お腹いっぱいのキリエ
キリエは、教わった食堂に歩いて行く。
食堂にたどり着くと、その入口では妖精が浮いて客を出迎えていた。
キリエの下にも、二人の妖精がやってくる。
「いらっしゃいませ、キリエ様。ラキア副船長より聞いております。テーブルは少し高くなっておりますので、言いつけてくだされば私どもがお取りしますね」
「ありがとう」
キリエは辺境伯令嬢。
よって、自分で食事を選んだこともなければ運んだこともない。
「キリエ様、どれをお取りしましょう」
妖精は一人がトングを、一人が皿を持っている。
「こっちのお肉と、そっちのお肉……」
「お肉だけでは栄養が偏りますので、こっちのお野菜も取りますね」
「……」
自分で選べるのは嬉しいが、ここにも母上のような人がいた。
そう思うキリエ。
「パンになさいますか? ご飯にします?」
「ご飯?」
キリエは首をかしげる。
ご飯とはなんだろう。
「はい。今お取りしたお肉、生姜焼きにとても合いますよ」
「では、ご飯」
試しに食べてみることにする。
「はい。ご飯を用意します。それでは、テーブルへ行きましょう」
キリエは妖精にテーブルへと案内される。
椅子に座ると、目の前に皿とカトラリーが置かれた。
「お飲み物は何になさいます?」
「果実水を」
「はい、かしこまりました」
妖精が果実水を持ってくる。
「それではごゆっくり。何かありましたら、手を上げてくだされば私どもがやってきます」
そういって、妖精は去って行った。
「ご飯?」
キリエはご飯をスプーンにすくって口に入れる。
かみかみかみかみ。
ごっくん。
うーん。温かいし甘みがあって、おいしいと言えばおいしい。
だけど。
そういえば、確か、肉に合うって。
そう思いだして、生姜焼きと言われた肉を口に入れる。
「むふー!」
おいしい。
甘辛で味が濃くて、そして肉のエキスと脂が口の中に広がって。
うん。
その余韻が残っているうちにご飯を口に放りこむ。
「んー!」
おいしい。
パクパクと肉と米を食べるキリエ。
そう言えば、野菜……。妖精は何を取ったのか。
お椀を見ると、
スープ?
白くてドロッとした液体の中にごろごろと野菜が入っている。
なにも、野菜をこんなに大きいまま煮なくても。
それにこの見たこともない白いスープ。
キリエはニンジンをグサッとフォークで刺し、意を決して口に放りこむ。
「ん?」
おいしい。
ミルク煮なのか。
それにしてはスープはドロッとしている。
見たこともない料理だが、おいしい。
キリエはニンジンだけでなくジャガイモ、玉ねぎ、ブロッコリーなど、食べていく。
野菜がこんなにおいしくなるとは。
「はふっ。おいしい。でも、ご飯はここまでにしなきゃ」
キリエはそっと手を上げる。
「キリエ様、御用でしょうか」
「何か、お持ちしますか?」
妖精が二人やってきてキリエの要望を聞いた。
「えっと、デザートを」
「いろいろありますが」
「カステラサンド……」
「はいございます。持ってまいりますが、他にも食べてみます?」
「うん!」
「それでは、少しずつ、いろいろ持ってまいります」
と、妖精二人は飛び立った。
そして持ってきたもの。
小さなケーキがいくつか。
カステラサンド、プチシュークリーム、チョコケーキ、イチゴショート、アイスクリーム。
キリエは、目を丸くして、様々な形、色のケーキを眺める。
「はい。召し上がれ」
その妖精の一言で、キリエはフォークをカステラサンドに突き刺した。
ちょっと小さいけど、また頼んでもいいか。
ぱくん。
うーん、安定のおいしさ。
隣のは……フォークで、コロン。
「プチシューは指でつまんでそのままお口へどうぞ」
プチシューも口へ放りこむキリエ。
サクッ、トロッ!
「おいしー!」
「こっちのこれは?」
「アイスクリームです。スプーンですくって食べてください」
キリエはアイスクリームをスプーンですくって口に入れる。
冷たっ、あまっ、溶ける。
おいしい。
キリエはほほに手を当ててうっとりする。
「もしよろしければ、また持ってまいりますので」
「この、アイスクリームを」
「はい!」
キリエはチョコケーキもショートケーキも完食し、お代わりのアイスクリームまで食べて満足した。
「お腹いっぱい」
おなかをさすっているキリエに、妖精が尋ねる。
「どうでしたでしょうか」
「おいしかった。もっと食べていたいけど、もうおなかが一杯で」
「よかったです。スケジュール的には、明日の朝昼晩、そして明後日の朝食まで食べていただけますので、他にもいろいろと食べてみてください」
「はい。ごちそうさまでした」
キリエはおなかをさすりながら部屋に戻り、ベッドに横になった。
正直、座っていられなかった。
だが、食事に満足し、横になったらやってくるのは睡魔。
キリエはそのまま眠りについてしまった。
トントントン。
「キリエ様、朝です。よろしければ朝食をご一緒しませんか?」
部屋へやってきたのはラキアだった。
キリエはドアを開けてラキアを招き入れる。
「ちょっと待ってて」
と、目をこすりながら。
「あらあら、昨晩はそのまま寝てしまわれたのですね。ちょっとお待ちください」
ラキアはそう言って、洗面からお湯で濡らしたタオルを持ってくる。
「はい、お顔を拭きますよ」
と、キリエの顔を拭いて行く。
「髪もとかしましょうね」
と、左右のお団子をほどき、櫛でとく。
とき終わると、ラキアは器用にまたお団子を作った。
「ありがとう」
キリエは差し出されたラキアの手を取り、部屋を出た。




