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ラキアとの食事

「これは?」


 キリエはテーブル上の、皿に乗ったトーストを指さす。

 普段食べていたトーストと何かが違う。

 バターやジャムを乗せるのではなく、すでに黄色いし、ところどころ焦げが。


「フレンチトーストです。卵と砂糖を牛乳に溶いたものにパンを浸し、焼いたものです。その白い粉はお砂糖、オレンジ色のとろっとしたのははちみつです。さ、食べましょう」


 キリエはフォークとナイフでフレンチトーストを切り取り、口へと運ぶ。


「おいしい……」


 キリエはフレンチトーストを見つめる。

 粉砂糖がかかった方も、はちみつがかかった方も、どちらもおいしい。

 ほほが落ちるのではないかと思うほどだ。

 こんなパンの食べ方があったのか。





 キリエは二枚のフレンチトーストを食べて満足した。


「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」


 二人は微笑み合う。


「さて、私は仕事に行きますけど、キリエ様はどうされます? とは言っても、お部屋かデッキで景色を見るくらいしかないのでしょうけど。景色も一面海ですし」


 と、ラキアは笑う。


「外を見て、疲れたら部屋で休む」

「それがいいですね。あ、お昼も一緒にどうですか? お部屋で待っていてください。呼びに行きますから」

「うれしい。ありがとう」


 そのようにお昼ご飯の約束をし、ラキアは仕事に行った。


 キリエは、もうしばらく食堂に残ることにした。

 おなかが一杯で動けないのだ。


 周りを見回すと、皆が楽しそうに食事をしている。

 確か、避難のためこの船に乗っている者が多いと言っていた。

 不安だろう。

 心配だろう。

 それでも、笑っていられるのは、この船の、この食事のおかげなのか。

 ラキアや妖精達のおかげなのか。


 そんなことを考える、辺境伯令嬢の六歳児。

 小さいとはいえ、領主の娘としての自覚はある。

 領民に安心感を与えるのも、領民を喜ばせるのも領主の役割だ。





 キリエは立ちあがり、デッキへと向かう。

 船が大きいせいか、あまり揺れない。


 空は快晴。

 青がどこまでも広がる。

 デッキには、何人ものグループが海を見ながら話をしていた。

 貴族風の夫婦、親子。

 後ろの方では、騎士風の人たちが剣をふるって鍛錬をしている。


 キリエもベンチに座って海を眺めていた。


 確かに風景が変わらない。

 でも、自分の翼で飛ぶでもなく、こんなにゆっくりと景色を眺めていられることもなかなかない。

 もっと小さな時に、父様に抱えられて空を飛んだ時くらいか。


 ブルッ。


 まだ春先の朝方。

 少し肌寒い。

 キリエは船内の自分の部屋へと戻った。





 トントントン


「お昼に行きませんか」


 ラキアが昼食を誘いにやって来た。

 キリエは座っていたベッドから飛びおり、ドアに手をかける。


「うん。行く」


 二人は食堂に向かう。


「キリエ様、先にテーブルについて待っていてくださいね。昼食を持って行きますから」


 ラキアはキリエをテーブルに置いて、昼食を取りに行った。


 キリエは周りを見回す。

 やはり同じように船に乗っている人たちは笑顔だ。

 自分達悪魔がこの階層にやって来たせいで、不安であろう。

 しかし、今だけは違いそう。

 キリエは少しホッとする。


 そこへ、ラキアが食事を持って戻ってきた。


「キリエ様。昼食はラーメンにしましょう」


 そう言って、キリエの前に少し小さめのラーメンどんぶりを置く。


「熱いので、フォークですくってふーふーして食べてください」


 ラキアは髪を左手で耳にかけるようにかき上げ、ラーメンを箸でつまんで食べて見せる。

 キリエもフォークで麺をすくい、フーフーしてから口に入れる。


 ちゅるん。


「……!」


 フーフー、ちゅるん。

 フーフー、ちゅるん。


 キリエは夢中になって食べる。

 それを見て微笑むラキア。


 多少ラーメンスープが飛び跳ねるくらい、後で拭けばいい。

 おいしそうに食べているキリエにラキアは満足する。





 ラーメンを食べ終わり、お腹をさするキリエにラーメンのことを教えるルキア。


「このラーメンなんですけど、スープの出汁が大事らしくて、海に生えている草から取っているそうなんです」

「海の草?」

「はい。これを作ったのはグリュンデール王国初代国王様とその奥様の一人のソフィリア様らしいです。なので、このラーメンスープもキザクラ商会で扱っているんです」


 なるほど。

 こんなすごくおいしい物があるなんて、リーゼロッテ様がこちらに住むわけだ。


 と、改めて納得するキリエ。


 ん? ソフィリア様?

 どっかで聞いた事が。


 でも今は考えられない。

 血が頭に巡っていない。

 消化に全力を費やしている。


「こっちで旦那様を見つけられたら、こっちで住めるのかな……」


 ぽつりとつぶやいてしまうキリエ。

 それを、子供らしいと微笑むラキア。

 こうして接してみると、悪魔の子供もやっぱり子供だ。


「腹ごなしに、少し外を歩きましょうか」


 ラキアはキリエをデッキに誘った。


「お仕事は?」

「もうちょっとだけお昼休憩です」





 ラキアとキリエは手をつないでデッキを歩く。

 デッキには同じように腹ごなしなのか歩いている人、海を眺めている人、話をしている人など、さまざまな人がいる。


「ちょっとベンチに座りましょう」


 ラキアはベンチにキリエを誘って二人で座った。




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