン族だ。


 船には、客員通信士としてドラゴン族が一名、配属されている。

 ここに配属されると、アエオンからイングラシアの往復五日間、三食昼寝付き、訓練無し、通信が必要になる事態もほとんど無し、ということで、人気の配属先だったりする。

 そのため、交代制である。


 トントントン


 ノックの音がして、一人の女性が入ってきた。

 赤髪。

 赤ドラゴン族の女性だ。


「二時間ほどだと。迎え入れ、よろしく」


 それだけ言って、赤ドラゴン族の女性は去って行った。


「キリエ様、二時間後には治癒魔導士様が来ます。だから、安心していいと思います」


 船医はキリエを慰める。

 しかし、キリエは二時間も待っていられない。

 落ち着いてなんていられない。


「ラキア、ラキア……」


 包帯の巻かれたラキアの手を握り続けるキリエ。


「それではキリエ様、私達は治癒魔導士様の受け入れ準備をしてきますので、ラキアの事、よろしくお願いします」


 そう言って、船医や他のエルフも部屋を出て行った。


「ラキア、後二時間で怪我が治るから、頑張って……」


 キリエはラキアの焼けた手の甲を自分のおでこに当てた。





 デッキでは、受け入れ準備が始まる。


「ラキアの魔力量が多くて助かったわ。本命が来る」


 この海上まで二時間で来られるのは、ドラゴン族か、グレイス直属航空艇団所属の高速仕様クジラ四号機のどちらか。

 だが、ドラゴン族に乗せてもらえる者は少ない。

 よって、来るのはクジラ四号機。

 また、クジラであればローゼンシュタインからやってくるはず。

 ならば、来る治癒魔導士は大物。

 粗相があってはいけない。


「お客様方を船内に!」

「特に男性はデッキ上に残すな!」





 夕方になり、通信から二時間がたつと、予定通りに上空に真っ黒な機体が現れた。


「来た。皆の者、デッキへ!」

「皆、跪いて下を向け。同性であっても絶対にスカートの中を覗くな!」


 デッキ上でエルフ達が円を描いて跪いて待っていると、クジラ四号機が船の上に最接近してホバリングする。

 すると、搭乗口を開けて飛び降りてくる女性が一人。


 案の定、ソフィローズの真っ白なワンピース。

 そこらへちょっと出かけてくるわ、的な装い。


 女性はスカートをふんわりと膨らませて、デッキに降りたつ。


「お越しくださり、ありがとうございます、ソフィリア様!」


 エルフの船医がうつむいたままソフィリアにお礼を言う。


「うん。遅くなってごめんねー」


 軽い調子で返すソフィリア。


「で、患者さんは?」

「は、ご案内いたします」


 ラキアが寝ている部屋へとソフィリアは案内された。




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